6話 初任務
初任務当日。
「任務中はこれ着けてろ」
朝霧は異能治安局東京支部の近くに停めた車の中でバッグの中から1つの仮面を取り出した。
「仮面?しかもなんか趣味悪いなぁー」
渡された仮面は艶のない黒色で、額から頬、口元のかけて縫い目のような溝がいくつも走っている。
「文句はうちの仮面技師に直接言え。お前の能力のイメージからそうなったらしい。とりあえず正体バレたらめんどくせーからつけとけよ。」
そう言うと、朝霧もバッグから自分用の仮面を取り出し、装着した。
朝霧の仮面は白よりのスモークグレーみたいな感じの色で、波紋みたいな模様が入ってる。
これも朝霧の能力に由来するデザインなのか?
「なあ、朝霧の能力ってなんなんだ?」
「……リグレッションだ。説明はめんどくせーから、見て感じろ」
あとで九条さんにでも聞こう。
たぶん見てもわからん。戦ってもわかんねーんだから。
「それと、今回の任務だが、異能治安局に侵入して支部長室のPCから支部隊員の情報を入手することだ」
「初っ端から難易度高くないか?」
「まあな……。俺がデータ抜き取るからその間はお前に見張りを任せる。」
「わかった。でも支部長室なら支部長がいるんじゃないのか?」
当たり前だが、支部長室には基本支部長がいるだろ。そしてかなりの実力者だと言うのは世間の常識だ。
もしかして暗殺でもするのか?
「支部長の峯岸拓真は今日は本部に招集されてて留守のはずだ。もし万が一、峯岸に遭遇したら全力で逃げろ」
峯岸拓真……、俺をシャドウウルフから助けてくれたおっさんか。あの人支部長だったんだな。
「全力で逃げろって……、そんなに強いのか?」
短い付き合いだが、朝霧の強さは理解している。
その朝霧がここまで言うってことは相当ヤバいんだろう。
「支部長は全員戦闘力がSSランクだ。そして、峯岸の能力は推測でしかないが、おそらく“視界に入ったものを斬る”能力だ。」
見られたら終わりってことか。
え。
強すぎないか?
だけど、俺が昨日新しく手に入れた能力ならなんとかなるかもな。
「まあどっちにしても今日はいないんだろ?さっさと終わらせて帰ろうぜ!」
俺はそのまま仮面を装着して車を出る。
朝霧も後から車を降りると、俺たちは異能治安局の裏口へと向かった。
◇
異能治安局東京支部内部
「支部長室は3階にある。非常階段を使って上がれば局員とは遭遇しづらいはずだ。」
「了解」
仮面の内側には小型の通信機が付いており、小声でもお互い会話ができるようになっていた。
見た目は仮面をつけた不審者。
見つかれば即アウトだろう。
俺たちは、素早く局内を駆けていく。
◇
異能治安局東京支部3階
「廊下は誰もいないみたいだ。」
非常階段の扉から少しだけ開けて廊下を確認するが、今なら大丈夫そうだ。
「支部長室はこの先だ。今のうちにいくぞ」
俺たちは非常扉から飛び出し、そのままなるべく足音を立てないように支部長室へ向かった。
角を曲がると、支部長室が見えた。
ここまでは遭遇なし。
これってかなり順調じゃないか?
朝霧が支部長室の扉に耳を当てて中に人がいないか確認した後、俺たちは支部長室への侵入に成功する。
鍵もかけないなんて不用心だぞ、峯岸のおっさん。
朝霧はそのままPCの前に行くと慣れた手つきでデータを読み取っていく。
「パスワードとか大丈夫なのか?」
「問題ない。うちのメンバーの能力でパスワードは把握している。」
「色んな能力があるんだなー」
朝霧がデータを読み取っている間、暇だからデスクに置いてあったお菓子を食べながら室内を物色する。
コツ…コツ……
「誰か来たぞ!」
一気に心拍数が上がったのが分かる。
ここは俺の仕事だ。
朝霧の作業の妨害はさせない。
「……任せたぞ。」
「ああ…」
ドク…
ドク…
ドク……
俺は扉の視覚に移動すると、動体視力強化と脚力強化を発動させる。
カチャッ
ついにドアノブが回った。
朝霧は扉に目も向けず、作業に集中している。
完全に俺に任せるつもりだ。
オーケー……やってやるよ。
支部長室に入ってきた男は黒に近い濃紺の髪をオールバックで硬め、スモークがかかったサングラスをかけていた。
「マジか……。」
俺はこの男のことを知っている。よくテレビ出ている有名人だからだ。最近もA級犯罪者を1人で傷を負うことなく鎮圧させた近接格闘のスペシャリスト。
名前は確か、神崎優斗。
「侵入者……?お前は……エコーか!」
神崎は、朝霧を見るなりそう呼んだ。
エコー?これもなんか聞いたことあるぞ。確かS級全国指名手配犯の呼び名もエコーだったような。
つうか、初戦の相手がこの人かよ。スパルタすぎないか?
俺は、神崎が朝霧に気を取られてる隙に急接近し、
ハイキックを狙った。
「すまねーが、寝といてくれ!」
巷のヒーローを蹴っ飛ばすのは気が引けるが、ここは異能治安局。
戦いが長引けば、応援が来る可能性がある。
「もう1人いたのか……!」
神崎は直前で俺に気づくがもう遅い、このタイミングだったら避けるのは不可能だ。
だが、結果的に俺の蹴りは当たらなかった。いや、当たったはずだが何かに当たった感触がなく、そのまま神崎の体をすり抜けた。
「まずは1人…!」
神崎は素早く腰からサバイバルナイフを取り出すと、俺の動体を切り付けた。
「ぐあっ!」
胸に裂傷ができる。
俺の血液が支部長室の床を赤く染める。
だがそれもすぐに収まり、胸の傷はまるで逆再生されたかのように瞬時に塞がっていく。
昨日塩を撒いて殺したプラナリアの再生能力だ。
「再生能力…?レアな能力者だ。その仮面は初めて見るが新人か?」
神崎は落ち着きを取り戻すと、俺に向き直った。
どうやら朝霧が参加してこないと踏んで俺を標的に絞ったようだ。
「余裕こいてんじゃねー!」
俺は再び接近し、蹴りを放つ。
すると、また俺の蹴りがすり抜けた。
「おわっ!」
神崎はフッと息を吐くと、体勢が整っていない俺にまたナイフで切り付けてくる。
どうせかわせねーなら……!
俺は向かってくるナイフに構わず、崩れた体制のままタックルをかました。
「カハッ…!」
神崎が吹っ飛ぶ。
「おし、当たった!」
また切り傷を負ったが、こっちはすぐに再生する。
やっぱりか、攻撃してくる時はそのすり抜ける能力は解除しないと俺にも攻撃当たらねーもんな。
神崎は静かに立ち上がると、ずれたサングラスを掛け直し、無言で俺に向かって突っ込んでくる。
俺は神崎の動きを見極めつつカウンターのタイミングを狙う。
「もう見切ってるんだよ!」
神崎のナイフによる一撃に合わせて、俺は神崎の顎に右ストレートを放つ。
神崎は俺が攻撃動作に入ったのを確認するとニヤッと笑う。
「あれ?」
俺の拳がすり抜けた?
いや、神崎の攻撃が当たった感覚もない。
神崎の伸びた腕を辿ると、手首から先が俺の胸の中に入っていた。
透過能力か……!
次の瞬間。
ゴポッ
俺は口から大量の血を吐いた。
「まだまだ経験が足りなかったな。」
こいつ、俺の体の中で腕を実体化させたのか……。
頭に血流が回らなくなり、意識が遠ざかっていく。
そして神崎は素早く腕を抜き取ると、素早く俺の首を切断した。
「流石に新人にいきなりS級隊員は厳しかったかー。」
朝霧はPCからUSBメモリを抜くと、ポケットにしまう。
「今ポケットにしまったもの、置いていってもらおうか。」
神崎優斗は床に倒れてピクリとも動かない湊を一瞥すると、ハンカチで手についた血を拭き取りながら、朝霧と対峙する。
「えー、勘弁してくれよ。尊い命を犠牲にして手に入れたデータなんだ。これを渡してしまったらあいつが報われないだろ?」
「安心しろ、お前もすぐに同じように殺してやる」
「隊員ごときが俺を?それは無理な話だろ」
そう言って朝霧は大袈裟に笑う。
「相手があの『エコー』だろうと、俺は負けない」
「えーっと、神崎君だっけ?君はもっと現実を見るべきだ。戦局を見誤ると、そこにあるのは……死だよ」
朝霧は何かを確信してるかのように言うが、神崎は朝霧の言葉を理解できず。眉間に皺を寄せる。
「そうやって適当なことを言って時間稼ぎをしても無……だ……」
そこで神崎優斗は意識を永遠に失った。
「仕返しだ……。ざまあみろ」
神崎の背後から俺は腕だけ黒狼化させて心臓を貫いた。
またすり抜けるか心配だったが、どうやら神崎の意識内でなければ発動しないようだ。
「及第点だな。脱出するぞ」
神崎から奪った能力を確認しながら俺は朝霧の後を追った。




