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@イヴの夜③

瑞希は、なにも言わず、俺の足に抱きついてきた。

肩が震えていた。


瑞希を抱きしめた。

冷えきった身体。


「…帰ろ?」


瑞希は小さく頷いた。


瑞希のバッグを自転車のカゴに乗せ、歩きだした。

時々、立ち止まっては、ため息をついていた。頬には涙のあとがあった。


大通りまで出て、タクシーを止めた。ありがたいことに、榊の自転車は折り畳み式だったから、荷台に入れてもらって走ってもらった。

タクシーで移動する間、瑞希はなにも言わず、俺の手をにぎっていた。


「なぁ、あの先輩は?」

「……」

「一緒じゃなかったのかよ」

「…はずだったよ」

「じゃぁ、なんで?」

「…知らなかったよ。私、ずっと、2番目だった…」

「は?」

「先輩、彼女いたんだよ。ずっと…」

「え?」

「大学、ちがってて、学校では会わないから。それに…」

「それに…?」

「…ううん。なんでもない….」

これ以上は、瑞希はしゃべらなくなった。


タクシーは、瑞希のアパートの近くのコンビニで降りた。

軽くつまめる物と、ビールとワインと、売れ残ってたショートケーキを1個買って、部屋まで歩いた。

その時には、涙の後も消えかかっていて、たわいない話に笑っていた。


部屋について、いつものごとく、瑞希が洗面所で部屋着に着替えてるあいだに、俺は、ミルクティーとコーヒーを用意した。


「あー、最悪なイヴ。」

「それは、御愁傷さま。」

「ま、いいや!イヴの最後に飲むのが、隼人のミルクティーとか。あ、隼人、あと5分で乾杯ね。私、ワイン。」


@哀しい目

ワインを開けて、乾杯した。

「乾杯ってな。メリークリスマスなんかじゃねえな。」

俺がいうと、瑞希は笑っていた。

「ね、ケーキ半分こでいいよね。隼人、イチゴあげるよ。昔から好きだもんね。」

「おー、サンキュー」


「ねぇ、隼人、きいてよ。」

「うん。」

俺は細くなったショートケーキを、フォークで倒さないように必死だった。

「先輩さ、本命がいたって言ったでしょ。もう、ずっと付き合ってたんだって。私たちが入学した頃は、彼女の影なんて全然なくって、私、なんにも気にしてなかったよ。

でもさ、夏休み終わってから、先輩から連絡くる回数が減って…そんなの、恋愛になれた男の人は、そんなもんなんだと思ってたら………でも、ちがった。フランスに留学してた彼女が帰国して、また、ヨリ戻しちゃってた…」

「それって、おまえ、本命がいない間の埋め合わせだったってこと?」


瑞希が哀しそうな目をした。


「…初め、強引で嫌だなって思ってたけど、だんだん好きになってたんだよ。今日だって、楽しみにしてた、ほんとに…」

「そりゃ、そうだろ」

「先輩の部屋に行ったの。でも、約束の時間より早く着いちゃって。それでもいいかと思って部屋の前まで行ったら、ドアがうっすら開いてた…聴こえてきちゃったの……」

「うん…」

「もうすぐ3か月だって…」

「は?」

「彼女さんのお腹の中には、先輩との子がいるんだって…」

「なんだよ、それ!!」

「…ひどいよね」


瑞希は笑った。けど、哀しい目のままだった。


「んだよっ!それ!! お前のこと利用した上に、浮気して孕ませるとか! サイテーだよ…」

「浮気相手は私の方だよ。そのあとは、あんまり覚えてないや。気づいたら、公園にいて、暗くなってきて、なんか、隼人に電話してた。…ごめんね…」

「へいへい」


"こりゃ、空元気だな。今夜は長くなるな"


@4人目

“サイテーだ。男としてサイテーなヤツだ。俺だったら・・・”

そう強く思った。


瑞希は、泣きづかれて朝を迎える前に寝てしまった。

2人して、昼前に目が覚めた。


「・・・ごめん、バイトあるから。大丈夫か?」

「うん。いっぱい泣いたし、大丈夫だよ。先輩にはちゃんと話すよ。」



それから、1か月後には、先輩とのことは片が付いたらしく、

瑞希はケロッとしているようにみえた。

でも、奈々ちゃんにきいたのは、別れるのに、少しもめたみたいだった。


でも、それから、2年、3年になっても瑞希は誰とも付き合わなかった。

おそらく、告白はされていただろうし、実際、瑞希のことで俺に相談をもちかけてくるヤツもいた。

浮気相手が自分だったうえに、相手に子どもまでできたら、それは相当ショックだったろう。

俺は、心底、孕まされたのが、瑞希じゃなくてよかったと思っていた。


その反面、そのことで瑞希が恋愛を拒んでいることに、実は内心ホッとしていた。



大学4年になって、俺たちは、卒業後の進路がみんな決まり始めていた。

講義はほとんどなく、バイトに明け暮れるやつ、研究室にこもるやつ、アパートを

早く引き払って実家から通うやつ、みんな様々で、今までより校内で会う回数が減った。

俺は、都内の建築事務所に内定をもらっていた。

コンビニのバイトを辞めて、夏頃からは、その事務所で補助員として働かせてもらっていた。大学へは、卒論のために研究棟に通う毎日だった。

瑞希はといえば、都内に店舗をもつ家具や雑貨をメインに扱う会社に内定が決まっていた。


今回の相手は、その会社の社員だ。就職活動をする中で、大学のOB、OGを訪問するが、それがきっかけで知り合い、交際が始まったようだった。


俺は、それを聞いたとき、すごく焦った。もう瑞希は誰かと付き合うことなんてない、と勝手に思い込んでいたから。

しかも、2年も恋愛から遠ざかっていた瑞希を その気にさせた男性だと思うと

きっと 魅力的なんだろうと 想像したからだ。

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