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@密かな想い
バイト中、後30分ほどで、あがりの時間だ。
そのとき、スマホが俺のポッケの中で振るえた。
彼女からだ
5年、俺の片想い…
いつか、彼女に打ちあける日はくるんだろうか…
-また-
「瑞希!」
彼女がこっちを見た。
泣いた跡。
やっぱり、な。
「隼人、ごめん。バイト、終わったの?」
「うん。今日、早上がりだから。」
嘘つけ。瑞希からのLINE見て、30分早くあがらせてもらったくせに。
「行こう。瑞希、飯は?」
「ううん。いらない。」
まぁた、しっかりめかし込んで。今回の相手は社会人とか言ってたな。どーせ、高級なレストランかで奢ってもらったあと、振られたんだろ。
「ねぇ、どこ行くの?」
「お前んち。送ってくよ。」
反対から来る人をよけながら、しばらく歩いた。
「隼人、なんか、しゃべってよ」
「俺、バイトで疲れてんの。お前の方が話したいこと、あんじゃねーの?」
「うん…また、振られちゃった。」
「……懲りないねぇ…」
振られたことくらい、見りゃ分かるよ。
しばらくすると、後ろから、すすり泣く音が聞こえてきた。
俺は、少し、歩くスピードを落とした。
駅前の横断歩道は、赤に変わったばかりで、待つはめになった。
斜め後ろに立っている瑞希は、肩を震わせている。10月の夜の空気は冷たさがあった。俺は自分のジャケットを脱いで、彼女にかけた。
「ありがと…」
消え入りそうな声で、彼女が言った。
あ、青に変わる。
ここの信号、待ち時間長いくせに、すぐ点滅すんだよな。
さぁ、
みんながそそくさと渡りだしたのに、瑞希は突っ立ったままだ。
「はぁ…」
俺は、自分のカバンを肩にかけると、瑞希の小さなバッグをさっと取って、空いた瑞希の手をとった。
@部屋
「ほら、行くぞ」
瑞希の手は冷たくて。
冷えるのを我慢してお洒落をしたせいか、俺を待ってるあいだに冷えたのか。
後者であってほしい、なんて、考えた。
停止線で止まる車のライトに照らされて、横断歩道は、ランウェイのようだ。
これが、
彼女です、俺の自慢の彼女ですって
みんなにお披露目するためのステージなら、
どんなに、うれしいだろう。
慣れないヒールで歩きづらいのか、瑞希が、俺の手を、逆に、ぎゅっと握り返してきた。
くそっ。
現実は…..ちがう。
「あ、やべ」
そうだ、夜遅くに降りだすっていう予報だったな。
ポツ、ポツ、ポツと雨が当たりだした。
「隼人、寒くないの?」
「ねーよ。」
「そう……どうして、いつもダメになっちゃうのかなぁ。もう、飽きちゃったって。しかも、婚約者できたって…」
「…後できいてやるから、今は急げよ」
ほんとは、そんな話、ききたくねーよ。
電車は長椅子に並んで座った。
暖かくて緊張がとれたのか、瑞希は、俺の横でうとうとしていた。
結局、彼女の部屋に着くまで、一言もしゃべらなかった。
「ほら、ちゃんと体ふけよ。お前、昔から、すぐ風邪ひくんだから。」
タオルを渡した。
「うん。服、替える。」
そういって、彼女は洗面所に着替えにいった。
そのあいだに、自分も体を拭いて、お湯を沸かした。
「えっと、カップと」
勝手知ったる部屋。何回、ここに来ただろうな。
そのたびに、なにもできずに帰る自分が、男としてどうなんだろう、と、情けなくなるんだよ。
きっと、今夜もそんなところだろう。
@いい加減に
部屋着に着替えた彼女がソファに座る。
「ほら。熱いぞ。」
「ありがと。隼人のミルクティー好き。」
「それは、どーも。」
俺は、瑞希の横には座らず、ソファの肘掛けに腰を下ろしていた。
「…なにも聞かないの?」
俺は、コーヒーを飲み干すと言った。
「どうせ、また、愛しの彼氏様に振られたんだろ?」
「うん…私の何がいけないのかなぁ…」
「知らね。」
「冷たいなぁ、もう!」
「そう?彼氏でもないのに、迎えに来てくれるんだから、感謝しろよ。」
「えー」
「さ、俺、帰るわ」
「なんでよ!話きいてくれる、っつったじゃん!」
「ん~。お前、前にも同じようなことあったよな?これ、何回目よ?」
俺は玄関で靴紐を直しだした。
「え?」
「もう、俺、同じこと何度も嫌だよ。」
「ケチッ」
ポカッ
おさるのぬいぐるみが飛んできて、俺に当たった。
ムカッ
せがまれて、何千円もかけてUFOキャッチャーで、俺がとって、プレゼントしたぬいぐるみ。
「あのなぁ!俺だって…」
「なによ?」
「…クソッ」
ダンッ
おもわず、玄関の壁を叩いてしまった。
一瞬、瑞希が、ビクついたのが感じとれた。
「…俺だって、もう限界なんだよ。いい加減気づけよ、もう5年だぞ…」
俺は、そう言い残して、振り向かずに部屋を出た。
@不毛
授業がおわって、次の講義室へ移動もせず、男友達とだらだらと話していた。
俺たちより、後ろに座っていた瑞希が近づいて来る足音がした。
「隼人…」
瑞希のことは聞こえないふりをして、俺は、男友達に声をかけた。
「なぁ、次、どこだっけ?行こうぜ」
「おお!」
みんなが立ち上がって、ぞろぞろと動き出した。
「隼人!」
さっきより大きめの声で、呼ばれた。
それでも、無視して行こうとすると、榊に止められた。
「おい、隼人。瑞希ちゃん、よんでるよ」
そう言われては、振り向かないわけにいかない。
「俺、先行って、席とっとくから」
榊は出ていった。
「なに?」
俺は、瑞希と目を合わさないできいた。
「あ、えっと。あ、昨日はありがとう。」
「うん。」
「それでね、隼人の最後の言葉が、気になって。」
「…いーよ。そんなの気にしなくて。」
「そんなわけ、いかないよ。」
「いーから!キツい言い方して、悪かったよ。じゃーな。」
スカートを両手で握りしめてる瑞希を残して、俺は教室をでた。
あー
クソッ
素直になれよ、俺っ!!
次の教室に入ると、榊がニヤニヤして待っていた。
「瑞希ちゃんと、なにか、あっただろ?」
「はぁ。別に、また、アイツ振られて。呼び出されて迎えに行っただけだよ。」
「不毛だな…」
「うるせー」
「高校んときからだろ?いつまでやってんだよ。お前もそろそろ腹決めろよ。」
「けど…」
「告白して振られたら、友達でもいられなくなったら嫌だー、ってか。アホか、お前。自分の気持ち伝えもせず、他の男のもんになるほうが、許せなくない?」
「….」




