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口は禍の門-琴ノ葉扇の不可思議結友譚-  作者: 角笛譲治
序章:始まりは禍と共に
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火は消える 偽りと共に

 要は今行ってる「桜木さんを襲う」という命令を、「避難」という別の行為の命令を上書きすればいい。それが俺の出したこの事態の解決方法だった。一人ずつ話ができるように落ち着かせて「正気に戻ってください」なんてやってたら収集がつかない事態になりかねない。だからこそ校内放送による一斉洗脳で害のない命令を行い、皆を1か所に集めて改めて洗脳を解きなおす方法が一番良いと判断した。問題はこれで皆に命令が上書きできているか、だ。放送を切り廊下に出ると…


「走るなよ!まだ火は遠い!焦らず歩いて避難して!!クラス委員は集まったらいない人が居ないかのチェックも!」


 生徒会の面々が先導して避難を開始しているのが見えた。どうやら生徒会は俺の洗脳下ではなかったらしい。これで一般生徒は大丈夫だろう。あとは俺のクラスメイトの状態確認。保険をかけて放送の内容に2年3組(俺のクラス)を名指しして命令しておいた。頼む、正気に戻っててくれ…


「ウ…ア…?ニ、逃げ…ないと…?あれ俺何して…?」


「武田!大丈夫か!?」


 締め落とされかけてた武田がギリギリ気を失うところで放送を聞いたらしい。その目はさっきの人間性を失う寸前の様な目ではなくいつもの普通の目に戻っていた。桜木さんを見ても殺しにかかろうとしないし俺にニタニタと笑いながら纏わりついても来ない。


「ん…?二人何してるんだ?わかんないけどなんか逃げなきゃなんだろ?」


「あ、ああ。先に避難して皆居るか確認しててくれないか?俺らは逃げ遅れてる人が居ないか確認してから行くから」


 まだ状況を上手く把握できていないがとりあえず避難命令に従う武田を見送って桜木さんと下を見下ろすと、さっき一階に向かったであろう集団も避難しているのが見える。どうやら一か八かの賭けには勝つことができたらしい。とりあえずこの場から離れて俺らも運動場に向かうとしよう…許可なく放送室を使ったのはさすがにマズイからな。というか避難した皆に次の指示を出さないと今度は全校生徒が何日間も運動場で待機なんてこともあり得る。


「俺らも行こうか…俺のせいで色々、その…ゴメン」


「いいですよもう。いや良くはないけど。それよりもまだ残ってること、あるでしょ?」


「…?避難指示の解除のこと?それならわかってるよ。鎮火が終わって教室に戻れるようになったら解けば…」


「違うわよ。今回の騒動でわかっている貴方がかけた洗脳は「学校で待機する命令」のみ、でもこの洗脳だけじゃあんな狂暴化して襲ってくることに説明がつかないじゃない。今は命令の上書きで正気に戻ってるかもしれないけれど…何の洗脳をかけたか特定しなきゃまた同じことが起こるわよ」


「……」


 俺は歩いて運動場に向かいながら口ごもる。屋上で言われた様に、俺を中心としたクラスという俺の命令が聞きやすい環境が不自然に形成されていた事、クラスメイトが俺を付きまとう様な真似をしていた事、桜木さんを襲った事なんかはまだ未解決のままだ。でもそれは俺の中でほぼ答えが見つかっていた。なんならその問題の解決方法だって思いついてはいる。思いついてはいるんだ。でもそれを口に出す覚悟が未だにできなかった。それはかつての俺が、心の底から望んだものだったから。




 運動場に集められた生徒たちに先生からの安全を知らせる報告が知らされたのは、避難が始まってから大体1時間ほどたってからだった。科学室は全焼したものの、死傷者は0人。その他の教室からそれほど近くなかったということも相まって生徒は教室に戻された。未だ科学室の対応に追われるアサちゃん先生に代わって生徒の教室移動の案内を手伝い、2年3組の皆が教室に集合したタイミングで声を掛ける。


「あー、ごめん皆。こんなことが起きてテンパってると思うけどちょっと聞いてほしいことがある…」


 俺は教壇の前で皆の目線を集めて話始める。丁度数か月前、この教室にはじめて訪れた時と同じ景色だ。前にここに立った俺は恥ずかしくて、寂しくて、恐ろしくて、必死になって助けを求める様に皆に声を掛けたんだ。「友達になってください」と。

洗脳にかかった皆は「友達」というキーワードを口にすることが多かった。友達だから、とか友達として、とか。正直言ってその時から何がトリガーになって洗脳してしまっていたか薄々気づいていたんだ。「友達になる」なんて曖昧な言葉でかけた洗脳が捻じれに捻じれて今日までこのクラスの皆を呪い続けていた。だからこの呪いを解くために俺は捨てなきゃいけないんだ。


「皆さん…。俺と友達、やめてください。」


この優しい優しいお友達(都合のいい関係)を。

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