命令の上書き
爆風と爆音が今いる廊下を勢いよく通り抜けていく。自分らでやったこととはいえ流石に驚いて桜木さんも俺も身を屈める。顔を上げれば次は天井から大きな音がファンファンと鳴る。火事に反応して鳴るサイレンが今の爆発がただ事じゃないということを学校中に知らせる。いつもの気だるげな表情からは想像もつかない位の焦った表情でアサちゃん先生は俺らへと大きい声で指示を飛ばしてきた。
「は!?ちょ、おいおいおいおい!!マジかよガス漏れか!?おい琴ノ葉!桜木と一緒に急いで教室戻れ!避難指示出るかもだからみんな落ち着かせといてくれ!!俺は状況見て来るから!」
「えぁっ…はい!」
近くの消火器を取り出して迅速に消火活動を始める先生を置いて俺ら二人は駆けだした。思った以上の音と被害でかなり驚きはしたがもちろんこれらは俺達の仕込みだ。
遡ること数分前…
──────────────────────
「それで?ここで何する気なの?」
「端的に言えば爆発で火事を起こす」
「……」
「本気でヤバい奴を見る目で見ないでよ!!!」
ドン引きしている桜木さんと一緒に棚を物色する。この教室は科学部が実験するために部室として使っているので簡単な実験を行うためのものは割と見つけやすい場所に置いてあるのだ。見つけた何本かの水素ボンベを机の上に取り出して置く。中学の頃にやった実験なので記憶は曖昧だが確か水素は火をつけると一気に燃えて、かつ空気と混ざると大きな爆発が起こる…だったかな?少なくとも火が立ち上って火災報知器に検知さえされれば最悪それでいい。後はこれを任意のタイミングで発火させる方法だが…
「水素ボンベを並べてこれを破裂させて空気と混ざったタイミングで引火させたいんだ。そのために桜木さんの刀をいくつか借りたいんだ」
「私の能力を何だと思ってるんだ…」
刀を壁に二本突き立て鍔にうまく引っかけて宙ぶらりんにする。その下に水素ボンベを動かないように置いてその上あたりに火を置く。桜木さんは刀を自由に消すことができるので壁に刺さった日本だけ消してもらえば水素ボンベに刀が突き刺さる。刺さった刀も消せば水素は漏れ出て空気と混ざりながら引火して火災報知機に…
「という寸法です。火はアルコールランプが切れてたのでガスバーナーでいっか」
「父上…刀をこのようなことに使うこと、どうかお許しください…」
こうして任意で起爆できる爆弾を作った2人だったが、琴ノ葉の余りに足りていない化学知識、桜木の自分の刀がテロに使われている事に対する現実逃避、ミルカの「コレ放ってたらヤバい火事起こしそうだな」と思いながらもニヤニヤするだけで一切止めに入らなかった怠慢により科学室は全焼、科学室の火災時責任者であったアサちゃん先生こと朝日夕夜教諭が校長と保護者に信じられないくらい怒られるのはもう少し後の話である。
──────────────────────
2階の科学室から逃げて同じく2階にある職員室に駆け込む。この学校は少し変わったつくりで2階の北側渡り廊下に職員室が併合されているのでここを通れば教室棟に通り抜けながら他の先生に会うことができる。
「失礼します!科学室で火災が発生しました!今は朝日先生が消火に当たってくれてます!どなたか応援をお願いします!」
職員室に入りながら大きな声で呼びかける。座っていた先生たちが立ち上がりそれぞれ現場に向かったり消防に電話を掛けたりと一気に騒々しくなってきた。この騒ぎならこっそり教室の鍵を持ち出すことも難しくない。次の目的地…「放送室」の鍵を持ち出して三階へと向かう。
放送室は職員室の真上に位置していて、階段を上ればすぐ見えるくらいには遠くないのだが…
「…ここに来て見つかっちゃったか」
「琴ノハ?こコニイたのカよ~!さガシたぜ?」
あと少しの所で武田と鉢合わせしてしまった。そりゃあ一から十まで上手く行くとは思っていなかったがよりによって目的地の目の前でか。どうする?走って学校一周するのも手だが、火事が思った以上にでかいからあまり時間かけてもいられない。かと言ってこのまま邪魔されたらせっかくの作戦がポシャる。
「散々無茶苦茶したんだからここで止まってらんないでしょ!」
膠着した状況で真っ先に動いたのは桜木さんだった。刀は使わないで、とこちらが声を出すよりも先にスライディングタックルで武田を足払い。派手に顔から転ばされた武田の首に腕を回して締め落としをかける。もしかしてさっき首を絞められたの根に持ってるのかな…?結構強くやられてるみたいで武田も「コ…!コ…!」みたいな呻き声しか出せてない。
「ほら後は貴方の出番でしょ!早く!」
桜木さんの声でハッと我に返り白目向き始めた武田を背に放送室へと向かう。前に放送の手伝いをしたことがあるので使い方は承知済み。
時に皆さんは無視できない命令と言われると何を思い浮かべるだろうか。もちろん数多くあると思うがその中の一つに「命に関わるもの」は絶対に入るはずだ。
「全校生徒の皆さん!火事が発生しました!場所は2階科学室!速やかに避難を開始してください!特に2年3組!今やっている事は全て中止して急いで運動場に避難を!!」
火事のサイレンが鳴り響く中の校内放送、普段から防災訓練を怠らない日本人ならこの声は絶対に無視できないだろう、それも避難命令ならば特にね。
※危険なので絶対に真似してはいけません。




