少年少女空を飛ぶ
目線を自分から外してわなわなと慄いている俺を見て桜木さんも振り向き武田に気づく。流石の桜木さんも驚いたらしくギョッとした顔で後ずさりして距離を取る姿が目の端に映るが、それよりもゆっくりと真顔でドアを開けて屋上に入ってくる武田の方が気になって仕方なかった。
「いや~待ってても教室に帰ってこないから心配で探しに行ったラさ!二人で屋上の方に行っタって聞いたから心配で見ニ来ちゃったよ!」
「…おう、そんなに待たせてた?ごめんごめん…ちょっと俺が桜木さんと二人で話したくて俺が連れてきたんだよ。」
咄嗟に「あくまで俺が連れてきた」という嘘をついた。ハッキリとした理由はないがここで桜木さんが、と責任を持たせるのが危険な気がした。ましてや「刀を突き付けられた」なんて今の武田に助けを求めるのは論外だしな。俺の中で刀持ってる女子よりも今の武田は信用度が低いわけだ。そりゃそうだろ?瞳孔がガン開きで焦点もあってない、喋り方も明らかにいつもよりもたどたどしい奴、いくら友達でも警戒する。
そもそも今の武田の発言は矛盾があった。俺が桜木さんに会って連れられるまでに人とはすれ違ってない。遠目にいたのかもしれないがそれじゃあ俺と桜木さんの二人だと断定できないだろう。何より桜木さんに張り倒されたのは俺が教室出てすぐだ。帰ってこないからと言って探しに出たらまず鉢合わせない。つまりこいつは俺がトイレに出た後に声を掛けるでもなくこっそり尾けて来たって事になる。俺が洗脳したっていうなら俺が怖がること止めてくんないかな?
「…そっか…桜木さんと………メだ…よ……ナい…」
「?武田大丈…」
「ダメだよォ!!!よくナいヨクないよくナァイ!!!!」
「っ!!」
俺の警戒は正しかった。しかし足りていなかった。
武田はギョロっと目だけを桜木さんに向けたと思った直後、恐ろしい速度で桜木さんの首元に飛び掛かった。そのまま押し倒した桜木さんの首を顔に青筋が経つほどの力で締め付けているのを見て俺は慌てて武田を引きはがしに入る。
「おい!何やってんだ武田!!!離れろって!!」
どんなに力を入れても離れようとしない武田に俺はパンチを喰らわせて無理矢理首絞めを中断させ、桜木さんの無事を確認する。幸いそんなに長くは絞められていなかったようで首回りが赤くなった程度で済んだみたいだ。
「さっキぃおまエ扇のこト殺そウとしてたヨなぁ?そんナワるい奴とつるムなンて、友ダちが黙ってられネぇよォ!!」
「やっぱ隠れて見てたんじゃねえか…!桜木さん!逃げよう!もうこいつ正気じゃない!」
「げほ…ッ…どこにですか!屋上の出入り口は扉だけですよ…!」
そりゃそうだ…学校の屋上の出入口なんて何個もある訳ない…かといって扉の前で構える今の武田の横をすり抜けられそうもない!どうする!?いつ俺に殺意が向くかもわからないし、桜木さんがさっき持ってた刀を取り出して刃傷沙汰…になんて展開にもしたくない!その場凌ぎでいいからどこかに逃げれないか…刀…扉……張り紙?武田の方の後ろに見える張り紙を見て妙案を一つ思いついた。
「桜木さん…運動得意?特に走り幅跳びとか」
「…?得意ですけど…?」
「そう…じゃあちょっと付き合って!」
ここで正直に答える辺りちょっと天然入ってそうだな、なんて余計なこと考えながら桜木さんの手を引いて後方へ走り出す。後ろをちらちら振り返るとゆっくり武田が歩いてきているのが見える。追いつめてる故の余裕なのか?だが俺は決して自棄になって後ろに走っている訳じゃない。
入口の扉に立入禁止の張り紙が貼られていた理由、それは柵が壊れているからだ!この学校は中庭を中心に囲むような作りになっていて、壊れている柵は中庭側にある柵だ。そして特別教室棟にはバルコニーが付けられていて特別教室の横を通って他の教室に行くことが可能になっている!つまり!
「屋上から飛べば!ギリギリバルコニーに着地出来いいいいああああ!!」
「ちょ、ちょぉっ!!」
柵の間から勢いよく飛んで三階のバルコニーへ!
しかし二つの問題が琴ノ葉達を襲った。
一つ、柵からバルコニーまでの距離が意外に遠かった。
二つ、琴ノ葉はシンプルに跳躍力不足、桜木は突然のことで踏切に失敗。
この二点により琴ノ葉達はバルコニーの手前で垂直落下してしまっていた。
本っっっっっ当にマズイ!!自分だけが落ちただけならバカの高跳び事故で済む(済まない)が、桜木さんも一緒だというのがマジでマズイ!せめて桜木さんだけでも無事でいさせないと…!!
咄嗟に俺は桜木さんを抱きかかえ、下敷きになることで助けようとした。その行動が九死に一生を得たのだ。
「あぁもうほんと無鉄砲!」
ギギィッ!!バギンッ!!っと激しい金属の音が耳を劈く。どうやら先ほどから出したり消したりしている刀をバルコニーの壁に突き立てて勢いを殺したらしい。緩やかになった落下を軽やかに制御しながら桜木さんは抱き着く俺ごと二階のバルコニーに不時着させた。一連の流れの余りのカッコよさと自分の恥ずかしさで言葉が出ない。
「色々言いたいけど今は現状打破出来て良かったとだけ言ってあげる…」
「お、おう。ってそんなことより武田は!?」
屋上を見ると覗き込む武田。しかし飛んでくることはなかった。流石に今の決死の飛び込みを真似して追いかけてくることまではしなかったようだ。今のうちにバルコニー伝いで廊下へ逃げ入り話の続きを始める。
「時間が無い、端的にまとめるから全部受け入れて」
「はい…」
「一つ、この騒動の犯人は貴方。二つ、なんでかはわからないけど洗脳された人は私を殺しに来る。最低でも武田君、最悪貴方と関わりある全ての人が敵よ。三つ、この状況をどうにかするにはあなたの能力を解除する方法を見つけるしかない。わかった?」
「解除方法…でもどうやって?」
「貴方がわからないなら私にもわからない。だからこそ───貴方の何が原因で能力が発動してるのか死んでも思い出して!」




