死後開花
「これはまた…珍しい案件を見つけましたね…」
神社に着いて希さんに事のあらましを説明した俺らが最初にもらった言葉だった。なんだかんだ最終的にはヘラヘラと笑って終わらせがちだった希さんが本気で困ってる様子なので中々な問題なのだろう。
当の本霊は物珍しいのか色々神社の中を物色している。迂闊に触って成仏とかしないのかな。
「希さんでもよくわからないって事…ですか?」
「いえ、似た事案を知ってはいるんです。知っては。けれど見るのは初めてで…ここから先の話はあの方も含めて話しましょうか」
「ん~?あ、ウチ呼ばれた?」
希さんは境内のお賽銭箱に顔を突っ込んでいた(何してんの?)夏踏さんを呼んで今の状況の説明を始めた。
「まず、今の夏踏さんに起きている現象は『死後開花』と言われている現象だと思います」
「『死後開花』…名前の通りなら死んだ後に能力が目覚めたって事でしょうか…?」
「灰香ちゃん惜しい!正しくは死ぬ瞬間ね。前に二人には話した通り、能力は当人の願いが元となって開花する。じゃあ人の願いが一番強くなるのは一体いつでしょう?」
「……話の流れ的に、死ぬ瞬間?」
「琴ノ葉君正解~どんな死に方したかにも依るけれどあの時こうしておけば良かっただとか、普段ならそこまで大きな後悔じゃなくても死に際には大きなものに変わることがあるの」
「なるほど…?でも能力が一番開花しやすいのなら死後開花は割とありふれたものになるのでは?」
そもそも能力を開花させる人間が少ないということはあり得るかもしれないが、能力の専門家みたいな希さんが見たことないレベルになるのだろうか?という疑問が琴ノ葉には浮かんだ。その考えに頷きつつそうならない理由を希さんは二つ続けて話してくれた。
「一つは死後開花は既に能力を開花させていないと起き辛いという事。開花って言うから一般人が起こす現象に思っちゃうかもだけど、基本起きるのは能力者対してのみ」
既に能力を開花させる経験をしている人がさらに強い願いを持つことで能力が変容する。これが死後開花の正しい定義らしい。
「ほーん?じゃあウチには死ぬ前から能力ってのがあったんだ?」
「多分ね。そしてもう一つの理由が、変容の仕方は複数ある事。夏踏さんのケースはその中でも一番稀なケースだから…」
希さんが挙げた死後開花の種類は以下の3つ。
・人に能力が宿るケース
「相手が憎い/恋しい」など第三者を思い死んだ場合に起きやすいケース。イメージ的には呪いや祝福に近い。
・場所やモノに能力が宿るケース
死人にとって大事なものや場所があると起きやすいケース。不審事故が頻繁に起こる道や歴史的偉人が使用した遺品などによく起こる。
「そして1番稀な、自らを能力で縛り付けるケース。つまり幽霊になるって事ね」
「おーまんまウチじゃん!」
…この極楽とんぼみたいな人が?それが俺の率直な感想だった。幽霊って勝手なイメージだけど、復讐とか大層な目的がある感じだと思っていたのだが…ぼけーっとしている夏踏さんが自らをこの世に縛ってまで何かするような人には見えない。
「まぁこのパターンは例が少なくてなんとも……見える見えないも幽霊によるみたいだし、目的もバラバラ。だから対処法が確立されないのよねぇ…」
希さんが悩んでいた理由がわかった気がした。自分が何者かも何をしたいかもわからない人をどうこうしようだなんて方法が思いつかなくて当然だ。
しかしそこで船額さんが手を挙げた。
「あのー…そもそもどうにかする必要ってあるんですか?要は夏踏さんがあの交差点に居なければいいんですよね?どこにするかはさておき他の場所に移住してもらえば…」
確かに。事故が起きなければそれでいいのだから色々考える必要も…
「あーそれね。多分無理かも」
両手を顔の前で合わせながら夏踏さんが謝罪する。
「ウチもいろんなところ移動してみたことあるんやけどさ。時間はわかんないけど…大体日が落ちるくらいにウチ消えちゃうんだよね。意識がシャットアウトされる感じで。そんで気が付くとまた次の日の昼下がりくらいにあの交差点に戻んの。だから移住しても一瞬で出戻ると思うわ~メンゴ!」
話を聞いていた俺らは露骨にガックシしてしまった。やはりそう簡単に話が進まないものなんだろう。
「うーん…じゃあやっぱり成仏する方法探さないといけないのか…」
言うは易し行うは…ってやつだ。神社って言うくらいなんだから希さんが成仏のさせ方を知ってるかもしれないと思ってたけど今までのやりとり的に期待できないだろう。
「ともかくまず最初にしなきゃいけない事は能力の解明!そこから自ずと何で死後開花したかもわかるはず!と言う事でミルカカモン!」
「うわ何だビックリした!」
希さんが話しながら立ち上がってミルカさんの部屋のドアを勢いよく開くとPCと向き合うミルカさんが曝け出される。気持ちこの前より部屋がさらにごちゃごちゃしてる気がするな。
事情をカクカクシカジカで説明するとミルカさんはめんどくさそうに立ち上がりスマホを取り出した。
「んー、んー…無理だねぇ、映んない」
「えー!?2秒くらいで諦めた!?」
「しょうがないだろぉ?映んなきゃ視れないんだよ」
「そのスマホ、そんなにすごいんですか…?」
船額さんが不思議そうに質問する。そう言えば俺の時もミルカさんはスマホ越しだったな。
「あぁ2人は知らなかったわね。ミルカの能力『人類監視人』はスマホ越しに見た相手の持つ情報を抜き出す能力なの。便利でしょ?」
「へぇ〜…」
「なんか僕の能力の事便利な検索ツールだと思ってないかぁい?というかその子見た感じ音楽やってるんでしょ?名前検索したらヒットしたりしないわけ?」
「いや流石に…」
「めちゃくちゃヒットするねぇ」
「嘘!?」
うわホントだ…ライブハウスの過去のライブの広告とかSNSの呟きが結構ヒットした。どれどれ…バンド「Over Ray」ギターボーカル:夏踏レイ…がっつり顔も出てるから間違いない。
「うお、すげウチ有名人やん」
「これ見て何か思い出したりできそう?」
夏踏さんは口に手を当てながら少しの間考え込む。すぐに何も思い出せないと言い出さない辺り本人にもなにか引っかかるものがあるのだろうか?
スマホを触れない夏踏さんの代わりに俺が画像を拡大する。映るのは夏踏さんとその周りのバンドメンバーらしき人達の姿。
じっとその画像を見つめてから、夏踏さんはボソッと呟いた。
「礼…」
「?…大丈夫か?」
「…あっいや…大丈夫大丈夫。ちょっと思い出してきただけ。コイツらは…あ、ヤベもう時間じゃん」
夏踏の下半身を見るといつのまにか消えかかるように薄くなっていた。最初に会ったのが17時過ぎで電車で移動とか話し込んだりしていたらもう日没になっていたのだ。
「とりあえず今日話せるのはここら辺までって事ですね。またこうして来ていただくかもしれません。それと、気がついたらすぐに交差点から離れてくださいね」
「おん!それじゃ皆さんまた明日〜」
呑気に手を振りながら夏踏さんは夕陽と共に消えていった。
「行っちゃいましたね…とりあえず皆さん今日はこれで解散という事で…」
「…ま、僕の方でもそれとなく調べておくよ。それじゃお疲れぇ〜」
こうして新たな課題を持って帰路へ着くことになった。




