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口は禍の門-琴ノ葉扇の不可思議結友譚-  作者: 角笛譲治
第一章:舞踏会のご案内 仄暗い路地裏より
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禍と福の福の方

 船額仄香は教室の自分の席に顔を突っ伏して外界との交流をシャットダウンしていた。元々交流があるわけでは無いのだが。


 原因は朝のこと。

 一昨日から現実味の無い話や展開が続いていて何処か落ち着かなかった為に柄にも無い散歩をホームルーム前にしていた仄香だったが、遠目に琴ノ葉を見つけた。その瞬間に仄香の脳裏には、彼にお姫様抱っこをされた記憶がフラッシュバックした。

 琴ノ葉の能力で洗脳されてた間の記憶は薄ぼんやりとしか覚えていない。しかし薄い記憶が逆に仄香の妄想に拍車をかける。端的に言えば仄香は琴ノ葉に心揺さぶられ続けていたのである。


 いつもの彼女なら踵を返して教室へ戻っていただろう状況。しかし不可思議な出来事に心が浮ついたのか、それともただ単に隠キャ特有の変な所で行動力が発生したのかわからないが、仄香の脚は琴ノ葉の教室へ歩みを進めていた。


(知り合いなんだし声くらい…掛けたっていいよね?)


 たまたま通りかかった体にしようか。それか何か質問があって来たとか、喋る為の理由付けはいくらでもできる。

 ドアに手を掛けて後は引くだけ。しかしここで段々と正気に戻り始めた仄香は手を止めてしまう。いきなり違う教室にまで来るのキモくないか?だとか、そもそも学校で話すこと自体キモいのでは?だとか、うだうだ考えていると窓越しに琴ノ葉が女子と仲良さげに話す所を見つけた。


(誰だろう……何と言うか女の子側の距離が近い気がするし琴ノ葉君側もまんざらじゃなさそうに見える。もしかするとあれが世に言うカップルと言うやつなのだろうか…?)


 新たな登場人物に灰香の脳内は妄想をさらに展開させてしまい完全に硬直してしまう。結果、琴ノ葉をじっと見つめてしまっており、それを琴ノ葉本人に発見され逃げ帰った。と言うのが朝の過ちのあらましであった。


「………はぁぁ~↓↓↓…」


 頭を机に擦りつけながら溜め息を吐けば眼鏡が曇る。

 冷静に考えれば琴ノ葉君に元の友人がいることなんてわかりきったことだった。自分の為に優しくしてくれる人は大抵自分以外の人にも優しく振る舞っている。でもゴミクソ陰キャの私はそんな当たり前が頭からすっぽ抜けてしまうのだ。そして痛い目を見て落ち込む。お決まりのパターンだ。


「行くか…」


 本当なら帰って配信でも見ながら今日のやらかしを忘れたいのだが、生憎そうもいかない。一昨日の事件収束後、色々あって月曜にまた神社に来るように言われているのだ。勢いで加入してしまった組織だがよくわからない能力のこともあり無視することはできない。

さて、そうとなればさっさと用事を済ませて…


「あ、船額さんここにいた」


「んぐぅおぅぬ!?」


 教室のドアから出た瞬間に琴ノ葉君から声を掛けられて心臓が飛び出るほど驚いてしまった。というか女子として出してはいけない声を発してしまった気がする。思わずステップを踏んで距離を取ってしまったが構わず琴ノ葉君は会話を続ける。


「あー…ゴメンびっくりさせて…今日神社に行く話だったじゃん?行き方覚えてなかったらマズいと思って一緒に行こうと思ったんだけど…」


「え…あ、ありがとうございます。私なんかのために…」


「いやいや、俺も呼ばれてるから」


 こうして私は朝やらかしてしまった相手と二人で目的地まで行動することになってしまったのである。



 電車の中──


「あの…今日、桜木さん…は?」


「ん?今日は桜木さん用が無いから家に直で帰ったよ」


「へー…」


「うん…最近は働きづめで疲れたって言ってたから」


「あー…」


「……」


 はっきり言ってこの二人の会話は死滅していた。能力頼りで自分から話しかけることが少なかった琴ノ葉は会話の糸口を見つけることが出来ず、生来コミュ障の灰香は自分から話題を振っておいてカスみたいな相槌を返すことしか出来ていなかった。お互い歩み寄ろうとしている筈なのに電車の中には地獄の様な雰囲気が漂っていた。


「(いかん、このままでは何も進展せずに神社に着く…)船額さんあれから能力は暴発とかしてない?」


「あー…そうですね。一切発動はしていないです…出そうとしても無理でした…」


 灰香が申し訳なさそうに顔を下げる。今日の神社集合は灰香の能力の事に他ならないからである。

 一昨日灰香は神社で能力のテストの為に試し打ちを行おうとした。しかし日が傾くまで一度も能力は発動できなかった。それで結局日を改めて再挑戦、となったのが今日までの経緯だ。


「あーあー!違うよ!?出せないことを責めたりとかしてるんじゃないから!!大丈夫大丈夫!」


「あはは…すみません…」


 だめだ完全に地雷を踏んでしまった。小さな子をなだめるように慎重に船額さんに労いの言葉を掛け続けるがどんどんしょぼくれていってしまう。


「…皆さん大体どれくらいで使えるようになるんですか…?」


「え?えーっと…ゴメン俺にもわかんないんだよね。俺加入したの船額さんと二日しか変わらないから」


「えっ?そうなんですか?もっと前からいるのかと……それでもう能力使えてるんですよね……」


「それは……何て言うか俺、能力をずっと長い間暴走させっぱなしだったんだよ。俺が能力をすぐ使えてるのはそれが理由だから」


「暴走させっぱなし…?」


「ウチのクラスのほぼ皆に洗脳をかけちゃってね。1学期の間ずっと皆を操ってたんだ。それもあって俺は今クラスで孤立中…本当悪いことしたよ。それに対して船額さんは最初の一回以外、人を傷つけて無いんだ。ゆっくりやっていけばいいんだよ」


「まぁ…はい」


 それでも最初の人は…と灰香は言いかけたが、琴ノ葉の悲しげな横顔を見て言葉を飲み込んだ。自分にはわからない、洗脳と言う能力が故の葛藤を僅かながら感じ取ったのだ。

 話をしていると間河野原駅に着いたことを知らせる電車のアナウンスが鳴り響いた。二人は電車を降りてホームを歩いて話を続ける。


「皆と一緒に頑張ろうよ?俺みたいに人を不幸にしないようにさ」


「………あの!」


 自虐で話を締めて改札を通ろうとする琴ノ葉を灰香は呼び止める。振り返ると灰香の顔はさっきよりも苦しそうで泣き出しそうな顔になっていた。また何か地雷を踏んだかと言葉を選んでいる今度は灰香の方から話を切り出した。


「私が他の人を巻き込まずに済んだのは…琴ノ葉君が助けてくれたからです!傷つけた人もいるかもですけど…琴ノ葉君には助けた人もいますから…!」


 灰香は必死に訴えかけた。彼女の中には助けられたときの忘れられない顔があるからこそ、彼に前を向いて欲しかった。それ故にその言葉だけは詰まらず言うことができた。


 今まで会話に詰まっていた灰香からの淀みのない激励に、琴ノ葉は何か心を揺さぶられる感覚がした。午前中に纏わりついた罪悪感を洗い流すような言葉に琴ノ葉はニッとはにかむ。


「ありがと船額さん、なんか元気出てきた!よし!一緒に特訓頑張ろ……船額さん?」


「……………おぅふ」


「ちょっ!?船額さん!?船額さーん!?」


 琴ノ葉は一日のコミュニケーション許容量をオーバーして顔から火を噴いた灰香を担いで神社まで歩く羽目になった。


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