運命の分岐点:琴ノ葉扇
予約公開ミスって真夜中に投稿しちゃった
あと秋の文芸展に応募していたのにジャンルをミスっていたので修正しています…内容に変更はないので気にしないでください。
結局俺はすぐその場で選択に答える事は出来ず、希さんの「一度一人でよく考えてください」という言葉に甘えて境内を散歩しながらぐるぐると思考を回していた。その間に希さんと桜木さんとで何かお話をしているらしく、応接間がある離れの屋敷に入っていったので盗み聞きしないよう本殿を見つめながら独りごちる。
「…禍だけか、かぁ…」
詰まるところ希さんの言いたい事は「使い方次第で人の役に立てるんじゃないの?」って話だと思う。この世に洗脳を欲している人がいるのだろうか?そもそも俺はこの力を人のために使えるほど制する事ができるのか?考えれば考えるほど自分には荷が重すぎると言う結論に近づく気がする。けれど誘いを蹴ることを考えると、上手く言い表せないがなんだかモヤっとしてしまい決断が鈍ってしまうというループから抜け出せないでいた。
「せめて言語化できれば…」
「おやぁ、こんな所に若い子が珍しいねぇ」
少し遠くの神社の入り口から声が聞こえて振り返ると腰を曲げてシルバーカーを押しながら歩いてくるお婆ちゃんが居た。ここら辺に住んでいる人だろうか、レジ袋の中にたくさんの梨が覗いている。こちらが軽く会釈するとゆったりとした歩みで神社に入ってきた。
「希ちゃ…ここの巫女さんは居るかい?かわいらしい若い子なんだけれども…」
「あぁ神巫さんのことですかね?今あっちの屋敷の方で他の方とお話してて…」
「そうかいそうかい。そうなら終わるまで少し待とうかの…あんたはなんか希ちゃんにお世話になったのかい?」
「え、どうしてわかったんです…?」
「あの子は昔から良く人助けしたがるいい子でねぇ…この神社にもよく人を呼んで相談やら何やらしてあげとる。この辺の人はよぅ知っとるよ」
希さんは見た目から察するにそこまで歳は重ねていない筈、なのに周りの人に名前を覚えられるほど関りがあるのか。俺に対して選択肢の提案をしてくれた時の凛々しい雰囲気もそうやって経験を積んだ故に得たものなのだろう。
「今日は家で採れた梨分けたげようと思ってねぇ。いっつもいいってあの子言うんだけど、やっぱり何かしてあげたくなっちゃうのよねぇ」
嬉しそうにニコニコと微笑みながら希さんの話をするお婆ちゃんを見て、モヤモヤの一部が晴れて何かストンと腑に落ちるような感覚がした。きっと希さんの周りには福が渦巻いているんだ。周りに福をもたらして、もたらされた人間から希さんへ福を返す。そんな善のループとも言うべきものを一般人、能力者関係なく彼女は作り上げている。それに対して今の俺は周りに迷惑をかけているだけなんだ。騒動を起こし、それを解決するのに手を貸してもらって。あまつさえこのままでは神社の皆がやっていることを知らない振りして自分だけ元の生活に戻ろうとしている。もちろんそれが一概に悪いこととは思わない。でも俺はまだ桜木さんや希さん、ミルカさん達から受けた恩を返そうとすらしていない。それこそが引っかかるモヤモヤの正体だったんだ。
「…お婆ちゃん、良かったらこの梨俺が神巫さんに渡しておきますよ。ずっと立っておくのも辛いでしょう?」
「あら、ありがとうねぇ~渡辺って名前伝えたらわかると思うわ。もう最近これ無しじゃあ歩くのきつくてねぇ…」
「お大事にしてください。腰、きっと良くなりますよ」
「あらぁあんたもいい子ねぇ~ありがとう。それじゃあよろしくねぇ」
渡辺さんの背中を見送って梨の入った袋を握りしめてもう一度本殿を眺める。今度の俺の中にはモヤモヤはなかった。
応接間にて──
「それで…琴ノ葉君は和から見てどんな印象だったかしら?」
「どう…ですか…」
応接間でぐでっとしながらお茶を飲んでいた所に希さんがやってきて今回の騒動の発端から結末までを詳しく聞かれたので改めて詳しく説明を終えたところで今度は私から見た琴ノ葉の話を振られた。軽くしか聞いていないが琴ノ葉を神社に入れるみたいな話は聞いたのでそのための意見を欲しているんだろう。
「あらゆる面で危険人物ですね。放っておくと学校中洗脳するか爆破してたんじゃないでしょうか」
「手厳しいわね…爆破の件は半分事故みたいなものだったんでしょ?」
「全焼したのは事故でも放火したのは故意ですよ…いくら緊急事態で時間が無くてもアレをぱっと思いついて実行まで移すのはあまりに無鉄砲バカ過ぎます」
「行動力がある子ってことね~」
何故この情報を伝えて好意的に捉えられるんだろうと思ったが、変に思い切りが良い所は悪さを企む時のこの人と共通するからだろうと頭の中で答えが出た。つまりどういうことかと言うとソレを制御する側の人間の苦労が増えるということだ。既にこの人とミルカさん、あともう一人の愛すべきバカもいるのに…
「はぁ~…でもまぁ強いて言うなら、『責任感』は大きく感じました。騒動もあくまで自分の手で収めようとしてましたし」
「そうね。私もそれは感じたわ」
「でもそもそもあいつが元の生活に戻りたいと言えばそれまでなんでしょう?引き留めてまでこっちの活動に巻き込めないんですから」
「それもそうね。でも私の勘が正しければ…」
コトリ、とお茶の入った湯飲みを希さん置くと同時に玄関の戸が開く音がする。それを聞いて希さんは振り返らずにニコリと笑った。
「あの!さっきのお話の続き、いいですか?」
玄関にひょこっと顔を出した希さんが琴ノ葉を応接間に通す。彼はいつ持ってきたかわからない梨の袋を握りしめながら緊張した面持ちで言葉を切り出そうとしていて、それに対して希さんは続く言葉が早く聞きたいとばかりにニコニコしながら楽しみにしている。
「俺、まだまだ未熟ですけど…皆さんのお手伝いさせてもらいたいです!!」
頭を下げて選択肢の答えを述べる姿を見て、私は未来の私を案じるため息を吐いた。
序章長ぇ~って思いましたか?
僕も思ってます。もう少しお許しください…




