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口は禍の門-琴ノ葉扇の不可思議結友譚-  作者: 角笛譲治
序章:始まりは禍と共に
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コンマ以下の見えない関係

 俺の話を聞いている皆からすぐに反応が返ってくることはなかった。その沈黙が突然訳のわからないことを言い出した者を訝しむものなのか、俺からの命令解除を受けて思考にラグが生じているのか、俺には皆の顔を見ただけではわからなかった。しかし「どうかしたのか?」や「何かあったのか?」なんて声が続かないことから察するに、洗脳なんか元々されていなくて今の行動に何の効果も無かった、という可能性は無いのだろう。


 その後戻ってきたアサちゃん先生からクラス全員に向けて事のあらましの説明がされ、今日の授業は中止で即帰宅、明日も一日休校となることが知らされた。急な休みが出来て喜ぶ者、身近で起こったボヤ騒ぎに不安を覚える者、原因は何だったのかと囃し立てる者と様々だったがその中に俺に話しかける人は居なかった。


「…きちんと後始末は出来たみたいですね」


 桜木さんが横から目線を合わせないまま話しかけてくる。俺が皆に話をしている間桜木さんは外で待っててくれていたのだった。話をしてる最中も横槍を入れず、終わった後もしばらく放っておいてくれて頃合いを見て話しかけてくれたのは彼女なりの優しさなのだろうか?


「…バカだよな〜。初日の挨拶からやらかして、結果今日までの数ヶ月分の人間関係が1日でパァって…いやまぁ本来あるべき関係に戻っただけなんだろうけどさ」


「それは…どうでしょうね」


 教科書をバックに詰め込んで帰る支度をしながら桜木さんは呟く。俺はというと皆が喋ってる中一人教室に居るのが苦しくて桜木さんよりも早くさっさと帰り支度を終えてしまっていた。なのに椅子から立ち上がれていないのは、この期に及んで誰かから声をかけて貰えるのを待っているからなのだろうか。


「とりあえず琴ノ葉君にはこの後着いてきてもらいたい場所がありますので。ここまで被害が及んでた以上このまま一件落着以後放置、なんて訳には行かないですし」


「そう…だね。まだわかってない事とか気になる事もたくさんあるし、そこら辺は俺からも聞かせてもらいたいかな。じゃあ俺先に出てるね」


 ふぅっとため息を吐きながら重い腰を持ち上げて席を立ち、教室の後ろのドアから廊下へ出る。桜木さんと何か噂を立てられたら向こうが迷惑しそうだし、先に校門で待っていようか…なんて考えていた時だった。


「っ…!なぁ琴ノ葉…」


 声を掛けてきたのは武田だった。恐らくここ数ヶ月で最も仲が良かった…いや、最も洗脳が深くかかってた奴から呼び止められて振り返る。武田は頭をかきながら難しい顔をして言葉を選んでる様子だ。


「…どうしたの?」


「あーいや悪ィ、なんつーか…なんか言葉が上手く出てこねぇ。ほら、琴ノ葉病み上がりの登校だったしさ、だから…」


 その後、武田から出た言葉は別段変わった言葉ではなかった。言われても今まで特に意識する事のないような、日常に溶け込んでわからなくなってしまうような言葉。けれど今の俺が1番欲していた言葉だった。


「ははっなんて言おうとしてたか忘れたや。ゴメンな!()()()()!」


「…何だよそれ。てか明日休みだって言われたばっかだし…またな」


「ああっ!マジじゃん速攻で忘れてたわ!ははは…またな〜」


俺らはお互い顔をくしゃっと歪めて笑い合ってその場を別れた。



◇◇


 校門で待っていると5分と少し経ったくらいで桜木さんはやってきた。

「お待たせしました。とりあえず駅に向かいますよ、ここから少しだけ遠いので。」


「うん…ねぇ桜木さん、さっき出る時武田に話しかけられたんだよ。「また明日」って。もしかしてまだ洗脳が完全に消えてないとかあり得るのかな?」


「あぁ喋ってましたね、見えてました。まぁ消えてない可能性も無くは無いでしょうけど…」


「一番長く一緒に居たしね。もしかしたら一回解除する命令しただけじゃ効き目が足りないのかも…」


「ただ…彼にとって洗脳が解けて強制的に関係がリセットされても、貴方は明日には会いたくなる人だったって事じゃ無いんですか?」


「……そっか」


 積み上げたハリボテの関係を全部0にするように、この数か月に築いた人間関係を完全に失くしてしまったものだと思っていた。けれどどうやら小数点(コンマ)以下の見えない関係を俺は得ていたようで、まだ一人だけ俺にも友達と呼べる人間が残ってくれていたらしい。全部失くした様に悲観するのはまだ早いのかもしれないな。


「…何泣いてるんですか。今からの方が多分大変になるんですから、こんなとこでめそめそしてたら持ちませんよ」


「は!?な、泣いてないんだけど…!」


「目メチャクチャ赤いですよ?」


「うるさいなぁ…」


 これ以上潤んだ瞳を見られないように桜木さんの方から顔を背けて鼻をすする。それでも鼻水が垂れてくるのでポケットティッシュで鼻をかんで誤魔化していると、桜木さんがこれからの説明を始めてくれた。


「一先ず貴方には私達が拠点にしてる場所に来てもらいます。そこに私達のリーダー的な方がいらっしゃるので…能力のこと含めこれからの事をそこで決めてもらう流れになると思います」


「あ、やっぱり組織みたいなのがあるんだ…あのミルカさんって人?」


「違いますよ。あの人は何というか………変な人です」


 数秒悩んで出てきた紹介文が「変な人」かぁ…わかる気もするが能力がどうのとか言ってる時点で俺も桜木さんも世間的には十分変な人じゃないかな。

口が裂けても言えない(言ったら本当にどこかしら裂かれそうなので)考えを飲み込みながら俺らは最寄り駅に向かうのだった。

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