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いせてん~異世界演出部ですが、転生者がバカすぎて現地フォローしてきました~第7章  作者: 月祢美コウタ


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第7章 悪役令嬢と五人の攻略対象と暴走する好感度

この物語は、乙女ゲームの悪役令嬢に転生した元OL、佐々木花音の物語です。


彼女が手に入れたのは、「誰でも好感度MAX」というチートスキル。前世で誰にも注目されなかった反動から、彼女は「完璧な悪役令嬢」を演じ、ちやほやされる人生を目指します。


しかし、そのチートには恐るべき副作用がありました。攻略対象たちの感情が暴走し、彼らの愛情は歪んだ依存へと変化していくのです。花音の計算ずくの行動は、世界を破滅へと導き始めます。


承認欲求の渇きを埋めるための「偽りの完璧」か、それとも破滅を食い止めるための「本当の自分」か。


仮面をかぶった悪役令嬢が、本当の自分を取り戻すまでの物語です。

いせてん~異世界演出部ですが、転生者がバカすぎて現地フォローしてきました~


第7章 悪役令嬢と五人の攻略対象と暴走する好感度


異世界演出部。田村麻衣が水晶玉を見ていた。

美咲も隣にいる。

「先輩、新しい案件です」


田村が手帳を開く。『案件No.9999「悪役令嬢転生イベント」』

『転生者:佐々木花音(28歳・前世OL)』


その時、ノックの音。若い女神が入ってくる。おどおどしている。

「あの...すみません。転生担当の者です」

「はい?」

「実は...その案件、私が担当で...」


女神が俯く。

「チートスキル、盛りすぎちゃって...」

「どのくらいですか」

「『好感度カンストしちゃった☆』...誰でも好感度MAX、です」


美咲が息を呑む。田村の左眼がピクリと動く。

「...承知いたしました。観察を強化します」

「本当にすみません!でも...」


女神の目に涙が浮かぶ。

「佐々木花音には、幸せになってほしくて...」

「お願いします、見守ってあげてください!」

女神が深く礼をして、去っていく。


田村が手帳を閉じる。左眼がピクリと動く。

画面の中で、花音が手帳を開いている。

攻略情報をチェックしている。真剣な顔。

でも、その目は承認欲求に輝いている。


「承認欲求...強そうね」美咲が声をかけてくる。

「先輩、どんな感じですか?」


「ええ、まだわからないわ。でも、面白くなりそうね」

美咲が水晶玉を覗き込む。

「チートスキル、好感度カンストって...やばくないですか!」


「ええ、副作用もあるでしょうね」

「副作用?」

「好感度が高すぎると、相手の感情が暴走し、歪み、破滅するわ」


美咲が息を呑む。

「だから観察が必要なの。彼女がどう動くかを、ね」


画面の中で、花音が部屋を出ていく。

颯爽と、自信満々で。

田村の左眼が、小刻みに震えた。


転生と目覚め


花音が目を覚ますと、そこは天蓋付きのベッドだった。

豪華な刺繍、金の装飾、シルクのシーツ。

「...え?」


鏡を見る。知らない顔、金髪碧眼の完璧な美少女。


記憶が流れ込んでくる。乙女ゲーム『恋する王宮物語』の世界。

悪役令嬢エリーゼ・ヴァルトハイム。彼女は破滅フラグ持ち。

「マジで転生した...」


花音は前世を思い出す。日本。OL。28歳。過労死。

病弱な妹がいた。ずっと看病していたため、自分の時間などなかった。

「妹...」


ピロリン♪視界の端に文字が浮かぶ。

『転生完了!チートスキル付与:好感度カンストしちゃった』

効果は「誰でも好感度MAX」!


花音の心臓が高鳴る。前世は地味で、誰にも注目されず、妹の世話で精一杯だった。

でも今は、自分は美少女でチート持ち。

「これ、ちやほやされ放題じゃない!」


いつの間にか持っていた手帳を取り出す。

ゲームの攻略情報がびっしりと書いてある。100回クリアした知識の結晶だ。

「よし、破滅フラグは回避する。そして全ルート攻略だ」


鏡の前でポーズを決める。どや顔で。

「完璧な人生、スタート!」


王子アレクシス


王宮図書館。王子アレクシスが窓際の椅子に座っていた。

(また会議だ。誰も、本当の俺を見ない。)


その時、扉が開いた。エリーゼ(花音)が入ってくる。

華やかなドレス、完璧な姿勢。(来た、王子ルート。)


花音が本棚に向かう。完璧に計算通り。

王子が顔を上げる。「エリーゼ様」

「あら、王子様」花音が優雅に会釈する。


その時、図書館の奥から子供の泣き声。「お母さん...」

頭で考えるより早く、花音の足が咄嗟に動いた。

花音が子供を抱き上げ、優しく声をかける。


その瞬間、美咲がトレイを持って通りかかり、足がもつれる。

「危ない!」王子が駆け寄る。「大丈夫ですか」


花音が子供を抱いたまま、美咲に微笑む。

「大丈夫よ。怪我は?」「は、はい...」

王子が見ていた。(計算のない、純粋な優しさ。彼女は、王族の目も気にせずに動いた。)

王子の胸に、渇望する何かが広がる。


花音は心の中でチェックを入れた。(子供イベント、成功。)

王子が近づく。「エリーゼ様、その優しさ...本物ですね」

「ええ、まあ」花音が謙遜する。(チートスキルのおかげよね。)


王子が微笑む。それは、仮面を脱いだ本当の笑顔だった。

「また、図書館でお会いしましょう」

花音は違和感を振り払った。(...気のせいよね)


騎士ディラン


訓練場。騎士ディランが指導していた。「腰が高い!」厳しい声。


訓練場の端。エリーゼ(花音)が立っていた。(騎士団訓練イベント。)

花音が優雅に歩き、訓練場に近づく。ディランが気づく。「エリーゼ様」


その時、美咲が水の入った桶を運び、足がもつれる。「あっ!」

ディランの表情がさらに厳しくなる。「メイド、訓練場では集中を――」


気づいた時には、花音は既に二人の間に立っていた。

「待ってください」「この子は悪くありません。むしろ、騎士団のために水を運んでくれたのよ」


花音が若手騎士を見る。

「あなたも、よく頑張っていたわ」「誰だって最初は失敗する。大切なのは、諦めないことよ」

花音が微笑む。若手騎士の目に光が戻る。


遠くで、ディランが立ち尽くしていた。

(彼女の優しさこそ、俺が最も知るべきだった、真の誠実さなのか...)

ディランの胸に、懺悔と救済を求める何かが広がる。


ディランが一歩前に出る。

「その...ありがとうございます。不甲斐ない。俺は、厳しすぎた」

花音は心の中でチェックを入れた。(庇うイベント、成功。)

ディランが微笑む。柔らかな笑顔だった。「また、訓練を見にいらしてください」

花音は深く考えなかった。


魔法使いアルベール


翌日、花音は研究室で魔法使いアルベールと出会った。

(この論理こそが、魔術の最終到達点だ。)


エリーゼ(花音)が入ってくる。「エリーゼ様」

花音の視線が『治癒魔法大全』に止まる。表情が変わる。本能的に。

「あの...治癒魔法についても、学べますか?」「病気を...治せる魔法」


声がわずかに震えている。(お姉ちゃん...)

「どんな病気でも治せますか?」花音が前のめりになる。切実な光が宿っていた。


アルベールが目を見開く。(この熱量...知識の探求心を凌駕するほどの、強烈な渇望だ。)

「感情じゃなくて!救いたい人がいるんです!」静寂。

花音が口を押さえる。(しまった...キャラ崩壊...)


アルベールは動かない。(彼女は、知識への渇望で動いている。これほど純粋な...)

「...お手伝いしましょう」「治癒魔法の研究、一緒に」

「本当ですか!」花音の顔が明るくなる。

「あなたの探求心に、応えたい」


花音は心の中でチェックを入れた。(知的アピール、成功。)


商人マルコと盗賊ルカ、そして破滅


その後数日間、花音の攻略は続いた。

市場では商人マルコとの出会い。高級品を購入した花音は、直後に貧しい子供へパンを手渡した。

(マルコは利益を度外視する純粋な善意に、自分が失った心を見た。)


庭園では盗賊ルカが木の上から、花音が誰も見ていない場所で転んだ美咲を手当てする姿を目撃した。

(ルカの警戒心は、身分も体面も気にしない本能的な優しさの前で溶けた。)


影から田村麻衣が見ていた。手帳にメモ。

『結論:5人とも、本質に惹かれているが、それは彼らの歪んだ欠落を補うための依存である。花音は気づいていない』

田村が手帳を閉じる。左眼が小刻みに震えた。

そしてその一週間後、事件は起きた。


広場に魔物が襲来。その時、エリーゼ(花音)が広場に現れた。(来た、魔物襲撃イベント。)

花音が前に出る。手を掲げる。

「不確定要素を排除し、存在の法則を書き換えよ」


黒い光が三体の魔物の急所を正確に貫く。

ディランが目を見開く。「エリーゼ様...!」


花音は広場の中央へ。「論理の迷宮を抜け、渇望の熱を収束させよ。我が願う、絶対の秩序をここに」

「嘆きを終わらせよ。病巣を焼き尽くせ。この世界に、苦痛は不要――『慈悲なき浄化パージ』!」

黒い光が爆発的に広がる。ドォォォン!魔物は次々と倒れる。


静寂。「これで、大丈夫ですね」歓声が爆発した。(完璧。全員が私を見てる。)

しかし、花音の胸に一瞬、冷たい空虚さがよぎる。


王子は呆然と見ていた。王子の胸には憧れと無力感が渦巻く。

ディランは剣を下ろす。騎士としての存在理由が崩壊する。

アルベールは魔法陣を消す。狂信的で熱を帯びた目で。


田村麻衣は遠くから見ていた。手帳にメモ。『破滅フラグ:本格始動』


花音の気づきと個別救済


王宮大広間での求婚イベントを終え、花音の部屋。深夜。

頭に激痛が走り、チートスキルの副作用で五人の「歪んだ心の内」が映像として流れ込む。

妹の記憶が浮かぶ。「お姉ちゃんも、幸せになって。誰かに認められるためじゃなくて、お姉ちゃん自身のために、生きて」


花音が決意する。手帳を破る。「もう、チートは使わない」

「私は、花音として、本当の自分として、みんなを救う」


城壁の影。深夜。ルカが道具を準備している。「ルカ!」花音の声。

「やめて。その計画、やめて」「貴女のためだ」

「違う。私はただの人間。弱くて、みんなに認められたくて、完璧に見せかけて、あなたたちを傷つけた」涙が溢れる。


ルカの手から短剣が落ちる。「俺は...」ルカが膝をつく。「俺は、ただ...信じたかった...」

花音がルカの肩に手を置く。「ありがとう。でも、私は救世主じゃない。ただの、花音」

ルカの目に涙が溢れる。「...すまなかった」


騎士団の兵舎。早朝。ディランが若手騎士に冷たい視線を向けている。

「ディラン様、これを、撤回してください」花音が降格処分の書類を見る。

「違う。あなたが気づいてくれたでしょう?『誰だって最初は失敗する』と。あなたの優しさは、その気づきにある」


ディランの目が見開く。ディランが降格処分の書類を破る。「...すまなかった」

若手騎士に頭を下げる。「俺は、間違っていた」


集団対峙


城の中庭。朝。花音が歩いていると、五人全員が待っていた。

花音が深く息を吸う。「私は...救世主でも、真理でも、絶対的な価値でもありません」

「ただの、花音です。弱くて、みんなに認められたくて、完璧に見せかけて――」

「――あなた方を傷つけた。私は、最低の悪役です」


長い、沈黙。五人それぞれが、依存を手放すことの恐怖と戦っている。

やがて、王子が顔を上げた。「...わかりました。貴女の優しさが本物だったからこそ、俺たちの依存は暴走した。だが、それも今日で終わりだ」


花音が微笑む。涙を流しながら。

「それでも、私はあなた方の友人でいたい。対等に。チートでも、ゲーム知識でもなく、本当の自分で」

「俺たちも、変わります。依存をやめます」王子が言う。「感情を、取り戻します」アルベールが頷く。

花音がその手を、一つずつ握る。温かい。


エンディング:和解と旅立ち


王宮の庭園。昼下がり。花音が一人、ベンチに座っていた。五人が近づいてくる。

五人が一斉に頭を下げる。「すまなかった」アレクシスが言う。「俺は、貴女に依存していた」

「俺もだ」ディランが続く。「力に溺れていた」...


花音が首を振る。「違います。私こそ、ごめんなさい。私が、みんなを傷つけた。私は、最低の悪役です」

「違う」アレクシスが一歩前に出る。「貴女は、俺たちを救ってくれた」

「貴女の本当の優しさが、俺たちの歪みを、正してくれた」ディランが頷く。


「でも、俺たちの求婚は...撤回する」五人が頷く。「貴女を、縛りたくない。貴女の自由を、奪いたくない」「ただ、友人として、これからも、一緒にいられたらと思う」

五人が手を差し出す。花音が笑顔になる。涙を流しながら。「はい。友人として。よろしくお願いします」


数日後。王宮の門。花音が旅装束で立っていた。五人が見送りに来ていた。

「孤児院を、巡りたいんです。病気の子供たちを、助けたい。妹にできなかったことを、今度は、本当の自分で」

「立派だ」ディランが敬礼する。「これ」アルベールが小瓶を渡す。「治癒の薬。想いを込めて」「気をつけろよ」ルカが言う。

花音が五人を見る。「本当にありがとうございました」深く礼をする。そして、歩き出す。


エピローグ:妹女神の祝福


孤児院。花音が子供たちの世話をしていた。

その時、まばゆい光。光の中から、少女が現れた。「...妹?」「お姉ちゃん!」妹女神が抱きつく。「やったね!大成功!」


「私、転生担当の女神だったの。お姉ちゃんを異世界に送ったのも、私」「チート、盛りすぎちゃった。お姉ちゃんが苦労するって、わかってたのに」

花音が首を横に振る。「その苦労があったから、私は変われた」


「妹」花音が妹女神の手を取る。「あなたが私を信じてくれたから。ありがとう」

「お姉ちゃん、ありがとう。その優しさは、本物だった。だから、この世界でも、本当の優しさで、みんなを救えたんだよ」

「これからも頑張ってね。お姉ちゃんなら、大丈夫。本物のヒロインだから」


妹女神が光と共に消える。

花音が微笑む。涙を拭いて。「ありがとう、妹」


孤児院。花音が子供たちと笑っている。

空が青い、風が優しい。本当の自分で、本当の優しさで、本当の人生を。


--- 完 ---

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


誰もが持っている「誰かに認められたい」という承認欲求。主人公・花音は、その欲求をチートスキルという歪んだ形で満たそうとしましたが、妹の願いと、暴走した五人の攻略対象たちの姿を通して、真の優しさと、ありのままの自分を受け入れる大切さに気づきました。


力による支配や計算された愛ではなく、彼女が最後に選んだのは、妹の優しさが教えてくれた「本当の人生」です。


この物語を通じて、「誰かに認められたい」という普遍的な想いと、それでも「自分らしく生きる」ことの大切さを描きたいと思いました。花音の旅立ちが、読者の皆様の心に何かを残せたなら、これ以上の喜びはありません。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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