0/ 血。
多分よくある話ですし二番煎じどころではないほどの物だと思いますが、もし良かったら見ていってください…
何この厨二病くらいのお気持ちで読んでくださるとありがたいです。
目の前に広がるは一切の真紅
と、その中心に友であった、がごろりと。
胸いっぱいの吐き気を催す惨劇に目を離せない。
離してはいけない。そう訴えかけられている。
人として生きて18年、人を殺めようとは思いもしませんでした。
どれほどに屑すれすれとは言えど、もう道を外す気はございませんでした。
この男がどう思っていようとも、私にとってこの男は友でした。
私のせいでは無いと、心から叫びたくてしようがなかった。
事実、最後に決めたのは、私の意思でした。
ですのに、ですのに、己の責任はないと、そう証明したかった。
己の罪を認めたくなかった。
私のせいではないと、
じゃあなぜこの男は死んだのか。
刃物でその首を刺したから。
凶器である刃物は私の手に握られております。
今もなお、握っております。
男もすぐ死んだわけではございません。
苦しみのたうち、冷たくなるまで呻いておりました。
助けもしませんでした。
1分が、1秒が、永遠に思えるほどに、長く長く感じられました。
これから、
どうしようかな。
行くあてもない。
たった今無くなったと言ってもいい。
人を殺すのは罪だ。少なくともここではそうだ。
ならば私は罪人だ。
罪人を匿う人様なぞいるわけがない。ただの一般人にさえ冷たい奴らが。
昼下がりと夕暮れの中間。カラスが鳴き始める。
焦りと蒸し暑さのせいで、思考が額から冷たく滑り落ちる。
逃げよう、見なかったことにしよう、知らないことにしよう。
関係ない。なんの関係もない。
血溜りを避け必要最低限物をかき集める。
手が震える。物がうまく掴めない。
苛立ちさえ覚え始める始末だ。
スマホ、財布、銀行の手帳、衣類、缶詰、凶器。
身分証は全部置いていく。持っていくか?
最悪、うまく捨てたらいい。うん、持っていこう。
さらば友よ、最低最悪の別れになったことを申し訳ないと思う。
君も私も、これからはマトモに日の目が見れなくなってしまったね。
でも、私のせいじゃない。
君のせいでもない。
ごめんね。
ごめん。
カラスがなく。
ーーー
僕は邦枝 莉音、製菓専門学校に通っている大学一年生。僕の家がケーキ屋で、ケーキを作っている親がすごいカッコよく見えて僕もやりたいと思ったんだ。
今は学校に通いつつ、近所の喫茶店でケーキを作らせてもらっている。とあるきっかけでそこの常連さんである佐渡架奈江とは友達で、今ではお家にお邪魔するほどだ。
そのきっかけというのも、たまたま喫茶店のウェイターが休みでお客様も少ない日だったから店長と僕だけで店を回していた時に、彼女が季節のケーキである苺のタルトを頼んで一口食べた後に評論家みたいな感想を言っていて、すごく参考になる内容だったから話しかけてみたんだ。それからは僕がケーキを作っては彼女に食べてもらって感想を聞く、と言う関係を築いている。
今日は締め作業を僕がやることになったから、いつもの時間より到着が遅くなりそうだ。ケーキを持ってるから走れもしない、申し訳なく思いながら空を見上げてみる。月も出ていないから墨で塗りつぶしたみたいに真っ暗だ。
なるべく急いで家へ向かう。お詫びに今日は好きだと言っていた苺のタルトだ、喜んでくれるかな。
到着してチャイムを鳴らす。
「邦枝です。お邪魔します」
彼女からの返事はない。でも扉の鍵が開く、それがいつもの彼女からの返事だった。
「佐渡さん、ごめんなさい。今日は店の締め作業をしていて゛ッ!?」
急に左の首元が熱くなる。それとは対照的に恐怖で体が冷えていくのを感じる。
「っ、な…ん゛で。さ、わたっ、さ…ん゛」
僕の首が熱い元凶、包丁だ。包丁が僕の首に刺さっている。わかった瞬間痛みが酷く伝わってくる。
「い゛だっ、ぃた゛いッ…」
痛い、痛い痛い痛い!なんで、なんで!?どうして、
彼女は何も言わない。真っ赤な目をこちらに向けてくるだけで、何か、何か言って欲しい。
「どう…じて゛っ、さァたッ…ざ、ん」
「ごめん…ごめんね。ごめんね、莉音君、ごめん…」
佐渡さんの謝罪を聞きながら僕の意識が遠くなっていくのを感じた。
「…うわぁっ!!」
急いで起き上がり周囲を見回す。ここは彼女の家の、リビング…?
何で、僕は玄関で死んだはず…そうだ。僕は死んでいるはずだ。手の震えが止まらない。僕はどうなっているんだ…?
視界の端にある時計に表示された日付を見て、僕が殺されてからまだ数時間しか経ってないことに気づく。
混乱している場合じゃない、もしかしたら佐渡さんが殺しに来るかもしれない。急いで、逃げないと。
そう思うのに体が動かない。
「あ゛…ッ、……はっ…」
呼吸も上手く出来ない。酸素を吸うことが出来ているのかわからないくらい息苦しい。
死の恐怖に身体が完全に怯えてしまっていて一歩も歩けない。
無理だ。
「はっ……ぁ゛……ふッ、……はっ…」
「……莉音君?大丈夫?」
突然聞こえた声に肩が跳ね上がる。ゆっくりと視線をそちらに向けると心配そうな顔でこちらに駆け寄る佐渡さんがいた。
「さ゛、わ……たり、さ……」
「大丈夫?顔色が悪いけど……それに汗もすごくかいてる。とりあえず水を……」
動けない。はくはくと口を動かすだけで必死で絞り出そうとした声も上手く出ない。怖い、ただ目の前の人間が怖い。また僕は殺されるのか、次はもう生き返らないんじゃないか、いやだ、殺されたくない。死にたくない。もうあんな思いは
「…おん君?、莉音君、大丈夫?……落ち着いた?」
佐渡さんが僕に水を渡してくれた。
震える手でコップを受け取ろうとする。そうだ、あれは夢だったかもしれない。締め作業も長引いちゃって佐渡さんの家で寝ちゃったのかもしれない、そんなことが前にもあったなぁ。
「ありがとう、ございます」
水を飲もうとする。その時自分の目が赤くなったように、
いや、気のせいだ。疲れているんだろう、今はちゃんと黒色だし、ただの見間違いだ。本当に気が動転しているんだろうな、早く飲もう。
「……ぅ…ごはッ!?」
喉が焼けつくように痛い!でも熱湯ではないし、何を飲まされたんだ!?
「…あーあ、お前もなったんだ。」
言っていることがわからない、何!何なんだ!?喉が、痛い。
痛みに耐えながら佐渡さんを見ると、どんどん変容していく。声が高くなり、目は赤く、黒くショートだった髪は白髪で人形のようなロングヘアーに変化し、体は子供ほどに小さくなる。
「…コレね、聖水。死ぬほど触りたくないのにわざわざ持ってきてやったんだよ?感謝してほしいぐらい。ていうかマジ意味わかんねェ、お姉様がアタシ以外に眷属作っちゃうとかさ…ちゅーことでさぁ、オマエ死んでくんね?」
小さい少女の姿になった佐渡さん?が僕にそう言ったあと片手を広げる。するとどこからともなく赤い鎖が現れた。
と思えば素早く僕を拘束する。
「ぐ……ッ!あ゛……」
ギリギリと全身を締め上げられる。また、また殺されるのか、どうしてこんなことに?僕はただ、ただ彼女にケーキを食べて欲しくて…
「お姉様に惚れてるってだけでも羨ましいって思ってたのに……ま、都合いいわ。お姉様にはアタシだけなんだから、間男が消せて清々する」
「はっ……はーっ……」
「じゃ、束の間の生き返りからおさらばしてね」
さらに締め付けが強くなる。全身の骨が軋む音が聞こえる。
「……ぃ、やだ!!」
そうだ、もうごめんだ。何で死ななければならないんだ。まだ生きていたい。僕はまだ生きていたい!!
僕を縛る鎖を砕こうと力を込める。するとさっきまでどうやっても壊る気配がなかった鎖が急に液体になり、床へ落ちる。
謎の彼女は驚いたような表情をした後すぐに苦々しい表情へ変わる。
「お姉様ったらこんなプレゼントまで…チッ、どこまでもイラつく男ね。残念だけど今のアンタじゃ殺せないから、まを殺しにくるわ。じゃあね、クソ野郎」
よくわからないまま何とか難は逃れられたものの、急激に疲労感と倦怠感が全身を襲う。それでも体を動かし、スマホで佐渡さんに連絡を入れる。
本当ならこのまま探しにいきたいが、それ以上に眠気が凄まじい。
「…もう、ッ無理、」
泥のように眠ってしまいたい。あわよくば全部夢であってほしい。
なんて願いながら僕は深く眠りに落ちていった。