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雑文ラノベ「第33回異世界宴会旅行っ!~諸君っ!宴会は道中のバスの車中から既に始まると心得よっ!~」

1万文字を費やしても序盤しか書けていない・・。なんで?

社員旅行・・、これはまぁ今時の若い子たちからはパイソンカマムシの如く嫌われている社内イベントである。

そもそも働く事自体が嫌いなのに、更にSNS上の知り合いでもないやつらと集団行動を強制されるなど、彼ら、彼女らにしてみれば地獄に落ちた方がマシと言い切ってしまう程忌み嫌われている行事だ。


なので年々社員旅行を行なう会社は減り続けている。統計が公開されている5年前のデータでは社員が3名以上いる優良企業33万社の内、社内行事に社員旅行を取り入れている企業は33社しかいなかった。社内運動会に至っては『3社』である。


33万社の中で、社員旅行が行なわれている会社が33社・・。しかもこれは5年前のデータである。グラフにしてみれば一目瞭然だが、きっとそのグラフの線は右肩下がりであろう。

そして実際、今年社員旅行を計画している会社は2社しかなかった。その会社とは悪の組織『まお~ん』と『あかるい~だ』である。


まぁ、悪の組織と言っても、表向きは普通の会社を装っていて、殆どの社員は自分が勤めている会社が悪の組織だとは思っていない。

これは原子力発電所を有する電力会社の社員が、核爆弾の原料に転用できてしまうプルトニウムを自社が生成している事を気にしていないのと同じ感覚だ。


もしくはSNSを運営している会社の社員が、SNSが犯罪に使用されている事をそれ程気に病んでいないのと一緒である。

そう、彼ら、彼女らは悪の組織に属してはいるが、自身が犯罪の片棒を担いでいるとは微塵も思っていないのである。


で、そんな斜陽行事である社員旅行を今も開催している悪の組織『まお~ん』と『あかるい~だ』だが、この2社では社員旅行だけではなく、花見など様々な季節の行事も普通に行なわれており各月次のようなイベントが開催されていた。


1月:『凧揚げ大会』*一部地域では『雪合戦』

2月:『バレンタイン大会』+『豆まき』

3月:『ひな祭り』+『春分祭』


4月:『花見旅行』★

5月:『田植え大会』

6月:『社内合同結婚式』


7月:『七夕祭り』

8月:『海水浴大会』

9月:『果物狩り旅行』★


10月:『名月祭り』+『収穫祭』

11月:『神無月祭』

12月:『クリスマス大会』


13月:『忘年会旅行』★


これを見れるとイベント内容としては大体お祭り系と大会系と旅行に分かれているのが解る。特に旅行系のイベントには★マークをつけておいた。

もっともそれ以外のイベントも大抵は2、3日、長いものだと1週間くらいの期間で開催され、尚且つ開催地が遠い場合は宿泊込みで開催されるので殆どのイベントは旅行みたいな状況になる。

因みに13月が存在しているのはここが異世界だからである。だが中世欧州風ではない。


で、各月のイベント内容だが、まぁそのまんまである。凧揚げ大会は凧を揚げて楽しむ大会だし、バレンタイン大会は意中の相手に思いを伝えるイベントだ。

田植え大会も全社員で契約している農家の田んぼに稲の苗を植えつける行事だし、海水浴大会もそのまんまである。11月の神無月祭だって結局は酒盛りだ。


そんな中、ちょっと変わっているイベントが6月の『社内合同結婚式』だろう。これは前年に結婚した社員を再度全社上げてお祝いするイベントである。勿論経費は会社持ちだ。

因みに社内と銘打ってはいるが、別に社内結婚限定という訳ではない。あくまで前年に結婚した社員が対象となる。


なのでそれには再婚も含まれるし、結婚を期に寿退社した元社員も招待される。と言うか、取引先の方々でも希望すれば招待されちゃうくらい緩いシバリであった。

まっ、結婚式と言っても大抵のカップルは既に自分たちで行なっているので、このイベントも結局酒盛りである。


なので出席した人たちは会社が手配した様々な演出を楽しみながら酒を飲む。その演出は歌ありダンスあり、カップルたちの馴れ初めを再現したプロモーション映像ありで、更には航空機によるアクロバット飛行やオートバイの曲芸走行など多様だ。

そんな演目が一週間続くのが『社内合同結婚式』であった。因みにその間会社は休みである。そして当然ながら社員は勤務扱いなのでお給料が減る事はない。


それにしてもイベントが多過ぎないか?しかもそれぞれのイベントって期間が2、3日から長いものでは一週間って・・。この2社の社員って働いている時間よりも社内行事に参加している時間の方が長いんじゃないのか?そんな状態で会社は社員にお給料を払えるのか?

まぁ、その原資がどこから来るのかは謎だが、探りを入れても返り討ちになりそうなのでそっとしておこう。なんせ相手は『悪の組織』だからな。


で、社員旅行であるが、今回は悪の組織『まお~ん』と『あかるい~だ』の内、『まお~ん』の『海水浴大会』に随伴してその実体をリポートしてみよう。


時は8月初旬。世の子供たちは夏休みの真っ盛りだ。だが、大人たちももう直ぐ訪れる盆休み、もしくは夏季休業を夢見て額に浮かぶ汗を拭いながら労働に勤しんでいた。

そんな中、朝方のまだ涼しい時間に全国各地の広場に人々が集まっていた。その数、それぞれ凡そ数百人ほど。


因みにこれらの人々は別にラジオ体操に集まったのではない。そう、これらの集団こそ、悪の組織『まお~ん』にお勤めしてる社員の方々とそのご家族及びご近所さんたちである。

そして彼ら、彼女らの目的は『まお~ん』が主催する『海水浴大会』に参加する事だった。


で、海水浴と銘打つのだから彼ら、彼女らは海岸に行かねばならない。だが観測ポイントに選んだこの場所は海に接していない内陸地の自治体として有名な『長野原州』のど真ん中である。


故に彼らはこれから3時間ほどかけて大型バスに揺られながら海を目指すところなのである。その為のバス群は既に駐車場に待機しており夏の日差しに負けないように今からエアコンをフル回転させて乗客たちが乗り込むのを待っていた。

そして定刻となったのか、集団の差配役と思われる男性がハンドマイクを手に挨拶を始めた。


「えーっ、それでは皆さん。時間になりましたので出発いたしましょう。今回の旅行の詳しい説明は各車に乗り込む案内係がバスの中で行ないます。お乗り頂くバスは1号車から6号車までがご家族連れの方々用で、7号車から10号車までが宴会用です。11号車と12号車はリクライニング仕様となっていますので海につくまでちょっと仮眠を取りたいという方がご利用下さい。それではご乗車下さい。」

差配役の説明に参加者たちは予め指定されていた車輌へ移動を始める。そして車中で必要な物以外の荷物をバスの側面に開いている荷物置き場前で待機している運転手に渡しバスへと乗り込んだ。


そんな参加者たちを飲み込んだバスの名前は『メイクイーン』。バス製造メーカー『五十鈴』が誇る44人+8人乗りの大型バスだ。

もっとも、ここ以外の場所から出発するグループにもそれぞれの地域毎に違う車種が用意されており、とある地域の集合場所には『目野自動車』の『プリンセスサツキ』が並んでいたし、また別の場所には『四菱富岳』の『トトロン』が列をなしていた。


そして1号車から6号車までのご家族連れ用のバスにはバスガイドが随伴した。他のバスにバスガイドが付かないのは7号車から10号車まではどうせ車内で飲んだくれるので説明など聞かないだろうし、11号車と12号車は案内係以外はみんな爆睡するはずなのでやる事がないからだ。


と言う事で、まずは家族連れが乗る1号車から中の様子を伺ってみよう。


「皆様、お早うございます。本日は当社ネコバス観光をご利用頂きありがとうございます。私は本日皆さまを海水浴場へご案内させて頂くガイド、森山森玲子でございます。そして当バスを運転するのは勤続66年のベテラン運転手、草壁龍雄でございます。」

バスガイドの説明に車内の雰囲気が一瞬凍りつく。まっ、そりゃそうだよな。だって18歳から運転していたとしても勤続66年だとおん歳84歳だもの。

まぁ、現在下道を走っている滑らかなバスの動きからは確かに84歳以上のご老体が運転しているとは思えないプロの運転技術を感じるが、それでもビビる。


しかし、そんな参加者たちの動揺を知ってかしらずか、バスガイドはあくまでもマニュアルに沿って説明を進めた。


「今回の目的地は映画『地獄の黙示録』で米軍のヘリコプター強襲部隊が焼き払ったヌング川の河口付近の海岸・・、を模したアトラクションが売りのカーツ海岸でございます。ですので午前と午後の2回、沖合いから多数の軍用ヘリコプターが押し寄せ海岸線にロケット弾を撃ち込む演出がありますのでご堪能下さい。特に圧巻なのがF-5戦闘機によるナパーム爆弾投下演出でございます。ポイ捨て煙草による山火事など子供の火遊びと感じるほどの膨大な熱量を肌で感じて下さい。絶対トラウマになります。」

いや、ガイドよ・・、このバスに乗っているのって家族連れなんだけど?どこかの軍事オタクサークルへの説明と間違っていないか?と言うか、そんな演出されたら子供が泣くだろうがっ!


だが、そんな参加者の心の突込みを読み取れないバスガイドは相変わらずマニュアルに沿った説明を続けてゆく。


「ここから現地の海岸までの距離は凡そ330km。時間は3時間を見込んでおります。その内、300kmは空中移動エリアである高規格自動車空走道路を走ります。走行高度は2千m前後ですので高所酔いの恐れがある方はお知らせ下さい。酔い止めのお薬をお出しします。」

ちょっと待ったぁ~っ!いや、なんか参加者の方々は驚いていないみたいなんだけど突っ込ませてもらうっ!


まず、空中移動エリアってなんですかっ!高規格自動車空走道路って高速道路の事ですよね?あっ、もしかして首都高みたいに高架橋で造られている道なんですか?

いや、待てっ!走行高度は2千m前後って言っていたっ!そんなに高い高架橋はねぇよっ!


はい、実はわざと言わないでおきましたが、この世界のバスは反重力推進なので空中を移動する事ができるのです。但し空中を移動できるエリアは地上の安全に配慮し限定されているのでそれ以外の場所は普通に道路を走行します。

とは言ってもタイヤで走る訳ではありません。普通に30cm程車体を浮かせて走ります。つまりSFで言うところの『エアカー』ってやつです。


ただ、空中には地上の道路のような『道』はありません。なのでどこでも走れるのですが、落下事故などを防ぐ為に空中を走れるエリアは決められています。そのエリアが『高規格自動車空走道路』と呼ばれています。

そして高規格自動車空走道路内での大型バスや大型トラックの制限速度は200km前後です。何故前後なのかというと地上と違って上空では風の影響を受けやすく、尚且つ速度の基準とするものが大気との相対速度しかないので厳密な速度を測りにくいからです。


因みに『音速』とは音が大気中を伝播する速度の事ですが、この速度は大気の密度によって多少変化します。なので大気密度の高い低空よりも、成層圏近くの大気の薄い場所の方が音速は遅くなります。

まぁ、ジェット旅客機が高高度を飛行するのは音速云々よりも大気との接触抵抗軽減による燃料消費率の軽減が一番大きな要素なんですけどね。


・・などと後出しの説明をしている間にも、バスガイドは参加者に今後の予定を説明している。


「今回の移動距離はまずインターまでの下道が10km15分。高規格自動車空走道路内が300kmで1時間30分。そして現地近くのインターから海岸までの下道が20km30分を予定しています。

そして集合場所を出発したのが午前6時で海岸への到着は9時を予定しています。その間、高規格自動車空走道路内のサービスエリアにて2回トイレ休憩をそれぞれ20分ほどとります。本日は平日ですのでそれほど混んではいないはずですので慌てずに用を済ませて下さい。

そして現地の宿泊施設に到着後は、まずお荷物を部屋に置かれた後、目の前に広がるカーツ海岸をご堪能下さい。本日と明日のお昼に関しましては、皆さまの会社からチケットが支給されているはずですので、それを使えば現地の協賛飲食店でお食事ができます。

また本日のご夕食と翌日の朝食に関しては宿泊施設の食堂にてご用意させて頂いております。そして明日の予定は午前中は自由行動で、午後2時に宿泊施設を出発し午後5時に本日の集合場所へと到着予定でございます。その後は現地解散とお聞きしておりますが、くれぐれも明日車内で飲酒された方はご自身で運転をなさらぬようお願いいたします。自動運転機能が装備されていない車輌で来られた方は運転代行サービスをご利用下さい。それでは皆さま、インターに着くまでもう少しかかりますのでおくつろぎになって車外の風景等をご堪能ください。」


そこまで一気に説明したバスガイドは一仕事終えたとばかりに参加者たちへ一礼すると運転手の脇にあるガイド用の席に座り、ペットボトルの水をひと口含んだ。

うん、まぁ定形文とは言え長い説明だったからね。一息入れたくもなるよな。


さて、取り合えず何事もなく出発したバス群だが、11号車と12号車は前日まで仕事をがんばったお父さんお母さんたちが爆睡しているはずなのでそっとしておこう。

当然それらのバスの窓には全て遮光カーテンが引かれ外光を遮断してる。バスの床面にも遮音用の防音材が厚く貼られており、反重力装置が発するノイズを極力伝えないように工夫されていた。


とは言え、完全に無音とするのは難しい。なので車内には単調でゆったりとしたテンポの曲であるエリック・サティの『ジムノペディ』が静かに流されていた。

因みに『ジムノペディ』はアニメ映画『涼宮ハルヒの消失』の最後に使われていたとの噂もある。


そして問題は7号車から10号車だ。これらの車輌は宴会用である。そしてわざわざそんなバスに乗るやつは初っ端から全開なはずだ。

なので本当ならば状況を確認するのも嫌なのだが、これも仕事なのでそちらも見る事にしよう。


さぁ、心の準備はいいかっ!それではいざ、酔っ払いたちの楽園に突入するっ!


「がははははっ!私の酒が飲めないというのかっ!うむっ、よい心掛けであるっ!ならば私が飲んじゃおうっ!がははははっ!」

7号車に視点をフォーカスした途端、この有様である。さすがは宴会車輌。期待を裏切らない展開だ。

そしてこの車輌にて場を取り仕切っていたのは悪の組織『まお~ん』輸送部隊の主席幹部、『出雲のヤマタノオロチ』こと神輿 恋菜 (みこし こいな)であった。


そして今、恋菜は6本目の缶ビールをバス備え付けの冷蔵庫から取り出すと迷う事無くステイオンタブに爪をたて引き開いた。


ぷしゅ~っ!


開栓と共に缶内から閉じ込められていた炭酸ガスが放出され、減圧により発生した泡が飲み口から零れそうになる。

それを恋菜はおっととという感じで口の方を缶に近づけて舐め取った。そしてそのまま一気に半分ほどを飲み干す。


いや、神輿 恋菜よ。その缶って500mml缶だよな?バスに乗ってから今までに飲んだ缶も全て500mml缶だったよな?マジかよ・・、ヤマタノオロチではなくてウワバミに字を改名した方がしっくりするんじゃないのか?

いや、ウワバミってニシキヘビや伝説上のオロチなどを指す言葉らしいからどっちでも同じか。


だが、そんな恋菜の暴飲が、なんか普通に思えてしまうほど車内には酒ビンや缶ビールが飛び交っていた。

成る程、7号車から10号車にだけ特別に車内にトイレが設置されていた訳だ。こんな短時間にこれだけ飲めばトイレ休憩まで待てる訳がないからな。

あっ、座席のシートも防水用のシートで覆われているや。成る程、ゲロ対策だな。それにしても出発してからまだ30分も経過していないのに車内には酒の匂いが充満している。これなら確かに会社は専用車輌を用意するわけだ。アルコールに弱い人ならばこの空気を吸っただけで多分酔うであろう。


「にゃははははっ!皆の者、飲んでおるかぁっ!」

「おおーっ!」

恋菜の激に車中の全員が手にした酒を掲げて応える。


「うむっ、本日は無礼講である。故に日頃口に出来ぬ事も酒の力を借りて伝えられようっ!よって、私に告白したい者は前に出よっ!結婚指輪は給料3年分だぁ~っ!」

「・・。」

恋菜の言葉に対して、車中の全員はどう反応したものかと互いに顔を見合わせる。いや、酔っ払い共よ。なんで急にシラフに戻るんだ?そんなに無理難題を言われた訳では・・、いや、給料3年分はちょっと高過ぎるか?えっ、問題はそこじゃない?


まぁ、恋菜もシラフの時にこんな反応をされたらズーンと落ち込むのだろうが、今は幸せ全開フルスロットル状態である。つまり酔っ払いだ。

なのでみんなの反応が薄いのは酒が足りていないと判断したらしい。


「よろしい、そうだな。さすがに仲間の前では言いづらいであろう。それに関しては私の配慮が足りなかった。なので後でこっそりラブレターを私の下駄箱の中に忍ばせるがよい。但し文字数は3千文字までで、ジャンルは宇宙か詩限定とする。間違ってもエッセイジャンルには送るなよ?私の隠れファン共が先を越されたと言って泣くからなっ!」

いや、恋菜よ。お前、今べろべろだろう?趣味の世界とリアルが混同しているぞ?

と言うか、コクられる事は前提なのかよっ!すごい自信だなっ!


と、まぁ、このように酔っ払いという者は理不尽な言動を平気で行なってしまうものである。特に上司がこれをやると収拾がつかなくなる。なので新人たちは飲み会を嫌がるのだ。

だが、取り合えず問題は先送りされた。ラブレターに関しては誰かがAIに書かせて、匿名でそっと下駄箱に入れておけば何とかなるだろう。


いや、もしかしたら酔いが醒めた途端忘れているかも知れない。でも一応準備だけはしておけ。

と言うか、恋菜たちの職場って下駄箱があるんだ。まさか自宅の下駄箱の事ではないよな?その場合別の問題が浮上するので更に面倒なんだが・・。


で、酔っ払いの特徴のひとつに話題がころころ変わるというモノがある。または同じ話を永遠に繰り返すのも酔っ払いあるあるだ。

なので聞き手はタイミングを見計らい酔っ払いの気を別の方へ向ける必要がある。で、今回は部下の一人が車窓からの景色を指差し誘導した。


「神輿主席っ!窓の眼下をご覧下さいっ!丁度今は我が社の上空を走っているところですよっ!」

「えっ、マジ?おーっ、本当だっ!あっ、あのトラックは私のだ。いや~、やっぱり目立つわよねぇ。うんっ、会社に無理を言って車体をショッピングピンクに塗ったのは正解だったわっ!」

そう言いながら恋菜はスマホで自分が運転を任されている会社のトラックの写真をパシャパシャ撮り始めた。それを見てまだそれ程酔っていない恋菜の部下も写真を撮りだした。

因みに『ショッピングピンク』は誤字ではない。恋菜がそう言ったから一語一句正確に伝えただけです。なので文責は負わない。


で、高いところに登った際に自分が知っている場所を探してしまうのは観覧車あるあるだが、普通は自分の会社の航空写真など撮りはしないだろう。なのに部下は恋菜のトラックを撮影している。

まっ、これは後で恋菜に献上する為であろう。何故ならばべろんべろんな酔っ払いが撮った写真などブレブレで何が写っているか判らないのが普通だからだ。

そうゆう意味では中々出来た部下である。もしかしたら去年も同じような事があって恋菜に八つ当たりされて懲りた故なのかも知れないが・・。


さて、結構な数の方々は既にお忘れであろうが、今、恋菜たちを乗せたバスは高度2千mの高さを時速200kmで『走って』いる。

そう、あくまで走っているのである。その原理は既に説明したので繰り返さないが、この世界では自動車が空中を走るのは普通だ。


なので恋菜たちが乗っているバスの近くも結構な数の自動車がびゅんびゅんと走り回っていた。

で、今度はそんな自動車たちを肴に恋菜たちは盛り上がった。


「神輿主席っ!あのトラックはライバル会社のですよっ!ちっ、ウチのトラックよりも高性能だからって我が者顔で走っていやがるっ!」

「あーっ、本当だ。よし、部下よ。撃ち落せっ!」


「いや、神輿主席。撃ち落しちゃ駄目でしょっ!我々は交通警察じゃないんだから。」

「自動車免許保有者には交通の妨げとなる運転をしている者を排除できる『私人逮捕権』というものが認められている。だから問題ない。」


「マジですか?聞いた事ないんですけど?」

「今作った。」


「法律を自作ですかっ!」

「部下よ、念じるのだ。さすればフォースは我らと共にあるっ!もしくは我々がガン○ムだっ!」

そう言って恋菜は手にした缶ビールを一気に飲み干した。成る程、さすがは酔っ払いである。意味が判らん・・。

なので部下は恋菜の関心の矛先を別のモノに誘導する事にしたらしい。


「あっ、神輿主席っ!あそこを見て下さい、あれってヘラーリの最新型じゃないですか?へぇ~、もう輸入されてるんだぁ。」

部下が指差す先には真っ赤な平べったい自動車がやたらとスラロームを繰り返しながら走っていた。

まぁ、あれは別に酔っ払って運転している訳ではないだろう。単に馬力があり過ぎてドライバーが制御できずに振り回されているだけと推測する。

これは買ったばかりのスポーツカーの馬力を甘く見ていきなり全開をかまし制御不能に陥り事故を起こすお金持ちのお坊ちゃんあるあるである。


「あーっ、あれか。あれは私の家の333軒隣の庄屋んちのボンボンだな。でもあれは偽物だよ。確か中国製EV車でガワだけを真似たなんちゃってヘラーリだ。」

「あらら、そうなんですか。そう言えばあの国のスマホ屋さんってポノレシェのそっくりさんも作っていましたね。」


「まぁ、見た目だけならば幾らでも真似られるからね。今は文章なんかもAIにお願いすれば本物そっくりなものを書き出すみたいだし。」

「本物そっくりってことは、ただのフルコピーでしかないような?それって既にパクリですらないですよね?」


「まぁ、1千兆回くらいチンパンジーにタイピングさせれば、シェークスピアの『リア王』の一節と同じ文章を打ち出す可能性もゼロではないらしいから、偶然同じ文章を書いても不思議ではないんじゃない?」

「1千兆回ってところで既に不可能ですよ。全部打ち出し終わった頃には人類はおろか太陽系だって存在していませんよ。」


「部下よ、お前ちょっと意識高い系が入っているんじゃないのか?そんなんでは人生を楽しめないぞ?」

「あっ、すみません。実は昨日、神輿主席から読むように強要されたフリードリヒ・ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』を読んじゃったものですから感化されたのかも知れません。」


「えっ、マジで読んだの?でもあれって中身は冗談で『えちえちえんじぇる』にすり替えておいたんだけど?」

「あっ、やっぱり?いや~、私もなんか変だなぁとは思ったんですけど、一応天使とか神とかが出ていたんでそうゆうモノなのかなと無理やり納得しようとしました。」


「納得しようとしたんだ・・。お前真面目だなぁ。よしっ、ならばご褒美として後でサンドロ・ポッチャリが描いた『びーびーえービーナスの誕生』の贋作をくれてやる。あれは青少年たちのオカズバイブルだからな。お前にぴったりだっ!」

「『びーびーえー』の方かよっ!そこはせめてJDくらいにして下さいっ!」


「なんだ、『びーびーえー』の良さが判らぬとはお前もまだまだだな。まっ、よい。飲めっ!」

そう言って恋菜は空になった自分の缶ビールを部下に差し出した。

だが、部下は恋菜と間接キスなどごめんだとばかりに、すぐさま冷蔵庫から冷え冷えの缶ビールを取り出し恋菜に手渡す。勿論ビールのお供として柿の種を添えるのも忘れない。


なので恋菜は上機嫌だ。なるほど、白いイタチはミルクが大好物らしいが、恋菜にはビールさえ与えておけば万事スムーズにいくのだな。さすがは部下、心得ているねぇ。


因みにこれらの酒は全て会社持ちである。そしてこれらの酒はバスの最後尾に設置された物質転送装置『ザ・フライ』経由で会社と契約している大手の酒屋から幾らでも転送されてくる。

つまり宴会用車輌内ではほぼ無制限に酒が提供されるのだ。勿論カラになった空き瓶や缶は物質転送装置『ザ・フライ』経由で送り返せるので車内が空き瓶や空き缶で埋まる事もない。


そして神輿 恋菜が私的に持ち込んだ空の大型クーラーボックスの中は、いつの間にか物質転送装置『ザ・フライ』経由で取り寄せた『マッカラン』や『スプリングバンク』などの高級酒の瓶がこれでもかと詰め込まれていた。

むーっ、これって厳密に言うと横領になるんじゃないかなぁ。えっ、取れたてのタケノコと交換したから問題ない?


いや、今は8月なんだが?タケノコって旬は春だよね?えっ、出先で貰ったんだけどトラックのシートの隙間に3ケ月間挟まっていて見つからなかったの?それを昨日見つけたから持ってきた?

げっ、そんなモンと交換したんかいっ!さすがは酔っ払い、時間感覚が狂ってるっ!と言うかそうゆう問題なんですかっ!


あっ、よくよく見たら外の社員もくすねてら・・。でも彼らは精々缶ビールだぞ?はははっ、根性ねぇなぁ。恋菜を見習えっ!いや、見習っちゃ駄目か。

まっ、昔は銀行に勤めていた女性が億単位で横領してたのがバレて新聞沙汰になっていたし、最近も貸金庫荒らしで問題になっていたからな。それに比べたらマッカランの5本や10本・・、いやさすがに10本はパクリ過ぎじゃないのか?


だが、酔っ払いたちに世の常識を説いても聞く耳など持たない。なので海岸に到着するまで7号車の車内はドンチャン騒ぎで賑わったのだった。


しかし宴会車輌は7号車だけではない。まだ8号から10号車があるのだ。そしてそれぞれの車輌に恋菜クラスの『主』がいるはずである。

うわーっ、行きたくないなぁ。でも一応全車を廻る契約だからなぁ。


と言う事で、残念ながら今回は放送終了の時間になってしまいました。なので続きはまた来週っ!

まっ、放送局がタレントの女性問題でスポンサーに降りられなければねっ!後はポイントという視聴率が社内規定率を超えられなかった時も打ち切りになります。


うんっ、世間の風は冷たいぜっ!


7号車 出雲のヤマタノオロチ編-完-

最初の台詞が出てくるまで5千文字かかってる・・。なんなんだこの書き方・・。

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んん? で? BBAの良さは…わかったんか? たけのこ食べてるそこのキミ。
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