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第六章 孤狼と槍は使いよう

いい作品を書くには、自分の苦痛を理解し、それを養分にする。

余談だがずっと最初の村をどんな風にするのか迷ってたんだが、今なら書ける

ガガバーカは自分が才能の塊だって思っている。


厳密的にはタリシテンは「話しかけている」わけではないが、

どうもガガバーカにはその全ての「行動」の意味が分かるらしい。


つい昨日まで手を焼いてるこのチビへの対応だが、

行動の意味が分かる以上ようやく扱い方には慣れるだろう。


にしても、何故一日だけでこうも手に取るようにわかってきたのか、

ガガバーカ自身も心当たりがないけど。


昨日何かあったっけ?獅子を追い出して変な牛の血を一緒に啜っただけだよな?

そっか!つまり共闘で仲間意識が芽生えたってわけか!

…あれ?共闘したっけ?

……


あれこれ思考した結果、ガガバーカは自分の頭がいいという結論に落ち着けた。


「ちゃんと前を歩け、二本脚」


でも何でこのチビがこんなに偉そうにしてるのか(いま)だ謎のままだ。


「『二本脚』と呼ぶなよ。ちゃんと『ガガバーカ』って名前があるぜ」


「……」


ガガバーカはこちらからの交流を試みる。タリシテンに理解してもらえるかどうかは分からないが。


振り向いてタリシテンの前にしゃがみ込み、自分の胸を叩いた。

(われ)は『ガガバーカ』」

そしてタリシテンに指さす。

(なんじ)は『タリシテン』」


「無理だな、お前みたいな口は生えてないから、その鳴き声は真似できない」


絶句。

考えればそうだった。いくら交流ができるとは言え、狼に名前の呼び方を教えるのは無理がある。


「じゃ狼は何を持って自と他を分別するんだ?」


「匂い。」タリシテンは敢えてその湿っぽい鼻をひくひくさせた。

「誰が誰なのかだけじゃない、感じていること、その日の気分も匂いで分かる。」


それは今の自分らみたいに、言葉を通じずに意思疎通ができるということか?


「…………」

ガガバーカは立ち上がってゆっくり歩き始め、そして考え込んだ。


もしかしたら、自分は段々狼に近づいて来てるではないか?

でもタリシテンと交流する時、匂いを介してないはずだが…

多分違う能力だろうけど。


そのまま頭を掻いて思考を発散させていたら、

「止まれ!何かいる!」

低い鳴き声に思考が呼び戻される。


振り向けばタリシテンは既に自分の数歩後ろで立ち止まり、耳を立てている。

そしてその小さな鳴き声に連れられているように、周りの草むらから同じような威嚇の声が幾つか伝わってきた。


ずっと歩いてたらいつの間にかこんな茂みのある場所に入り込んだのだ。


ガガバーカは自分の不用心を罵りながら、槍を抜く。


似たような威嚇…とすると、茂みに隠れているのはッ!!


ガサガサガサガサ、スッ!

茂みから影が躍り出て、目標は……タリシテン!

だがガガバーカの方が一歩早い。

それに向かって踏み出し、槍の柄尻(えじり)で影を突き飛ばした。


当然、群れを成してる狼なら、全ての動きが陽動だと思ってもいい。

ガガバーカは勢いでタリシテンの元へ跳びつき、振り向きもせず槍を回転させ、自分の背後死角を叩く!


「ぐぉアオ、キャヒキャヒ」

背後から悲鳴がした。

しかしこの手応え、ただ棒として一撃を叩き込んだだけで、大した反撃にはなってない。

もうすぐ次の攻撃が来るッッ!!


ガガバーカはタリシテンを肩に乗せて、片手で槍を横に一掃し、この包囲網に突破口を作った。

そして疾風のように逃げ去る。


ガガバーカは狼の狩りを観察したことがある。あれは美しかった。

奴らは流れるように連なってる攻勢で獲物を疲れ果てさせてから、ゆっくりその肉を削ぎ落とし、蹂躙していく。囲まれた獲物はまるで低地で水に飲まれるように、どことなくその防ぎようのない攻撃を受け続ける。

奴らは死角を使いこなす。団体での狩猟を知り尽くしている。


だから(いち)(たい)()のこの状況は、圧倒的不利。

逃げる以外活路はない!


もし追い付かれそうになったら、タリシテンが教えてくれるだろう。

ガガバーカは肩に乗せてるこのチビがちょっと役に立ってくれるよう願いながら自分の脚力に全てを賭ける。


できるだけ遠く、とにかく遠くへ。


だがガガバーカは急に止まった。


目の前に溝がある。危うく転び落ちるところだった。


深くはない、飛び降りれば肩くらいの高さであろう。でも向こうまではちょっと距離がある。

飛び降りたら、どこに通じるかわからない。

角度も急すぎる、上手く向こう側まで登れなかったら、最悪の場合袋のネズミだ。

だが激しく走った自分に飛び越えられるかどうか…


「追い付かれる!」

耳元の威嚇声がそれを告げる。

後ろから足音が確実に近づいてくる!

後退はできない、もう助走する距離もない。


ガガバーカは槍の先を、下に向けた。


「ふッ!」

その足でふちを蹴って飛んだ。


空中で槍先(やりさき)を溝の底に突き刺し、それをつっかえることでさらに腕に力を注げる!

この力でガガバーカは向こう側に手を伸ばし、しがみつけた!


「っとぁ」

何とか這い上がったガガバーカは槍を抜き出し、肩から落ちそうなタリシテンを手に乗せて地面に放した。


そして飛んで来た方向に目をやる。


六匹の狼が並んで呆然とこっちを眺めてる。

視線が交えた時にガガバーカはその中から失望を読み取れた。


「ほぅ、食いそびれたね。悔しいか?えっ?悔しいかー?」

命拾いしたガガバーカはこみ上がる悦びに乗じて、付け上がった。

「ほらどうした、槍でも喰らうか?ほれ、ほれ!」

槍を手にして向こう側にチクチク刺そうとする。


でもこの距離だ、届きはしない。そしてその情景を嫌そうな表情で見つめる狼たち。

その視線の奥にはガガバーカでも分かるほどの呆れがあった。


馬鹿馬鹿しいことを暫く続けていたら、狼たちは興味なさげにその場を去った。


「でもよかったのか?タリシテン。同類に付いて行かなくても?」


「狼は親と子供の群れで行動するもの。外部からきた奴は大体殺される。入れないんだ。」


どうやらタリシテンはそれが自分の名前だって憶えたようだ。


「んむ……」


群れに入れてもらえない。

それはタリシテンにとって悲しいことなのか、ガガバーカには測り兼ねる。


だからいっそ思考を切り替えて、周りの環境を観察することにした。


さっき走ってきたところと比べたら、植物は更に生い茂っている。


ちょっと頭を突き出して、飛び越えた溝の底を観察する。


これはひょっとすると、雨季の時に水が通る道かもしれない。

だとしたら付近に水源がある可能性が大きい。


「じゃ行こう。この辺に水があるかもしれないから、耳を立ててよっ………  くぅ…」

ガガバーカは茂みの向こう、遠くない場所を見つめながら言葉を失った。

「よく」の後の言いたいことは全部つっかえた。


それは無理もない。頭も真っ白になるわけだ。


すぐそこに見えるのは、木を一本一本丸ごと繋いで組んだ山みたいな柵、

そしてさらにそれを高く見下ろせる建物。


どう見てもあれは人が立てた……住処(すみか)

だけどそれを「集落」と呼ぶには恐れ多い。


自分が住んでた所とは規模が違いすぎた。


囲んでる柵もどこへでも広がるように並んでいく、

それほど巨大な…ガガバーカには言い表せない何かだった。

ここで出るガガバーカの使う二人称は「なんじ」。

この字の由来に関してはネットの辞書をあまり信用しない方がいい。

甲骨文字の形を見ればわかると思うが、「爾」は弓矢のこと。出土した石鏃せきぞく、つまりやじりから、旧石器時代後期では既に使われているのがわかった。つまりガガバーカ時代にはある。


そして実は現代の犬は人の顔を正確に弁別できる、例え目だけを露出しても主人の目を正確に当てられる(Dogs, but not cats, can readily recognize the face of their handler / Dogs recognize familiar faces from images←以前見た論文記事による)(もっと詳しいのはredditのスレDo dogs understand pictures of their owners?から読めます)。康一くんが犬だったら由花子さんの目を正確に選び出せたかもしれないね。

でもそれはあくまで長い時間を人間とともに歩いてきた「犬」だからこそのこと、つまり大脳皮質や五感などが人類とともに生活するため変化してきた結果であると考えられている。対照群として狼にそのような能力はない。

……小説の後書きを論文まとめみたいに書くのはひょっとすると俺の専売特許かもしれない。

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