慰労会(フェンネル公爵視点)
「いやぁ〜!メアリージェニー様様です!!」
「あんなに簡単にちゃちゃっと終わるなら、次から体制を見直さないといけないっすね!公爵様!」
どんちゃん騒ぎの中心で、メアリージェニーはなぜか、いつになく神妙な面持ちだった。
「公爵様!こんな時くらいは僕たちのお酒に付き合って下さいよぉ!いつも一人で晩酌ばっかりして!」
「いや、おう…」
一番若手のキャリオがぐいぐいと酒を勧めたので、仕方なく一口口をつけた。
「まったく、公爵様も人が悪い。メアリージェニー様にあんな力があるなら、早く言って下さいよ!」
「おい!こら!お前ら酔っ払い過ぎだぞ!」
そう窘めたが、勢いのついた若者を止められるほどではなかった。
「ほらほら、慰労会なんですから、メアリージェニー様も呑んで呑んで!」
「え?あ、はい…」
「ばか!止めろ!!」
ぼんやりした返答でグラスを受け取ると、あろうことか、ぐいと一気に飲み干した。酒が弱いくせに。
俺は飛びかかってグラスを奪い取る。
雫が舞う。
「フェンネル公爵様…」
顔がぶわっと赤くなったメアリージェニーを抱き止めると、くて、と寄りかかった。
「…もう酒は飲むんじゃないと言っただろうが」
「強い…お酒れす…あんまり綺麗な色なんでジュースかと…」
「おい、しっかりしろ。ここで寝られたら困る」
くかーと寝息が聞こえてきたので、メアリージェニーを両手に抱えて立ち上がった。
しん、としている。
みんなが口を開けて、ただただこちらを見ていた。
「もう、これに酒は飲ませるなよ」
扉をどかり、と足で蹴り上げて乱雑に開けた。
「…ん?ここは…お屋敷ですね…別邸に帰らないと」
「良いから寝てろ」
ずかずかと屋敷の中を大きな歩幅で進んでいく。
たどり着いた主寝室のベッドに、そっと横たえたその顔を見れば、なんとなく伺える疲労の色。
なぜもっと早く気がつかなかったのか。
「…馬鹿なのは俺だ…」
(簡単に終わらせただと?魔力なのか神力なのか知らんが、聖女の力ではない。あんなものは見たことがない。俺たちでは想像ができないほどの…巨大な力だ)
オーガ一匹が、やっと滑り降りれる程の穴。わざとギリギリのサイズを狙うほど、極力消費を抑えたいことは考えれば分かることだ。
つまりそれだけ、極度に疲弊していることは明らかである。
帰ってきてからの様子もずっとおかしかったのだ。
そこにもってアルコールが入れば…。
むにゃ、と小さい口が動く。
濡れた瞼がぴくりと動いた。
「帰って来い。ここで暮らせ」
すぅ、と控えめな寝息が、安心し切った顔が、どうしようもないくらい愛しくて、艶やかなその額に唇を落とした。
メアリージェニーから離れた時、彼女の目がぱっちり空いていたので、びっくりしてのけ反った。
「うわ!!これは!そ、そのつまりだな…」
「…ここは、フェンネル公爵様のお部屋です…良いんですか?ここで寝ても」
「お前を別邸まで運ぶのは大変だからな。あと……もう帰ってきて良いぞ」
「本当ですか!?やったー…」
そしてまた、ぐぅと寝息を立ててすぐに眠ってしまった。
(びっくりした…)
まだ心臓がばくばくいっている。
体が熱い。
これは、アルコールのせいじゃないんだろう。