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魔物討伐(フェンネル公爵視点)

流行りの菓子を貰ったので、少々浮ついた気持ちで帰宅した。

執事に紅茶を入れるように伝えて、サロンで待つ。

並べられたのは、箱から出されたマカロンと、セイロンティー。

「…?ミルクと砂糖がないな」

「珍しいですね。旦那様はいつもストレートを飲まれるのに」

「メアリージェニーは?すっ飛んでくると思ったのに」

「メアリージェニー様は別邸ですよ」


(あっ…)

そうか、昨日別邸に行けと言ったのだ。

なのに俺ときたら、喜ぶと思って馬鹿みたいに土産を持って…


(…ん?喜ぶと思って……?誰が喜ぶって?)


ちくり


(なんだ!この"ちくり"というのは!)


「旦那様?」

「〜〜〜っ!!!…たまには甘い紅茶が飲みたくなったんだ」

「…おや、素直じゃないですね。正直に戻って来いと言えば良いものを」

「うるさい!あいつと一緒に暮らしていたら、誰も嫁に来ないぞ!」

「……」

執事がただじっと見てくる。


「な、なんだよ」

「いえ?主様に結婚するつもりがおありだったのだと少々驚きまして」

「はぁー…。隠居した両親からせっつかれてるからな…いずれはしないといかんだろう」

ピンク色のマカロンを頬張った。

甘酸っぱさが口の中に広がる。

これを食べたメアリージェニーはどんな風に喜ぶのだろうなどと、懲りずに想像してしまって、頭を振った。


「呼んできますか?」

「いい。あいつを呼んだら、上手い上手いと五月蝿いだろうからな」

「誰を、とは言ってませんが」


ゴツッと重い音がする。

テーブルに頭を伏したのだ。

どうかしている自分を諌めたくて。

そんな主の姿を見かねた執事が言った。

「まったく見ているこっちがもどかしいですね」


「主様ぁ!!!」

セレンの声がした。

むくり、と顔を上げると、侍女はただならぬ雰囲気だ。

「魔物が…東の森に魔物が現れたそうです」

「なんだと!?」

「メアリージェニー様をお呼びしますよ!良いですね!?」

「ッ…!」

「…もう!意地はらないでください!今はそれどころじゃないんですから、呼びますよ!!」

セレンは俺の返答を待たずに、別邸へと駆け出して行ってしまった。





✳︎ ✳︎ ✳︎





聖女の仕事は大きく二つ。

一つは結婚式などの神聖な場で祓いの儀式を行うことと、もう一つは魔物を封印することだ。


「東の森、ですか」

長テーブルに広げた地図で、この屋敷と東の森の位置関係を確認する。

俺が率いるフェンネル騎士団の準備は整っているので、後は出陣するだけだ。


(今回は何人怪我をするだろうか)


騎士団は要人の護衛だけでなく、魔物討伐にも当然駆り出されるわけだが、人間のそれとは違い、魔物相手となると毎回多数の怪我人を出した。

精鋭たちの顔が翳る。


「場所は分かりました!では、行って参ります!」

メアリージェニーはそう言って、ピクニックでも行くみたいに玄関を出ようとしたので慌てて止めた。

「こらこらこら!!!俺たちも一緒に隊列を組んでだな…!」

「それは必要ありません」

「馬鹿を言うな!怒るぞ!」

「…フェンネル公爵様、昨日からずっと怒ってますから、別に何も思いません」

「ぐっ…でもダメったらダメだ!危険だ!」

「危険なわけないと思いますけどね。分かりました。じゃあ、一緒に来ても良いですよ。でも後ろで見ててください」


(また変なこと言ってる…)


なんでも良い、とにかく一緒に行って、メアリージェニーを護れれば良いのだ。

団員はそれぞれ馬に乗り、俺の前にメアリージェニーを乗せた。

「しっかり掴まっていろ」


メアリージェニーは、なぜか俺のことをじっと見ている。

「なんだよ」

「フェンネル公爵様は不思議です。私のことが嫌いなら、なおさら一人で行かせれば良いのに」

「仮にもこの国の聖女だからな。死なせるわけにはいかないだろ」

納得しかけて前を向いたメアリージェニーは、また俺を見つめる。

「今度はなんだ!」

「死んだら魔界に戻るのですから、フェンネル公爵様のお世話にならずに済みますよ?」

「ええい!もう喋るな!舌噛むぞ!」


森の入り口に入る。木々を縫うように馬で駆けた。

突然開ける視界、そこには、禍々しい邪気を放つ巨大なオーガがいた。


「くっ!」

手綱を引き、素早く降りて抜刀した。

「お前ら!気を抜くな!!」

あちこちで馬の嘶きと、抜刀音が響く。

緊張の糸がピンと張り巡らされた。


「あらまあ、オーガ!」

でもそれは、一人だけ違ったらしい。

スタスタと歩いてオーガの足にそっと触れている。

「メアリージェニー!!離れろ!!退がれ!!!」

肝が冷える。


「公爵様!」「いけません!」「公爵様!!戻って下さい!」

団員たちの言葉を無視して、構わず駆け出した。

突然メアリージェニーの周りが光る。

ものすごい光だ。

「ダメじゃないですか。人間界に来ては。お父様に叱られるわ。間違えて出てきてしまったの?」


驚くことに、メアリージェニーの問いかけに、オーガはこくこくと頷いている。


(ありえない!人語が分かるわけがない!!)


「そう、迷子になってしまったのね。でも人を襲ってはいけないのよ。さあ、魔界への入り口を開けてあげるから、おかえり」

オーガはぺこりと頭を下げて、その僅か空いた空間の隙間へと、巨体が落ちて行った。


ふっと光が消えた。

ここに来て僅か二、三分の出来事だった。


メアリージェニーは振り向いて

「さあ!帰りましょうか!」

と言ったので、俺も団員も口を開けたまま暫く放心した。

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