別邸で暮らせ
「ええい!!ごろごろごろごろと!!!喉を鳴らすんじゃない!猫かお前は!離れろ!」
「ケチぃですね」
「なっ!だから嫌だったんだ、お前に酒を飲ませるのは……なんで度数の低いビールの炭酸割り一口でそこまで酔えるんだよ…」
実は私、とってもお酒が弱いらしいのです。
でも、フェンネル公爵様の晩酌に付き合いたくて、じぃっと見ていたら、侍女長のセレンがビールを炭酸水で割ってくれました!
「本当はお子様が飲む誤魔化しの酒だぞ…」
「子どもがこれを飲むんですか!?それはいけないですねぇ〜」
「いや、だから…ビールはほぼ色付けでしかないくらいアルコール分がほとんどないからで…」
「…人間は狡いです。こんなに美味しいものいっぱい知っていて。天界でも魔界でも食べられないようなもの沢山あります」
「人間界にいる内は食事を堪能したら良い」
「そうですねぇ…。でも私が帰る時は私が死ぬ時ですよ?」
「ん?」
「だって叔父さんにそう言われてます。死ぬまで勤め上げるものだと」
「は?………いやいやいや、この家にずっと居座る気か!?」
こくこくと頷いたら、フェンネル公爵様が立ち上がってしまった。
「おい、冗談じゃあない。ふざけるな。あと何年か何十年か知らんが、お前が死ぬまで面倒を見なくちゃいけないのか!?」
きょとん、として立ち上がったフェンネル公爵様を見つめました。
「はぁー……。分かった。お前は別邸に行け」
「主様!それはあんまりでは…」
セレンが口を挟んだので、叱られてしまいました。
「何があんまりなんだ!?別邸だってフェンネル家の敷地内なのだから、目は行き届く。問題ないだろう!一生一緒に暮らすなど、まるで娶ったみたいじゃないか!!」
「…出過ぎたことを言いました。でも、主様のことは見損ないました」
「セレン!!!」
「メアリージェニー様、こちらへ」
私はセレンの後について部屋を後にしました。
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「わあ!ここが、別邸というやつですね!」
「ひとまず、メアリージェニー様のお荷物はお運びしました。その他細々したものや、生活に必要なものは後ほどお持ちします」
別邸という割には大変可愛らしく、凝った意匠のお屋敷です。
「侍女や執事など、担当を割り振って、こちらに在駐させますからご心配なく」
「セレンは本宅に帰るのですか?」
「………」
「セレン?」
「私は侍女長ですから、本宅に帰らなければなりません」
「…そう、ですか」
「でも嫌です。私はがんとしてここを動きません!!!クビになっても、主様に罰を与えられても構うもんですか!!!」
ふりふりと頭を横に振った。
「セレン、それはいけない。帰るのです」
「私は…メアリージェニー様にお勤めすることが史上の喜びになってしまったのです」
「ありがとう。なら、私の専属メイドになってくださるのね?」
「はい!このセレンに、なんなりとお申し付け下さい」
「ならばセレン、本宅でフェンネル公爵様にお仕えして下さい」
「メ、メアリージェニー様…」
「言いつけは絶対です」
セレンの瞳にぐっと涙が溜まる。
ぺこりと一礼すると、走り去ってしまった。