眠りから醒めて(前半、フェンネル公爵視点)
「う、」
酷い夢を見た気がする。
起き上がろうとしたら、目眩でベッドから落ちた。
(あれ?俺、確か黒龍に刺されて…)
夜着を捲ってみたが、何の傷もない。
(本当に夢だったと…!?まさかそんなわけがない!)
「お目覚めですか。主様、三日間昏睡してましたよ」
「みっか…?俺は確かに黒龍に…」
「メアリージェニー様が治癒魔法で治してくださったのです。魂が体に戻ってからお辛いだろうからと」
「そうだ、メアリージェニーは!?」
「かなり消耗されて、今もお部屋で休まれています」
立ち上がり、裸足で駆けた。
目眩で畝る床。
何度も絡れそうになる足。
それでも構わず走った。
メアリージェニーはベッドの上で、文字通りすやすやと眠っていた。
「大変心配していたと、メアリージェニー様の目が覚めたら、いの一番に報告差し上げなくては」
「やめろ」
「ただ眠るだけだと仰っていましたから。一週間でお目覚めになるそうですよ、心配しなくて良いと」
「早く言ってくれよ…」
セレスが退出した後、メアリージェニーの前髪を整えて、手を握った。
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あったかいなあ。
まだ眠いし、ずっとこの暖かい所にいたい。
でも、そろそろ起きる時間だ。
「…メアリージェニー?メアリージェニー!」
「フェンネル、公爵様」
ふあ、と欠伸を一つする。
お腹が空いた。
「本当にきっかり一週間…。良かった、目が覚めて」
「…ただ眠っていただけです」
「そっけないな…君はまだ怒っているんだな?」
そっぽを向いた私に、頭を下げたのが分かる。
「傷を治してくれたと聞いた。ありがとう。それから、君に酷いことを言った。今からでは遅いだろうが、ちゃんと謝らせてほしい」
そろっと見ると、ほとんど泣きそうな顔で私を見ています。
なんだか、その顔に触れたくなって手を伸ばします。
私の手にフェンネル公爵様の手が重なりました。
それから、手の甲に口付けを落とされて、しっかりと私を見つめました。
「本当に、ごめん。俺が馬鹿だったのだ。それから、君を傷つけてしまった男が、こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないが…俺は君を愛している。だから、一生俺のそばにいて欲しい」
「っ…!えっと、わ、私…私は魔王の娘で…」
「俺は、魔界で父君にお許し頂いたと理解したがそうではないのか?」
魔界でのことが思い出されて、顔が真っ赤になっていくのが分かります。
「それは、そうなのですけれど…人間界の方はそう上手くいくでしょうか…?」
「そんなことはその時考える。今は君の気持ちが聞きたい。正直に言いなさい。君が俺をどう思っているのか包み隠さずに」
「私…私は…ずっと、フェンネル公爵様のことお慕いしてました。知ってるくせに…意地悪ですね」
「それは死の匂いがしなくなってもか?」
あれ?
そういえば…私を強烈に惹きつけたあの香りがいつの間にか消えています。
(死の危険は終わったのですね)
そう思って胸を撫で下ろしました。
「香りなどではなく…フェンネル公爵様をお慕いしています」
私の頬に手が触れられたかと思うと、優しいくちづけが交わされて、溶けてしまいそうになります。
でも、初めてじゃない不思議な感じがしました。




