黒龍退治
記憶の中、私に花冠を被せてくれたのはフェンネル公爵様?
「…魔界に帰りなさい。黒龍、あなたと添い遂げるつもりはありません」
黒龍はふわっと天に舞うと、口をかっと開けて光線を放った。
こんなもの、屈折させれば良いだけのこと。
跳ね返すと、光線は遥か空まで飛んで行きました。
「ずっとずっと姫を想っていたというのに…非道い事を仰る…」
カッカッカッ
三発続けて光線が放たれ、その全てを空へと返していきます。
(フェンネル公爵様…)
どう見ても、もう助かりそうにない。
じわっと涙が滲んで、足に力が入らなくなってしまい地面に膝をつきました。
「そんなにその人間を好いておられるのですか?だが、あの世で結ばれるのは私です、メアリジェニー様」
パカっと口を開いてまた光線を放とうとしているけれど、どうしても、力が入らない。
何度も足を叩くけれど、その手にも力が入りません。
(こんな私を叱ってください、フェンネル公爵様…)
「ん?」
黒龍が光線を止めました。
「公爵様!!!!」「メアリージェニー様!!!!」
振り向くとそこには、フェンネル騎士団の皆さんがいらっしゃいました。
黒龍はぐっと力を溜め込んで一掃しようとします。
「逃げて!!!逃げてください!!フェンネル公爵様を連れて、早く!!!」
素早く駆け寄って来た、ルーイという若い騎士が、公爵様を見るや青い顔をして、私に絶望の瞳を向けました。
「フェンネル公爵様を安全なところに…」
カッ!!
光線がこちらに向かって来ました。
(間に合わない!!)
間一髪、防御魔法で防ぎました。
ルーイは腰を抜かしたらしいです。
「メアリージェニー様、こ、公爵様は…死んで…」
分かっている。
こんな現実耐えられない。耐えられそうにない。
私が…私のせいで…。
「な、なんだ!?」「地震か?」
地が鳴動している。
ショックで、力のコントロールが効かないみたいだ。
力が出ないと思ったら、今度は暴走を始めてしまった。
「うわああああ!!!!」「くっ!!」
フェンネル騎士団の皆さんだけではなく、黒龍もうまく飛べずに踠いています。
『…落ち着きなさい、メアリージェニー』
この声は
「お、お父様!?」
まさかの人物の登場にどよめきが起こりました。
『黒龍よ、魔王の名の下に厳命す。地の底へ帰れ』
「魔王様…!!冗談じゃない!私は姫と…!!」
『言っておくが、逃げられないぞ。それ以上人間界を侵すな』
「…っっっ!!!姫を攫ってどこまででも逃げおおせてやる!!!」
その時でした。
ズン、
光の矢が"空から"放たれました。
『…弟よ、先ほどからこちらに向かって何発も光線が放たれて鬱陶しい。早くそいつを連れ帰れ』
黒龍は裂ける程に口を開き、白目を剥いています。
「叔父さん!」
『メアリージェニーか。光線を払うなら、次からもう少し東向きにしてくれると助かる』
ルーイがきょとんとして私を見ていました。
光の矢に串刺しにされた黒龍はピクピクと筋肉を振るわせながら、落ちて行きました。
ぬっ
と地の底から巨大な闇の手が現れて、黒龍を掴むとそのまま沈んでいきました。
「お父様!!!待って!!!私も…!!ルーイ、公爵様をお願い!!!」
慌てて父の後を追って、魔界に戻ったのです。




