聖女の勤めが果たせない(後半、フェンネル公爵視点)
今日からまた、フェンネル公爵様と暮らせることになりました!
本宅にはセレスもいるし、嬉しくて仕方ありません。
なにしろ、セレスが淹れてくれる、ミルクティーは格別なのですから。
「メアリージェニー様、本日はキャンボス子爵とヒンス男爵令嬢の結婚式が入っておりますので、そろそろお支度を」
それは聖女のお仕事ですので仕方がないのですが、衣服がキツくてヒールも高くて、そういう場は苦手です。
少々げんなりしながら衣装部屋に入ると、トルソーに飾られた水色のドレスが中央に置かれていてびっくりしました。
「素敵…これは?」
「フェンネル公爵様より、今日のお召し物にと仰せつかっております」
「フェンネル公爵様が?私に、ですか?」
「それが…いえ、ご本人から直接聞いた方が良いかもしれませんね」
「?」
着てみてびっくり。ドレスのサイズがぴったりです。
ヒールの靴を履いても痛くありません。
これは、一体どういうことでしょう。
魔法か何かでしょうか。
メイクもヘアアレンジもすっかり終わって部屋を出ると、髪を後ろに撫でつけたフェンネル公爵様が待っていてドキリとしました。
普段と違う格好というだけで、どうにもドキドキしてしまいます。
フェンネル公爵様は、なぜか目線を逸らします。
「…似合うじゃないか」
「あの、このドレスも靴も、不思議なんです。どこも痛くないし、キツくないんです!」
「君の為に作らせたんだ。…っていうか、今まで痛かったのか?」
「私のために作って……それはどうしてですか?」
フェンネル公爵様は私の肩に手を乗せた。
「質問に答えろ。今まで我慢してたのか?」
「我慢…というか、そういうものだと思っていました!」
「〜〜〜!…それはすまない…。てっきりヒールの高い靴だのドレスだのが苦手なだけだと思っていた」
「いえ!でもこれはバッチリです!」
「なら良かった…」
「あのう、顔が赤いですよ?」
顔を隠してため息をついたフェンネル公爵様は、ぽそりと言いました。
「その、すまなかった。別邸で暮らせなどと言って。ドレスと靴はその詫びだ」
「えっ…」
くるりと私に背を向けて、腕を曲げました。
「エスコートしても?」
「は、はい」
そっとその腕に触れる。
かなり筋肉質だということは、服の上からでもわかる。
(なんだか今日のフェンネル公爵様は変です)
ドギマギしながら乗り込む馬車で、フェンネル公爵様の香りがふんわりと漂う。
神殿まで心臓がもちそうにない。
✳︎ ✳︎ ✳︎
メアリージェニーには失望した。
ざわつく会場。大泣きするヒンス男爵令嬢。激昂するキャンボス子爵。
ただ前を向いて淡々と事実を伝えるメアリージェニー。
「聖女による祓いの儀式はできません。神は、この契約は結べないと仰せです」
真っ赤な顔をしたヒンス男爵、つまり花嫁の父親がメアリージェニーに掴みかかった。
「おのれ!呪われた魔族の女め!」
「私は魔族ではありません。魔王と人間の…」
「黙れ!黙れ黙れ!どうするんだよ今更!」
「うーん、今までの聖女様がどうやっていたのか知りませんが、今後は私も含めて顔合わせした方が…」
「魔族は魔界へ帰れ!!」「そうだそうだ!!」「帰れ帰れ!!」
凄まじいヤジの中で、花嫁が私を睨んで言いました。
「私、言ったわよね?サンドレ公爵夫人のお茶会で…来月結婚式があるから、と。なぜ良き様に計らってくださらないのですか…うっ…」
「でも、神様は契約できぬと言われているので私にはどうしようも…」
ヒンス男爵令嬢に突き飛ばされて、後ろに倒れそうになった時、フェンネル公爵様が抱き抱えてくださいました。
「フェンネル公爵様…」
「メアリージェニー、少しでも寄り添おうと思った俺が馬鹿だった。君には失望した」




