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まぁ、ちゃんと戦う戦国軍記 ~めざせ!御屋形様と経済勝利~  作者: 東木茶々丸
第四章 武田家の逆襲 ~砥石城攻防戦~
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4-6 第八十話 横田様の最期

天文十九年 九月二十八日 午後 場所:信濃国 長窪城 城内

視点:律Position


律「富士屋の者!富士屋の者は、おらぬか!?」


 岩尾城から勘助さんと一刀さんと戻って早々に、京四郎の姿を探す。


信有「おう、富士屋の姉ちゃんか。愛しの彼ならば奥の屋敷だぞ」


 急に話しかけてきたのは小山田だった。

いつものように不愛想な対応で返してやろうと思ったが……、


律「お、小山田様、その傷……」


 信有の姿は実に痛々しく、矢傷が数か所見受けられる。


信有「なんの……これくらいの傷……。信廉様や智様も傷を負ったと聞いている。この身の至らなさよ……」


 信有は口惜しそうに壁に拳をぶつける。


信有「ほら、道草食ってねぇで早く行った行った」


 信有さんにどやされて、奥の屋敷へ行く。

すると京四郎は、甘利様と一緒にいるところだった。


律「き、京四郎!!!!」


 久しぶりに見たその姿に、安堵の思いが溢れて思わず抱きついてしまった。

林城の戦いの時は、ここまで思いが爆発することは無かったのに……。

砥石城攻めが不首尾に終わったと聞いてから心配で仕方が無かったのだ。


京四郎「うおっ……どうしたどうした」

律「よ、良かった無事で……。アタシ……報せを聞いた時から心配で心配で……♥」

京四郎「そりゃ心配してくれて嬉しいけど……律、お前もたいそう怪我してるじゃねえか」

律「えへへ……」


 その言葉通り、アタシは左腕と右足に刀傷がある。

当たり所が悪かったため、岩尾城からの帰りは馬にまたがって、ときどきうめきながら、やっとの思いでたどり着いたのだった。


甘利「お熱いとこ悪いけど、拙者もいるのだが……」

京四郎「あっ……すみません」


 このままだと、思い余って熱いキッスをしていてもおかしくなかった。


横田「よいよい、実に微笑ましい光景ではないか……?」


 横になっていた横田様が体を起こす。

脇腹と左ももの他に数か所の傷があり、お世辞にも良い状態とは言えない。


律「ど、どうしたんですか?その傷!?」


 京四郎が言うには、敵の銃弾を浴びた横田様を甘利様が間一髪のところで救出。

虎姉さまの種子島隊の援護の下で千曲川を渡って、京四郎の助けを受けながら長窪城まで逃げ延びて来たとのことだった。


京四郎「医者とかこの辺にいないんですか?」

甘利「諏訪まで行けば、名医の永田ながた徳本とくほん[1]先生がいらっしゃるが……」

律「す、諏訪かぁ……」


 結局、医療知識の無いアタシらには何も出来ず、二日かけて諏訪まで横田様を運んだのだった。


▼▼▼▼

二日後(九月三十日) 場所:信濃国 諏訪


 徳本先生は信虎の代からの武田家お抱えの医者らしく、甘利様が屋敷を知っていた。


「はいはい。何のようなのですか~?……ってうわぁ!!!」


 現れたのは小学生くらいの女の子である。


京四郎「あ、嬢ちゃん!徳本先生知ってる~?」

甘利「松本……。徳本先生は……その方だ」

京四郎・律「ええええええええええええ!」


 いわゆる、のじゃロリ体系とでもいう奴か?

存在したのか……この人種。いや別に「のじゃ」とは言っていないけど。


甘利「ちょっと横田様を見て欲しくて……」


 二本の竹と陣幕を使った簡易担架で横田様が運び込まれる。


徳本「うわっ……ひどいキズ……。ちょっとみてみるね」


 徳本先生は横田様の容態を見始めた。

心なしか横田様は長窪城にいた時よりも息づかいが荒い気がする。



 やがて処置が終わったのか、徳本先生が待っていたアタシたちのところに来る。


徳本「てっぽうによるキズで、すっかり化膿しちゃってます……。ひとまず、たまは取ったたんですが、もう……ながくはないとおもいます」


その日の深夜、アタシたちは横田様に呼び出された。

秋ということもあって、鈴虫の鳴き声が寂しげに響いている。


律・京四郎「………………」


 呼ばれたものの、なんて声を掛けたらいいのかわからない。

しばらくの静寂の後に横田様が口を開く。


横田「律殿。怪我の具合はいかがか?」

律「あ、……っはい!大丈夫です……」


 嘘だ。横田様が気がかりで、すっかり忘れていただけだ。

思えば……、横田様とは長い付き合いだ。

甲斐に来てから世話になり、韮崎馬場の競馬の時も応援してくれた。


 あー、ダメだ。思い出してたら涙が出てきちゃった。


横田「京四郎殿。以前食べた、あの蕎麦!実に美味であった……。あれは……ネギとか合うぞ」

京四郎「また作ってあげますから!だから……」


 珍しく、京四郎の目も赤くなっている。


横田「わしには……娘一人しかおらぬ。故に……娘・息子のように思っておった……」

律「そんな……」


 取りあえず言葉を発するが、なんと続けたら良いのかもわからない。


横田「これは……わしの苦無くないじゃ……。もう甲賀を離れて……長くなるが、京四郎にこれをやろう」


 横田様は腰につけていた苦無を京四郎に手渡す。


横田「ふぇっふふ。思えば……そなたたちに会えて、実に良き日々であ……(ったわ)」


 言葉の最後が聞こえず、アタシも京四郎も顔をあげる。


京四郎「横田様!横田様!」

律「徳本先生!徳本先生!」


 横田 備中守びっちゅうのかみ 高松。

武田五名臣の一人であるこの男は、享年六十四歳でこの世を去った。



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[1]永田徳本:戦国時代の医者。武田家の侍医。1513年生まれ。武田信虎の代から武田に仕える。のじゃロリ設定なのは作者の趣味。


お読みいただきありがとうございます。

甲斐に入ってから、度々登場してきた横田高松はここで退場となります……。

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