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まぁ、ちゃんと戦う戦国軍記 ~めざせ!御屋形様と経済勝利~  作者: 東木茶々丸
第四章 武田家の逆襲 ~砥石城攻防戦~
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4-5A-2 第七十九話 撤退戦

この話はAパート・76話『村上軍の攻撃』の続きになります。

天文十九年 九月二十三日 午前 場所:信濃国 塩田城 城内

視点:京四郎Position


お龍「それで、まさに言ってやったんだよ。うじうじ悩んでねぇで突っこんでけって……


 そんな不毛な会話を、お龍としていた時だった。


小山田虎満「おおっ!京四郎、ここにいたか……!大変じゃ、村上軍が……もう来ておる!」

京四郎「落ち着いてください。敵が陽動として小部隊を動かしているだけでは?」


 なにせ、ここは村上領の近くであり敵の方に地の利がある。


虎満「そうではない!来ているのは義清本隊じゃ!」

京四郎「げえっ!義清は高梨氏と戦ってるんじゃなかったのか!?」


 智様もその隙を突いての出陣だったはずだ。


虎満「真田様からは長野勢を発見したとの報告も受けておる」

京四郎(律……お前のことだから無茶はしていないと思いたいが……)


 次々と伝えられる悪い情報に空気が重くなる。


お龍「それで、ウチの大将に何の用だ?」

虎満「おお!そうであった。実は智様は挟撃を恐れて撤退を考えておられる。その援護をして欲しいのだ。」


京四郎「援護って言っても、私では戦力になりませんよ」


 謙遜ではなく、これは事実だ。


虎満「いや、部隊が撤退する時に最初に後退するのは小荷駄隊だ。その輸送を手伝って欲しい」


 なるほど、確かに兵糧や火薬などの軍事物資をみすみすと敵の手に渡す訳にいかない。

それに、武田軍の塩田城への撤退ルートには千曲川を渡る必要がある。


京四郎「わかりました。微力でも力になるのであれば!」

虎満「ありがたい!それでは頼む」


 虎満さまは自分の配下十人あまりを付けてくれた。

塩田の城から武田軍の川の渡し場までの距離は二里半(約10キロ)。

急ぎつつ、敵に目立たないように移動する。


▼▼▼▼

同時刻 海野(現上田市) 武田本陣

視点:智様Position


 昨日の撤退命令を受けて、武田の陣営はガヤガヤと騒がしくなっている。

煌々と松明の道を作って敵に撤退が露顕する訳にもいかず、義清本隊が迫っているのに今やっと動き出せるからだ。


 しかし、撤退というのは難しい。

平家が大敗した富士川の戦いのように、一度崩れた軍は立て直しが効かないのだ。


内藤「それじゃ、先に失礼させて頂きます。御免!」

智「うむ。くれぐれも火縄や火薬を湿らさぬようにせよ!」

内藤「はっ!」


 こうして敵に退却と悟られないように、後退していかねばならないのだ。

最初に小荷駄の内藤隊・そしてその警護の高坂隊が後退していく。


必然的に先陣を担当していた小山田信有・横田隊が殿しんがりということになる。


智「すまぬ。小山田・横田……。お主たちには苦労をかける……」


 殿の命令は、相手に「死んでも通すな」と伝える物である。

この辛さは他には代えがたい。


小山田「ふははははは!殿こそ武士の誉れ!恩賞は期待しても?」

智様「ああ、もちろん。たんまりとくれてやる」


横田「今年で六十四のよわいになります。ここで死に花を咲かせられるならば……本望じゃ!」


 横田と信有は肩を組んで戦列へと戻って行った。


信廉「つ、辛いのはわかるが……。智、そろそろ退き始めねば……」

智「ああ……、すみませぬ兄上」


 信廉兄上の言葉で、目頭が熱くなっていたことに気付く。


信廉「わ、わしは西側から千曲川を渡ろう。仮に敵に捕捉されてもお主は無事で済む」

智「し、しかし……」

信廉「智が無事ならば……武田は安泰じゃ。晴信兄上の意思を継ぐのであろう?」

智「……兄上……」


 武田本隊は後退を開始した。


●●●●

砥石城 村上軍


布下「のう矢沢殿、武田の軍だが……退き始めておらぬか?」

矢沢「そのように見えるな」

布下「打って出るべきではないか?のう矢沢殿?」

矢沢「そうかもしれんな。だが罠かもしれんぞ?」


伝令「も、申し上げます!義清様が本隊を率いてこちらに向かっていらっしゃるとのことです!」


布下「これでわかりましたな。矢沢殿は敵に備えて留守ということで良いか?のう矢沢殿?」


 こうして砥石城からは布下雅朝が出撃した。


○○○○


義清「晴信の命、この義清が掌中にあり!者ども武田を殲滅するは今ぞ!」

村上軍「「「うおおおおおおおおおおお!」」」


 村上軍が怒涛の勢いで、撤退中の武田軍を襲う。


井上「敵将、武藤むとう信堯のぶたか[1]討ち取ったり!」


「小山田配下、渡辺わたなべ雲州様!討ち死に!」


 戦場のあちらこちらから武田の将兵が討たれたとの声が飛び交う。

小山田信有も矢傷や擦り傷を数ヶ所受けていた。


信有「おうおうおう!村上の強者どももやるではないか!だが……我が妻との愛の前には負けぬ!」


 懐中にある妻から貰った札を握りしめて、信有は奮戦し続けて撤退に成功した。


横田「なんの、まだまだじゃ!我が弓の餌食になりたい奴はかかってこいやぁ!」


 二の矢、三の矢と放たれる高松の矢は、ブスリブスリと面白いように敵に突き刺さっていく。


村上兵「なんだ、あのジジイ!」「この死に損ないめ!」


 あまりの奮闘ぶりに、村上の兵士にも恐怖が広がる。

その時だった。


石浦「どけどけぃ!弓なんぞロートルな武器なんぞ、鉄砲の前には無力よ!」


 数回の銃声が鳴り、そのうちの数発が高松の身体を貫いた。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

[1]武藤信堯:武田家の親族。生年は不明。歌人としても名高い。後に彼の家に、とある人物が養子入りすることになる。

[2]渡辺雲州:小山田配下。実名は不明。砥石城の戦いにて戦死。



お読みいただきありがとうございます。


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