4-4 第七十五話 信用ならない真田
天文十九年 八月十八日 夕方 場所:信濃国 長窪城 出入口
視点:律Position
高坂「すまないね。土砂降りの中……急に……来てもらっちゃって」
京四郎「ほんと……ですよ……せっかく……諏訪で……」
雷が轟いているために、まったく言葉が途切れ途切れにしか聞こえない。
律「取りあえず!中に入りましょ!」
このままだと埒が明かないので二人と共に城中へ入る。
中の部屋に通されると、虎姉さまが手ぬぐいを渡してくれた。
高坂「さらし……濡れちゃうと張り付いて気持ち悪いからね。早く拭った方がいいぞ」
律「あ、ありがとうございます」
となりに座るコイツの視界から外れるようにしながら、水滴を拭う。
京四郎「虎姉、これで貸しは二回目ですからね」
高坂「うっ……お手柔らかに……」
咳ばらいをしながら高坂さんが誤魔化そうとする。
高坂「実は来てもらったのは他でもない。岩尾城への小荷駄のお供をして欲しいんだ」
律「えっ?岩尾城に??岩尾城って言えば真田様のお城ですよね?」
以前の村上攻めの密議の時に、幸隆様が行っていたはず……。
常田「お呼びかな?」
部屋の中に入って来たのはトッキー、常田様だ。
幸隆様と入れ替わりで岩尾城にいたらしく、顔を合わせるのは久々だ。
常田「実は未だに真田の手勢は長窪城に参陣していないのです」
京四郎「それまた何故?」
常田「説明しましょう」
常田様が地図を広げる。
↑高梨領
善光寺平
葛尾城(村上居城)
砥石城(村上) 上野 →
千曲川
塩田城 楽厳寺城(村上)
←林城 長窪城(武田) 岩尾城(武田・真田)
常田「実は今、真田勢は村上方の拠点である楽厳寺の砦に備えているのです」
律(楽厳寺の砦……?初耳よね?)
疑問に思ったのは、アタシだけではなかったらしい。
高坂「楽厳寺?そんなこと幸隆様はおっしゃっていたかな……」
常田「あれ?兄から聞いていないですか?兄は伝えてあると言っていたのですが……」
あの眉毛~……じゃなかった幸隆さんめ。
わざとなのか、意図的に伝えなかったのか。
「ふん!真田のやつめ!ふざけおって!」
笠をぶん投げながら、部屋に入って来たのは小山田信有だ。
後ろには勘助さんもいる。
信有「真田の情報では塩田を拠点にすれば良いと言っておった。だが実際に行ってみれば、鎌倉の御代に作られた古城であったわ!あの様な場所を拠点にせよと!」
勘助「古城であろうと……拠点にはなるだろう」
日頃から仲良くしているからだろうか?
勘助さんは幸隆様の情報をフォローするが、いつになく弱気だ。
京四郎「智様はなんと……?」
高坂「致し方無い故、誰かが真田の様子を見て来いとの仰せでした」
なるほど……それで別動隊の小荷駄のお付きとして、アタシたちが呼ばれたのね。
信有「ここは……やはり勘助が責任を取るべきだろう。武勲の機会はお預けだな!勘助!」
信有は体調が良くなさそうなのに、気迫だけはこの場の誰よりもある。
勘助「仕方ない。俺が行こう」
こうして勘助さんは小部隊を率いて、小荷駄の小畠虎盛とともに岩尾城に向かうことになった。
▼▼▼▼
翌日(八月十九日)午前
昨日の夜まで、土砂降りだった雨もあがって出発日和な晴模様である。
律「それじゃあ……そっちはよろしく。」
京四郎「おう、任せとけ!」
富士屋の面々の分配は、
・京四郎・お龍 砥石城攻撃部隊付
・律・一刀 岩尾城救援隊付
となった。
アタシが救援部隊付になったのは、京四郎が岩尾城ならば戦うことは無いだろうと気を利かせてくれたからだった。
その一方で京四郎自身は砥石城攻め部隊と行動を共にするとのことだった。
そちらの方が抱えている兵力が多く、物資を捌き切るのに人手があった方が良いとの判断により招集されたのだ。
律「お龍もソイツをよろしくね!」
お龍「うるっせーな!こっちは仕事をするだけだよォ!」
こんな場でも、お龍はこの調子である。
律「はぁ~」
一刀「ふふ……お疲れ様です」
アタシの様子を見かねたようで、一刀さんが珍しく気遣う。
京四郎と一刀と言えば、富士屋の中でも気遣いを見せない人ランキング上位なのに。
律「でも仕事はまだまだ、これからなのよね……」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
お読みいただきありがとうございます。
この章の次回以降は、同時進行でのA・Bパートになります。
京四郎の砥石城攻めがAパート
律の岩尾城救援がBパートになります。
よろしくお願いします。




