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まぁ、ちゃんと戦う戦国軍記 ~めざせ!御屋形様と経済勝利~  作者: 東木茶々丸
第四章 武田家の逆襲 ~砥石城攻防戦~
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4-1-2 第七十一話 麺職人京四郎

天文十九年 七月二日 昼頃 場所:信濃国 諏訪 湖畔の寺

視点:律 Position


京四郎「よしっ!それじゃあ蕎麦を作っていくぞ!」


 鉢巻まで絞めて京四郎は、やる気満々である。


律「ホントに作り方わかるの~?大口を叩いた結果、恥をかいたら今までの積み重ねが、パーになりかねないのよ」

京四郎「大丈夫。昔、そば打ち体験しに行った時に職人技に見とれて必死に教わったんだ。オマエよりは上手くできるさ」

律「うぐっ……」


 反論したいところだが、家では料理人が全て調理していたので、アタシの料理スキルはゼロである。


京四郎「それに、こっちの人は麺料理としての蕎麦を知らない。多少は味が不十分でも何とか誤魔化せるだろう」

律「なんとも後ろ向きな発言ねぇ……」


 そして頼まれた食材を次々と用意する。


京四郎「そば粉・小麦粉・それに水!これでよし!」

律「そば粉と水はわかるけど、小麦粉は何に使うの?」

京四郎「よし、教えてやろう。そば粉と水だけだと千切れやすいので、《《つなぎ》》として小麦粉を使うのだ!」


律「ほへぇ~」

京四郎「だめだこりゃ」


 京四郎はすっかり呆れてしまったようで、黙々と料理をし始める。

まずは、そば粉と小麦粉を混ぜながら水を加えている。


京四郎「あ、あれある?麺棒?」

律「あるわけないでしょ。麵料理すらまともに無いんだから……」

京四郎「えー。じゃあ丸い棒状の木、持ってきて!」


 そんな物は……あ、ある!


律「持ってきたよ、はい!」

京四郎「ありがと。……ってコレ、槍の端っこの部分じゃねーか!他の物、無かったのかよ!竹の棒とかさぁ……」

律「あ、竹ね!思いつかなかったわ~」


 京四郎はうんざりしながら、捏ねた物を繰り返し押しつぶす。

この工程の体重のかけ方が大変らしく、骨が折れるようだ。

具材は違うが、ハンバーグやパンを作るときのねたやつに近い感じだ……と思う。


京四郎「それじゃあ、次!」


 京四郎は、生地が板に張り付かないようにしてから、捏ねた物を麵棒で押し延ばし始める。

形を整えて、それを切っていけば麺は完成だ。


京四郎「細めがいいかな?それとも太め?」

律「うーん。アタシは……ちょっと太い方が好きだけど」

京四郎「よし、そうしよう」


 アイツはミリ単位で細―く、細―く切っていく。


京四郎「鍋!水を入れて用意!火をかけちゃって!」

律「はいはい。お鍋に水を~っと」


 鍋の用意は終わったが、火を付けるのにはいまだ慣れない。

さすがにガスコンロもマッチも無いのでは厳しい。


律「お、おっけー」

京四郎「そして最後に茹でましょう~」


 茹であがった蕎麦をざるの上に置けば完成だ。


律「これで……?」

京四郎「そう、蕎麦の完成だ!」



▼▼▼▼

同日 夕方


諏訪姫「お、できてる~!おいしそ~!」


 部屋の中に御寮人様が入ってくる。


原虎胤「あ、邪魔するぞ」

横田「なんだか、すまないねぇ。今日はご馳走になるよぉ」

内藤「ほうほう、まさか富士屋に調理の才能があったとはなぁ……」


 ぞろぞろと武田の家臣の三人が入ってくる。


京四郎「この人たちは……?」

諏訪姫「あ、せっかくだから~って誘ったのよ。ほんとは智様も誘ったんだけど、用事があるから甲府に帰らないと~って出発しちゃってたからね……」

律「そりゃ残念」


諏訪姫「こーさかなんか、お手製の料理と聞いて食べたがっていたのに、『高坂はお仕置き中だから駄目』って智様に連れてかれちゃった」

律(よほど、腹に据えかねていたのね……)


 膳が運ばれてきて、一同は料理を眺める。


京四郎「まずは是非、お召し上がりください!」


 おそば初体験の四人は箸を取る。

内藤様は水を飲んで他の人が先に食べるのを待っている。


 もし食べられないような料理が出されても、被害を少なくすることが出来る。

実にしたたかだ。


諏訪姫「じゃあ、いただきまーす」


 一番手は御寮人様。

流石に麺がすすれないようでチュルチュルと少しづつ口に入れる。


諏訪姫「んぐ……んぐ……。美味しいわね、コレ!」

虎胤「うむ。夏にもってこいの清涼感のある料理ですな」


 二人ともお気に召してくれたようだ。


横田「この胡麻がいいですなぁ……。蕎麦との相乗効果で美味美味!」

内藤「どれどれ……んんっ!ゴホッゴホッ!」

律「あ~、一気に口に入れるから……」

内藤「も、申し訳ない……」


 アタシは内藤様の背中をさすってあげる。


京四郎「もし興味があるのでしたら、すすってお食べください。麺を口で吸い上げるのです」

諏訪姫「んっ!ん!」


 御寮人様も麺すすりに成功。チュルチュルっと口に滝登りをしていく。


内藤「この麺と申す料理、保存がききそうだな。富士屋、これを携帯食にできないか?」

京四郎「これを携帯食に……悪くないですね。製粉に手間がかかるのでそれさえクリアできれば……」

律「まだまだ工夫の余地はありそうね」


 少し多めに作ったつもりだったのに、なんと四人は完食してしまった。

その後、お寺の門の所でお見送りをする。


虎胤「これ、秋山殿にも土産にしたいな」

京四郎「近々用意させます!」


諏訪姫「律ちゃん、今日はありがとね。ごふっ……」

律「だ、大丈夫ですか?」

諏訪姫「ん、満足しすぎて食べ過ぎちゃったかも……」


横田「ふっふっふ。蕎麦がこういった食べ方もあるとはのう……。長く生きてきたつもりじゃが、まだまだ経験しとらんことも多い物じゃわい」

律「それは良かった」

横田「こりゃあ、良き想い出ですわ。ありがとう」


 横田様のぎゅっと握られた手の感触が、何故か印象深かった。



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お読みいただきありがとうございます。

普段の富士屋の調理担当は京四郎かまさです。

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