3-1-4 第六十四話 不意討ちの奇策 -MAGIC-
天文十九年 六月二十三日 正午 場所:信濃国 深志城 城内
視点:京四郎Position
甘利「ま、松本はおるか!」
城内の蔵の整理をしていたオレの所に、慌てて甘利が走ってくる。
京四郎「どうした?天と地でもひっくり返ったのか??」
甘利「いいから櫓に登れ!見ればわかる!」
甘利に急かされて、オレも櫓に登る。
すると飯富兄弟の陣の向こう、林城の東側に武田の旗印の軍勢が見えた。
京四郎「小山田虎満さまの部隊では無いよな?」
甘利「それにしては数が多すぎる」
京四郎「まさか、武田に偽装した村上の援軍ではないよな?」
甘利「それならば、とっくに飯富勢に襲い掛かっているだろう」
京四郎「……じゃあ誰?」
甘利「さぁ……?」
オレと甘利が物見でも出そうとしたタイミングで、
「早く門を開けろ!わしじゃ、横田じゃ!」
深志城に駆けて来たのは、横田のじい様である。
京四郎「これは横田様!お疲れ様でございます。いったい何の御用で?」
横田「……はぁはぁ。申し訳ないが水を貰えるか?」
横田様は水をグイっと一気飲みすると、話を続ける。
横田「実は先ほど、林城の麓に【御屋形様】が着陣されてな。京四郎殿のことを早速お呼びじゃ……」
甘利・京四郎「御屋形様が!?」
横田「そうじゃ、律さんも同じ陣におられる。早う行かんか!」
京四郎「は、はい!」
オレは、一刀さんとともに深志城を飛び出した。
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午後 場所:林城の麓の武田の陣
武田の軍勢の陣に到着して辺りを探し回っていると、律を見つけた。
律「良かった~。どうにか無事に済んでいるみたいね。」
京四郎「オマエもこっちに来ていたのか。てっきり諏訪に残っていると思っていたのに」
律「そこら辺、詳しくは【御屋形様】から聞いてくだせぇ~」
律に案内されて、本陣に入る。
本陣には武田信繫・信廉兄弟に、勘助さん・虎姉。そして【御屋形様】こと智様がいた。
智様はオレの姿を見るなり、目をキラッと輝かせる。
智様「おっ!来たな京四郎!林城の長時も突然現れた敵の大軍に肝を冷やしていることであろう!」
智様は扇を広げて余裕綽々である。
京四郎「これは……いったいどんな奇術を使ったのですか?」
林城の東には山家城や桐原城がある。
その先は筑摩山地がそびえ立っているだけだ。
京四郎「どうしたと思う?わからぬか?わからないか?」
少し考えてみるが思いつかない。
その様子を見て、勘助さんや信繫様もニヤニヤしている。
京四郎「もったいぶらないで、早く教えてください!」
智様「なんだ、わからないのか。私はお主との歴史談義で思いついた作戦を実行したたけだぞ。ほら……敵が来ると想定している方とは反対の方向から、山を越えて敵の本拠を急襲する戦法……
京四郎「わかった!カルタゴ[1]のハンニバル[2]!」智様「魏の鄧艾[3]!」
智様「んん???迦太基?汉尼拔??」
……残念ながら智様の答えは違ったようだ。
智様「虎とヌシとの報告で、山家城の存在は把握していたのでな。どうにか背後を突けないかと近場の者に聞いたら、山道があると言うのでな。そこを突破してきたのだ」
さすが智様、山道をこれだけの大軍で突破してくるというのは想像がつかなかったな。
勘助「馬場様の部隊を相手にしていた故、敵も不意を突かれていることだろう」
高坂「おかげで、行軍は大変でしたけどね」
律「補給部隊も大変でしたよ~」
汗をかいている二人の様子からはその苦労が見受けられる。
智様「ふはは。だが山家城の城主の山家昌治を寝返らせておった故、戦わずに済んだではないか!」
そこも調略済みか。思い付きだけで作戦を立てているわけではなさそうだ。
信繫「桐原城からも降伏の使者が先程来た。林城も長くあるまい」
智様「村上の援軍は心配ではあるが……真田が睨みを利かせていれば気に病むことはあるまい」
結局のところ武田軍は、飯富兄弟の軍勢が林城を少しつついただけで犠牲も少ない状態で敵の本城の完全包囲に成功したのである。
京四郎「包囲できた!?う《《ほうい》》~!」
信繁・信廉・律「……………………」
勘助「はぁ~。もう少し頑張ってくだされ」
高坂「???????」
智様「ふふっw」
智様が少し笑ってくれたので良しとしよう。
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[1]カルタゴ:紀元前、北アフリカ(チュニジア)を中心に栄えた国。地中海の覇権を争ってローマ帝国と争い、滅亡した。
[2]ハンニバル:紀元前二世紀のカルタゴの名将。ゾウを引き連れた軍を率いてアルプス越えを慣行。ローマ帝国の軍に大勝して窮地に追い込んだ。
[3]鄧艾:魏の末期の名将。間道を使って蜀に攻め込み、滅亡させた。唐の名将六十四選では張遼と並んで魏の将軍の中から選ばれている。
お読みいただきありがとうございます。
個人的にはハンニバルは好きです。




