表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まぁ、ちゃんと戦う戦国軍記 ~めざせ!御屋形様と経済勝利~  作者: 東木茶々丸
第三章 小笠原家攻略~林城の戦い~
76/349

3-1-1 第六十一話 激突区域

天文十九年六月十四日 夕方 場所:信濃国 埴原はいばら城下 馬場別動隊本陣

視点:京四郎Position


秋山「おっ!京四郎じゃねぇか!なんでこんな所にいるんだ?」


 内藤様の小荷駄隊と共に馬場隊の本陣に到着して早々、秋山様に見つかった。


京四郎「おや、秋山様。残念ながら律は、いませんよ」

秋山「そうか、じゃあいいや。律殿によろしく伝えてくれ」


 オレは冗談で言ったつもりだったのに、そのまま秋山様が立ち去りそうになったので、慌てて止める。


京四郎「あ、ちょっ……。待ってくださいよ、秋山様!」

秋山「ニヒヒ……わかってる、わかるって。それじゃあ聞かせてやろうじゃないか、俺の俺の武勇伝。あれは四日前のこと……

内藤「富士屋!馬場様がお呼びだ。早く行け!」


 秋山様の武勇伝の途中ですが、ここで馬場様によるお召し出しでございます。

オレは秋山様に一礼して、いそいそと馬場様の下へ向かう。


秋山「おいおい……まだ話しかけだったのに聞かなくていいのかよ!?」

内藤「それじゃあ、退屈しのぎに教えてくれ。つまらなかったら、酒を奢ってもらうからな」

秋山「ええっ!?」

内藤「嫌とは……、言わせないよ」


 気の毒な取り残された秋山様であった。


▼▼▼▼

 護衛の一刀さんと本陣が置かれている寺の中に入る。

寺社への禁制や諏訪への連絡役、敵城への降伏の使者など寺の中は慌ただしかった。


京四郎「馬場様はどちらにおられる?」


 たまたま出入口そばにいた若武者に話しかける。


若武者「貴方さまは?どちら様で……?」

京四郎「人に名前を尋ねる時は、まず己から名乗るべきではないか?」

若武者「こ、これは失礼。拙者は甘利信忠と申します。」


 甘利……確か、その名前は聞いたことがある。

家中筆頭の板垣家と並ぶほどの家柄だとか話だ。

オレは慌てて言葉を返す。


京四郎「甘利さま!これは失礼な物言いをしました。私、富士屋の松本京四郎でございます」

甘利「ああ、貴方が松本さまでしたか。お噂はかねがね聞いております。拙者が案内しましょう。こちらです」


 見た目の年齢は、あまり変わりがないのに人の良さそうな方だ。

甘利さまの好意を受けて、ついていく。


京四郎「なんだか、様づけだと堅っ苦しいです。呼び捨てにしてください。」

甘利「わかった。じゃあ松本、拙者も甘利と呼び捨てで呼んでください」



 なにかと目上の人の多かったこの時代で、呼び捨てし合える関係というのは嬉しい。


 奥の部屋には、馬場様と飯富兄弟、それに小山田虎満様が丸くなって座っていた。


甘利「馬場様、こちらが富士屋でございます。」


 飯富昌景様と馬場様は顔を見たことがあるが、虎昌様と虎満さまは初めましてだ。


昌景「ふふ。虎胤様に誰かこの辺りに詳しい者がいないか尋ねたら、お前がいると聞いたのでな。早速来てもらった」

馬場「敵の城の詳細な位置が知りたいのでな。教えてくれ」


 馬場様が取り出したのは、オレと虎姉と多田様で偵察した時の地図だ。


京四郎「ここ埴原城は、敵の本城である林城の裏手に位置していますが、山は急斜面でここから攻めるとなると犠牲は少なくないでしょう」

虎昌「ふむ。ならばこの林城の眼下の支城を狙うか……」

 虎昌さんが指し示したのは、現在地から林城のある山を挟んだ向かい側の地区である。


京四郎「ここ、林城の北西部には井川いがわ館[1]・深志城(後の松本城)・犬甘いぬかい城の三つの小笠原家の拠点があります。」



 犬甘城

            深志城           桐原城


                  林城                   山家城

     井川館        砦



                          埴原城



京四郎「三つの中で一番近い井川館は、ここ埴原城から約一里と五分(約6キロ)程でしょう」

昌景「館を落とす手間は、かかりそうかね?」


 矢継ぎ早に質問がオレへと飛んでくる。

虎姉も多田様もこの場にいないのが悔やまれる。


京四郎「館は普段住まいの場であり、見た印象では守りの堅い場の様には思えませんでした。敵はいるかもしれませんが、大した抵抗はないでしょう」

昌景「これで決まりだな。さっさと館は落としましょう馬場様。」


 攻撃的な昌景様に対して、馬場様は静かに地図をにらんでいる。


馬場「この犬甘城は……どうだ?」


 馬場様が目を付けたのは犬甘城だった。


京四郎「犬甘城は家老の犬甘氏の山城であり、深志の町を林城とで挟んだ状態となっています」


 それを聞いて、虎昌さまの顔も渋くなる。


甘利「あ、あの……。犬甘城の何がマズいのですか?」


 恐る恐る甘利が馬場様に尋ねる。


馬場「いいだろう、説明する。我々の軍が深志城を落とすのに手間取ると、林城の軍と犬甘城の軍とで挟み撃ちされてしまう」

甘利「あ、確かに!」


虎昌「かと言って、深志城を力攻めで落としたならば、高所にある犬甘城と林城は、落城を知って更に守りを固めるだけだ」

虎満「つまり……」

馬場「そうだ。この戦いは【電光石火】が鍵となるであろう!」


 馬場様は好みの四字熟語の決めフレーズが決まり、ご満悦である。


 その後、馬場隊の首脳陣により今後の作戦が立てられた。

犬甘氏に対しての降伏勧告は決裂し、戦いは避けられない物となった。


●●●●●

 六日後の六月二十日、


犬甘城は陥落した。


 その様子に動揺を隠せなかったのは他でもない小笠原家当主、長時である。

林城のやぐらで部屋の隅を行ったり来たりしている。


小笠原貞種「兄上……落ち着いてくだされ。士気にかかわります」


 この言葉に、長時は扇を打ちつけて怒りを示す。


小笠原長時「これが落ち着いていられるか!い、犬甘城の城に、武田の旗印が翻っておるではないか!?」

貞種「犬甘が寝返ったのではありませぬか?」

長時「馬鹿な!や、やつが寝返るはずがない!どんな手を使ったのじゃ……武田め……」



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

[1]井川館:林城に拠点を移す前の小笠原氏の居館。この頃(1550年)には支城扱い。


お読みいただきありがとうございます。

犬甘城に何があったのか……次回に続く!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ