2-10-2 第五十四話 京四郎の販売計画
今回も補足説明なしです。
豆知識を付けましたので、興味があればどーぞ。
天文十九年五月上旬某日 午前 場所:甲斐国 韮崎 牧場
視点:京四郎Position
律「それで?わざわざ朝から韮崎まで来てどういうつもり?」
時刻は辰の刻半。
こんな時間から韮崎に来ているのには理由がある。
京四郎「前に牛乳が売れる見込みが無くて困ってるって言ってただろ?」
律「ええ、確かに前から言っていたわね。何か考えがあるとか……」
京四郎「聞きたいか?」
律「そりゃもちろん」
京四郎「……秘密です」
律「話す気が無いなら聞く必要ないじゃない!」
そのツッコミは、ごもっとも。
京四郎「まぁ、まずはコレを見てくれ。まささん!」
まさ「はーい!」
まささんは、壺を奥から持ってくる。
まさ「こちらが朝に搾った牛乳を、熱殺菌したものになりまーす!」
京四郎「ありがとう。味は……こんなものだよな」
筒で軽くすくって味見をする。
現代の牛乳と味が違うのは仕方がない。妥協しよう。
京四郎「よし、次は牛乳を持って釜無川へ行こう」
律「釜無川へ??」
京四郎「そうだ。レッツゴー!」
まさ「ご~!」
律「まささん、無理して乗っからなくていいんで」
まささんのこういうノリのいいところは好き。
そして早速、川沿いにオレたちは移動した。
低温殺菌後の牛乳は川の冷水で冷やしているので持っていく運ぶ手間は一度だけでいい。
さっきの壺の牛乳は、あくまで試飲用だ。
律「それでどうするの?」
京四郎「川に来たらすることは一つだろ?」
律「もしかして……川遊び?」
京四郎「子どもか、オイ!川下りだよ、川下り!」
弥七さんに頼んで手配してあった船頭さんの船に、壺入り牛乳を運び込む。
馬だと壺ごと運ぶには流石に重すぎる。
律「船頭さん、運べそうですか?」
船頭「運送距離は、それ程長くないし何とかなるべ」
京四郎「よし、乗船するぞ!《《しっぷ》》ぁいしないぞ、舟だけに!」
律「……さすがに、厳しいかな」
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川を二里半(10キロ)ほど下ったところで……、
京四郎「達五郎さ~ん!」
達五郎「………………」
達五郎さんは無言で手を振る。
距離があるのに、手の振り方が小刻みすぎる。
突然推しのアイドルに話しかけられて、言葉が出なくなった限界オタクかよ!
川辺に着岸して、人足と馬に分担して運ぶ。
律「まだどこかに行くの?」
京四郎「フフフ、そこが牛乳がよく売れる場所だ」
しばらく進んだ所で、律は気づいた。
どうやら思い出したようだ。
京四郎「そう、ここ。牛乳を買い求める人が多い場所と言えば………?」
律「温泉ね……」
湯上りに牛乳をついつい飲みたくなる。
その心情は戦国時代でも通じるに違いない、そう推理したのである。
京四郎「もっともこの計画が成功するとは限らない。そこでゲストを呼んでいます。こちらの方でーす!」
智様「なるほど、急に虎が温泉に行こうと誘って来たから妙だとは思っていたが……」
現れたのは、智様と虎姉である。
まだ髪が湿っている様子からは、温泉から上がったばかりであることが察せられる。
そして智様が、鋭い眼差しを虎姉に向ける。
高坂「え~っと、これは……その……。エヘっ!」
京四郎(全然ごまかせてねぇし!)
智様「なるほど……、この前の偵察で何かあったな?」
律「正直に吐きなさい。いいわね?」
高坂「な、何もシなかったです。はい!」
京四郎「刺激的な体験でしたよ!……偵察が!」
智様・律「「怪しい~」」
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補足説明のネタが無いので、豆知識です。
日本に牛乳文化が定着するのは明治に入ってからのことですが、牛乳文化と馴染み深かった藩があります。
その藩とは水戸藩。徳川御三家の一つです。
水戸黄門でもお馴染み徳川 光圀は、自らの史書の編纂に従事した学者に褒美として牛乳を与えたそうです。
幕末の水戸藩主は徳川 斉昭。徳川最後の将軍、徳川慶喜の父です。
彼は卵と牛乳を精力剤として、朝食に出させていたと伝わります。
もっとも、臭いは耐えられなかったようで鼻をつまみながら飲んだそうな。
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