2-3-4 第三十九話 暴発注意!
視点:高坂昌信 Position
天文十八年十一月中旬某日 午後 場所:三河 綿花畑
私、高坂と律殿、キョ―シローの三人は、再び綿花農家の所へ向かっている。
この辺りの畑の綿花は、今川の御用商である友野屋に買い占められてしまった、
それでも、彼には策があるという。
起死回生の一手が彼の頭の中にはあるようだ。
京四郎「話を難しく考える必要はない。農家の人達も友野屋も双方ともに言及していたのは綿花のことだ」
律「うん」
京四郎「では、我々は綿花の種を買い取らせていただこう。少しばかりならば売ってくれるかもしれない」
高坂「なるほど。確かに綿花を買った所で、馬もない私たちが運ぶのは大変だ。種ならば軽い」
そりゃそうですよね。
目の前の綿花を手に入れることに躍起になりすぎて、少し考えればわかることではないですか。
結論から言えば、木綿の種子を無事に買い取ることが出来た。
こちらの提示額が気に入ったのか、蔵に会った綿花も少し分けてくれた。
物は言いようとは……このことです。
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そんなこんなで、甲斐への帰路に着くこととなった。
宿の手配役として律殿が先行しており、この隣にいるキョ―シローと二人きりである。
京四郎「なんだか、いざ二人きりになると気恥ずかしいですね」
高坂(何を照れくさそうにしているんですか、この人は……。)
さっさと律殿と合流しようと、歩く速度を速める。
少しばかり歩み続けた、その時でした。
侍「おい、そこの女武者!待て!」
甲冑姿の侍とその徒党に囲まれてしまった。
侍「お主、織田方の落ち延びた女官ではあるまいな?大人しく縛につけい!」
縄をかけられそうになったその刹那、
京四郎「あいや、お待ちくだされ!」
割って入ったのは、キョ―シローである。
京四郎「お武家様、こちらの方は私の付き人でございます。ほら、こちらの紙をご覧ください。私の物とまったく同じものでございます」
侍と徒党に、あの名刺を見せる。
徒党A「おお、これは確かに」
京四郎「それに織田方であれば、わざわざ敵方である松平や今川の方向へ向かうでしょうか?」
侍「ううむ……」
侍は少し黙ると、
侍「これは申し訳ない。あっしらの早とちりでした」
侍とその集団は引きあげて行く。
侍「いい弟さんを持ったな姉さん。大事にしなよぉぉぉぉぉぉ!」
侍たちは軍列に戻って行った。
高坂「こ、こやつは弟ではなーーい!!」
聞こえているかわからないが、とりあえず反論する。
京四郎「まったく、手を焼かせないでください。姉上さま」
高坂「誰が姉上ですか!まったく!」
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吉田城下 宿
落ち着いたところで律殿と落ち合うことが出来た。
今川家の軍列が東の方角に引き返してきている。
律「聞いたところによると、安城城は今川の手に落ちたそうですよ。城主の信広は捕らえられたとか。」
織田の三河における最後の拠点、安城城が落城したことで三河はほぼ今川の手中に落ちたと言える。
駿河・遠江・三河の三ヵ国を支配下に置いたことで、今川家の国力はより高まったと言える。
見物人A「おい、ありゃあなんだ?」
見物人B「なにやら筒みてぇな形をしとるな」
あれは智様の下で見たことがある。
確か……種子島[1]だったかな。
高坂「あの、種子島は使える武器だと思いますか?」
京四郎「う~ん。使い方次第だと思いますよ。高坂様」
妙にもったいぶった話し方をする。
京四郎「遠距離武器で言えば、まだまだ弓に劣ると思います。しかし使い手によっては弓よりも恐ろしいものになります」
律「人々の噂では、安城城へ援軍に来た織田勢が鉄砲で撃ち払われて退却していったと評判でございました」
どうやらこの先も、富士屋を頼る機会は多くなりそうです。
高坂「その……妙に畏まった呼び方、もう少しどうにかならないですか?親しみのある感じで……」
京四郎「じゃあ、昌信」
高坂「いきなり呼び捨ては馴れ馴れしいです!」
律「え~、じゃあKO様」
高坂「なんだか、却下」
京四郎「それじゃあ、高坂様はどう呼ばれたいんですか!?」
高坂「えっ……。虎姉とか……」
自分で言っておきながら、頬に熱が溜まっていくのがわかる。
律「虎姉!いいじゃないですか。なんだか新しくお姉ちゃんが出来たみたい」
こちらは好反応。さすが律ちゃん、いい娘。
問題は……
京四郎「と、虎姉wwww」
彼は大爆笑である。
京四郎「なんだかんだ、気に入ってたんですね。姉設定wwww」
高坂「ねぇ、律ちゃん」
律「は、はい!」
高坂「コイツ、殴っていい?」
一行が甲斐に戻って来た時には、京四郎は満身創痍だったらしい。
いったい何があったのでしょうね?
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[1]種子島:ここでは初期の火縄銃のことを指す。火縄銃が種子島に日本で初めて伝えられたとされることが由来。
お読みいただきありがとうございます。
高坂昌信の親密度が一段階上がった!




