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まぁ、ちゃんと戦う戦国軍記 ~めざせ!御屋形様と経済勝利~  作者: 東木茶々丸
第二章 女当主の信濃侵攻 1549年夏~
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2-3-3 第三十八話 ライバル登場!

天文十八年十一月中旬某日 午後 場所:三河 綿花畑


 木綿[1]という物の存在は聞いたことがあった。

だが……その正体が目の前にある、繭の様な物だとは思わなかった。


京四郎「綿花か……。何かに使えたか?」


 キョ―シローの方の反応は微妙である。


律「アンタは関心のあることと無いことの差がわかりやすいわね……。」


 ヤレヤレとばかりに律殿が返す。


律「木綿があれば繊維革命が起きるわ。麻以外にも選択肢が増えることで木綿の方が適している物もあるはずよ。」

高坂「確かに動物の皮革は、収穫量が安定しませぬ。絹は安くありませんし、これは手に入れたい」

律「それに、綿の種子からは油が取れるのよ。油屋として見過ごせないわ」


 そう、これだ。

富士屋の二人は、既存の物に満足せずに色々と試そうとする。

今回の油を得る手段だって、富士屋には荏胡麻があるではないか。


 それだけで満足せずに、その次の可能性を見出す。

智様が彼らに惹かれたのも、そういうところなのかもしれないと思った。


京四郎「どうも、あっちの家の人が畑の所有者らしい。聞いてみよう」


 さっそく、交渉の時間だ。その家にいた中年に話しかけてみる。


京四郎「すみません。あなたが、そこにある綿花畑の所有者の方でしょうか?」

綿花農家「ええ、そうですが」

律「実は、あそこの畑にある綿花を売って欲しいのです。もちろんお金の方はしっかりと出させて頂きますので……」


 律殿は懐から巾着を取り出して、金の用意があることを示す。


綿花農家「ああ……遅かったなぁ……。若いの」

京四郎「えっ?」

綿花農家「実はさっき別の人が来て、もう既に売るという話をしちゃったんじゃ……」


高坂・律・京四郎「「「えええええええええええええええええ!」」」


まさかの先を越された案件である。


律「ま、まあ。綿花を育てている農家は、この家の人以外にもいるかもしれないし、他を当たってみましょう」


 かくして、周辺の綿花農家を探して交渉にあたってみたが、どこの農家も最近になって話が決まったばかりだという。


京四郎「くっそー!誰だよ、綿花を買い占めているやつーーーーー!」


 京四郎が叫んでいたその時である。


?「あら、あなた達ですか?この辺で綿花を求めている方というのは?」


 話しかけてきたのは、いかにも育ちのよさそうな気品のある女性だ。


?「わたくしは、友野宗善とものそうぜん[2]。今川の御用商人にして商人司ですわ。そちら方は?」

京四郎「あ、私どもはこういうものでして……」


 また例の名刺の渡し方をする。あれが作法なのか? 


友野「なるほど、武田家の商人の方……。甲斐の方に遥々来ていて頂いたところ申し訳ございません……。こちらの畑の綿花は、わたくしが買い取ることとなっておりますの」


 そう言って、後ろにいた馬の方を指す。

どうやら積み込むための馬を引き連れて戻ってきたところらしい。


律「あの~」

友野「なんでございましょう?」


 扇を取り出して、ポンポンと手のひらを叩く。


律「アタシらの店に綿花を売ってくれたりなんて~?」


 すこし顔が引きつりながらも、律さんは笑顔で尋ねる。


友野「あら、駿府の店でお客としてならば勿論お受けしますわ」


 言い換えれば、「この場では売らねーよ」ということである。


京四郎「そ、そうですか。仕方ない……諦めます!」


 友野には綿花の購入を諦める旨を伝えた。


友野「あら、意外と聞き分けがよろしいですのね。店に来てくださいましたら、一文負けてあげますわ」


 意外にケチくさいなぁ、この人!


律「くっそー、何とかして手に入れるわよ」


 諦める気はサラサラないのが、こちら三人である。


高坂「だが、綿花は友野に全て買い取られてしまった。どうする?友野の連中が駿府へ運ぶ途中を襲うか?」

律「それも悪くないわね」


 意外にノリノリなのは律殿である。


京四郎「そう言えば、農家も友野も売り買いしたのは畑の綿花だと言っていたな」

高坂「ええ、そうです」

京四郎「ならば手はある。俺に任せろ」


 ニヤリとキョ―シローの口角が上がる。

どうやら彼には策があるらしい。



▼▼▼▼

同じ頃の甲府 富士屋


まさ「あの~、何度もご来店いただいて申し訳ないのですが」

智様「うむ」


まさ「律も京四郎も不在でございます……」


 ここのところ、智様はずっとこんな感じなのである。

まさは内心やれやれ状態である。


智様「いや、わかっている。わかっているんだがねぇ……」


 そもそも、二人と高坂様が三河に行っているのは智様の下知があったからでは?


勘助「まさ殿、察してやってください。御屋形様は寂しいのですよ」


 フフフっと笑いながら、解説する。


まさ「早く無事に、三河から帰ってくるといいですね」

智様「う、うむ……」


 その後、智様は一刻ばかり店でゴロゴロしていた。


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[1]綿花:アオイ科ワタ属の多年草の総称。繊維としては伸びにくく丈夫であり、吸湿性があって肌触りが良い。ちなみに英語名のコットンはアラビア語由来。

[2]友野宗善:生没年不明。今川家の御用商人で駿府を拠点とした豪商。女性なのは本作オリジナル。


お読みいただきありがとうございます。

一文は大体、現代の貨幣価値にして30円程です。

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