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まぁ、ちゃんと戦う戦国軍記 ~めざせ!御屋形様と経済勝利~  作者: 東木茶々丸
第二章 女当主の信濃侵攻 1549年夏~
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2-3-2 第三十七話 冬季に陶器

視点:高坂昌信 Position

天文十八年十一月上旬某日 正午 場所:三河国 上ノかみのごう城[1] 城下町


 律殿とキョ―シロー、そして私、高坂昌信の三人は三河を西進している。

豊川稲荷を過ぎてしばらく進むと、岡崎方面と西条城方面に分かれる。


 岡崎の町は、松平家の居城のある町だ。

繁栄はしているだろうが、あまり商家や職人の引き抜きは成功できないだろう。

そうした判断により、蒲郡がまごおり[2]の方に来ている。


 しかし、それ以外の所で何か得ることは、あるだろうか?

さっきのキョ―シローの話ぶりでは、お目当ての物があるらしい。


高坂「私には、わかりません……。お目当ての物は何なのですか?」

京四郎「聞きたい?聞きたいですか??」


 もったいぶらずに、さっさと教えろ!

まったく……、憎たらしいな。この男は!


京四郎「俺の狙いは陶磁器です」

高坂「と、陶磁器!?」

京四郎「そう陶磁器です。うちの店で油を取り扱っているのはご存じですよね?」

高坂「ああ、そうだったな。それと陶磁器がどう繋がる?」


律「高坂さんは普段、部屋を明るくしたい時にどうしますか?」

高坂「それはロウソクを使うなぁ。でも……ロウソクもなかなか高くてなぁ……」

律「それはもちろん、油皿[3]を……。あっ!なるほど、それで狙っているのですね」


……そうか、だからさっき《さらさら》ないと。

なるほど……、皿……さらさら……無い。


高坂「ぷっ……。皿……さらさら……。ふっ……フフフ」

律「えっ、今ツボにハマるの高坂さん!?遅くない!?」


 なるほど、なるほど。面白い洒落だな。


高坂「フフフ……」


京四郎「(おい、高坂様、まだ笑っているけど大丈夫か)」

律「(ギャグを言った本人が言う?それ~)」


律「こ、高坂さん?笑い、収まりましたか?」


 気を使ってくれる律ちゃん。いい子~。


律「それで、常滑とこなめ焼と瀬戸焼。どっちを目指すわけ?」 


 キョ―シローに律殿が問いかける。


京四郎「正直、素人には品質のことはわからないからな……。行きやすさで考えよう」


 そんなわけで、寺の僧侶に聞いてみた。

聞いたところによると、瀬戸というのは安城城のさらに北の尾張の奥地だと言う。

常滑は、そのまま西へ行き知多半島[4]の伊勢湾側らしい。


 さすがに、瀬戸は遠そうだ。行先は常滑に決まった。

織田と今川の合戦のいざこざにも巻き込まれずに、常滑に到着することが出来た。


▼▼▼▼

尾張国 常滑


 いつの間にか尾張に入っていたらしい。

陶工さんを見かけたので、世間話を話題に振ることにした


高坂「すまない、そこの陶工の方」

陶工「私でございますか?」

京四郎「ええ……。この辺は松平との勢力の境からあまり遠く離れていないようだが、争いに巻き込まれたりはしないのか?」


陶工「この辺は佐治さち様が治めとりゃあす。織田にも松平とも交易をしとる故、特に攻められることはありませぬ。知多の者は伊勢湾での交易に携わる故に、水軍の者どもも忙しいと聞いておりゃあす」


 確かに眼前の海を行き来する舟も見受けられる。

陶器の輸出において、重い物を大量に運ぶことが出来るこの場所は、絶好の場なのかもしれない。


律「どうする?これだけ悪くない場所ならば、喜んで甲斐に移る人はいないかもしれないわよ?」


 想定しなかった事態に、律殿は不安げだ。


京四郎「いや、競合相手が多いということは条件次第では移ってくれる人もいるかもしれない。何人か陶工の人に交渉してみよう」


 なるほど、上手い見方の変え方だ。

話に乗ってくる人もいるかもしれない。


 好感触だったのは、慎之介しんのすけさんである。


慎之介「甲斐?行ったことないが、儲けられるのかい?」

京四郎「それは、保証します。甲斐では、あまり腕利きと言える陶工がいないので……」

律「是非、慎之介さんには、そうした未熟な陶工に指導していただきたいのです。他の所で聞いても、慎之介さんの品は美しいと評判でしたよ」


 律殿は、すかさず援護をする。言葉の付け足し方が上手い。


慎之介「なにが、けっこい(美しい)だ……。皿を好んで作るアッシを厄介払いをしたいだけだらぁ……。でも人に教えることは悪くないな……」


 どうやら乗り気のようだ。


高坂「甲斐に移ってくれるようでしたら、費用は少しお出しします。」

慎之介「そいつは、ありがたい」

京四郎「あ、これが私どもの名刺です」


 そう言って、キョ―シローは名刺の角と角を持ってお辞儀をする。

あれが正式な名刺の渡し方なのだろうか?


 キョトンとしながら受け取った慎之介さんに、律殿が説明する。


律「この名刺は、我々の自己紹介書でございます。我々が留守でも、これを店の者に見せれば案内してもらえるはずですので」

慎之介「ほほう、これはありがたい。受け取っておこう」


 慎之介は名刺と銭を丁寧にしまい込んだ。


 目的を達成したことで、帰路につく。

まだ、三河を出る前の頃である。


律「えっ……な、なんでここにあるのよ!そういえば無いと思っていたわ」


 畑の所で、律殿が止まる。


高坂「何ですか、これ?」

律「綿花ですよ!綿花!これは大収穫だわ!」


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[1]上ノ郷城:三河の城。城主鵜殿氏の妻は今川義元の妹であった。

[2]蒲郡:東三河の市。三河湾に面している。

[3]油皿:灯火の油を入れるための小さい皿。

[4]知多半島:愛知県の伊勢湾に突き出た半島。東側は三河湾。


お読みいただきありがとうございます。

次回、ライバル登場??

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