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まぁ、ちゃんと戦う戦国軍記 ~めざせ!御屋形様と経済勝利~  作者: 東木茶々丸
第一章 甲斐と合戦と御用商人 
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1-5-4 第三十二話 真紅の誓い?

視点:律 Position

天文十八年九月上旬 午後 場所:甲斐 甲府郊外 志磨の湯


律(ひ、秘密……!?)


智様から突如、告げられたワードに混乱する。


幸い、高坂さんが温泉の周りを警護しているらしく、この場にいる人以外に聞かれる恐れはない。

高坂さんが本当に警護していたのか、それ以外の思惑があったか怪しいけど。


 それにしても、智様が知っているアタシたちの秘密って何だろう。

実は胡麻油以外の油の生成方法を試しているとか、酪農の可能性を模索しているとか、智様はどこまで把握済みなんだろうか?


 まさか、高坂×晴信な小説を書いていたことじゃないわよね……。

実際は薔薇な関係ではなく、百合な関係の可能性が大だけれど。


智様「『ゆきゆり』 十巻 特装版 アクリルプレート付 税込み2580円」


 あれ……それって、アイツがよく読んでいた漫画のタイトルよね……?

あの、雪国に住んでいる女子がコタツや温泉で暖まりながら、体も心も温かくなる……っていうガールズラブ作品である。


 というか、そのタイトルをなぜ智様が知ってるの???


京四郎「げっ……」


 犯人はコイツか。


京四郎「道理で、リュックの中に入っていないと思った!智様が勝手に盗んだんですね!」

智様「ぬ、盗んでない!ちょーっと勝手に拝借しただけだ!」

京四郎「それを、盗みって言うんですよ!まったく……早く返してください!」

智様「ま、待ってくれ。あと少しで十回目の読み終わりなんだ!」


京四郎「十分読んでいるじゃないですか」


 やんややんやの応酬である。

なんとか落ち着いたところで、智様が話を続ける。


智様「かの書物。見たことのない質感の紙質。それに色鮮やかな表紙。走る鉄の塊や見たことが無い暖かそうな食べ物。女子の絵は実に艶めかしくて……

律「コホン……」


 わざとらしく、咳払いをする。

確かに、戦国時代の人に令和の漫画は刺激が強すぎたのかもしれない。


智様「わ、私が言いたいことはだな!その本の巻末には令和と謎の元号が記されて謎の四桁の数字が並んでおったのだ。」


 あ~、発刊された時の日付が刻印されているやつ!


智様「見たことも、聞いたことも無い事柄に、最初は異国の者かと思ったが、日本語で書かれているしその可能性は否定した。とすると……。あまりに非現実的だから仮定するが……おぬし等、先の世より参ったのではないか?」


 ば、バレてる……。


京四郎「だ、だとすればどうします……?わ、私どもは噓偽りを申し上げ続けているだけかも……」

智様「ならば、私が言ったことも嘘かもしれないな?」

律「うぐっ……」


智様「まっ、ここはお互い様ということで良いな?」


 いきなり、マジトーンで智様が話しかけてくる。


智様「甲斐という国は海が無い。米も取れない。大きな街道も無く、特産品も無い。旧来の軍制が残り、民衆はより良い暮らしを求めている。」


 令和の基準で考えても、東海道から内側に入ってしまう山梨県はメインストリートから一本入った路地みたいな感じがある。


 この目の前の自分と歳の変わらないような女性の肩に、甲斐の命運がかかっているのだ。

その覚悟は生半可なものではないだろう。

智様「どうだ?私と甲斐を、他の諸国に負けない国づくりを成し遂げるつもりはないか?」


 そう言い放った智様の姿は、後世において甲斐の虎と畏怖された武田信玄の姿そのものだった。

不動明王[1]みたいな、真っ赤なオーラがそこにはあった。


律「やります。やらせてください!」


 自然と言葉が出た。

運命の出会いとは、まさにこの事を指すのだろう。


まさか、叶うはずのない片思いの武田信玄公様様(女)とこんな展開になるなんてまったく予想していなかったが……。


京四郎「ところで、私たちが裏切ったらどうします??」


 横のコイツは意地悪な質問を返す。


智様「その時?その時はね~」


 そういって智様は、いきなり裸のアタシにくっついてきた。


智様「律ちゃんは私が貰っちゃおうかな~。律ちゃん、素直じゃないところが可愛いし……。食べちゃってもいい?」


 えっ……えっ!

ちょっと!智様どこ触っているの!


律「ち、ちょっと……智様ぁっ!」

智様「あ、私は男も女も大丈夫!問題ない」


 いや、アタシは大問題ですよ!

アタシには、まだレズビアンとかバイとかそういうの、まだ早いと……。


高坂「待ってください!智様のおそばにいていいのは、私です!」


 どこから聞いていたのか、高坂様が現れて割り込もうとする。

その時である。


バッシャーン!


水しぶきが上がったと思ったら、アイツが鼻血を温泉に突っ伏していた。


 シリアスな長話にアタシたちの刺激的な絡み合いが積み重なってか、耐久量を越えてしまったらしい。

こういう時、鼻血ってホントに出るんだ……。


智様・律「「京四郎?キョ―シローぉぉぉぉぉぉ!」」


 こうして智様の重大な告白は、誰もが想定していない形で幕切れとなったのである。



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[1]不動明王:仏教の信仰対象。大日如来の化身とも。武田信玄もその像を造らせたとされる。


お読みいただきありがとうございます。

第一章の本編は今回で終わりとなります。

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