0-1-4 第四話 東の山へ行けっ!
視点:律 Position
戦国時代 ????年??月??日 場所;日本のどこかの林
京四郎「織田に仕えないなら、一体どこに行くんだ?」
律「そりゃ、甲斐の武田か相模の北条よ!!」
アタシの一番好きな戦国武将は武田信玄[1]だ。
もしも推しの武田信玄に仕官出来たならば、これに勝ることはない。
北条でもいい。
北条の本拠地である小田原城[2]は、アタシが初めて訪れた時に大感激した城だ。
京四郎「落ち着けって……。ところで北条……?北条って北条政子[3]??」
戦国時代好きなら、ベタな質問だ。
もしも彼氏or彼女が歴史オタクなら、取りあえずこの質問をしてみよう。
北条好きに悪い人はいない。
律「北条って言っても、鎌倉時代の北条氏とは関係ないのよ。京都から下って来た伊勢新九郎[4]って人が築いた勢力が鎌倉北条氏にあやかって名乗ったのよ。」
京四郎「ふ~ん」
あまり関心がないようだ……。
小田原城に角に火を付けた1,000頭の牛をけしかけて、その混乱に乗じて城を乗っ取ったりと、ネタに事欠かさない人なのに……。
京四郎「でも富士山周辺を目指すってのは、悪くない。ナビゲーションもGPSもないこの時代には現実的だ。」
大事な所はそこかい!
京四郎「ひとまず街道に出よう」
林を抜けると開けた道に出た。そのまま道沿いに下る。
人の気配が南の方がありそうだ。
しかし道を南下して気づいた。
どうも城が近いらしく、警備が厳重なのだ。
藪に身を潜めて二人して様子を伺う。
「おい待て!そこの不審者待て!」
京四郎「待てと言われて、待つわけないじゃないの~」
警備の兵が二人ほど追いかけているので、ひとまず反対方向に逃げる。
京四郎「なんで俺らに気づいたんだ、奴らめ!」
律「そりゃ、ブレザーの制服着ているからね……。そりゃいくら紺色でも目立つでしょ」
京四郎「やっぱりさっき、服もはぎ取っておくべきだったか……」
コイツ、死人の服を着るつもりだったのかよ!
追っ手はなかなかしつこい。
「そこにいるお二人、こっちこっち!」
少年が分かれ道の手前の藪で手招きしている。
信用できる相手かわからないけど、ひとまず誘いに乗ることにした。
間一髪、追っ手が迫る前に身を隠すことが出来た。
追っ手A「はぁはぁ……。くっそー、逃げ足の速い奴―!」
追っ手B「ふぅ~。もはや仕方あるまい。引き返すぞ。」
二人は引き返して行った。
京四郎「ありがとな、危ないところを助かった……」
律「本当にありがとうね。」
少年「なんのなんの、ただでさえ吉田の城[5]と新居[6]の関所の警備が普段より厳しいのに、これよりも厳しなったらたまったもんじゃねぇーでよ」
その少年は、ニコッと笑った。
見たところ小学校高学年くらいだろうか?
この時代では浮いてる格好の二人を助けてくれるなんていい子だ。
少年「ところでお二人さんはもしかして東の方へ?」
「ええ」「ああ」
二人で相槌を打つ。
少年「ほんならば、あっしが道案内してあげようか?」
「いいの!?」「そいつぁ。助かる」
少年「寂しい一人旅よりは大歓迎ですわァ!こっち、こっちの方です!」
少年は山の方を指す。
ああ……もしかしてもしかしなくても。
山越えってやつですか……。
京四郎「ところで、きみ。」
少年「はい」
京四郎「つかぬ事を聞くけど、今って何年?」
あっ、それ大事。ちょー大事。
少年「それなら天文十八年でさぁ」
京四郎「天文十八年……それっていつ?西暦って言ってもわかんないよね。律ならわかるか?」
律「う~ん、一世一元の制[7]より前だから年号とか複雑なのよ」
今の平成とか令和の計算は楽で助かる。
厳しい山道を超えると海が見えた。
律「いや……。疲れも吹っ飛ぶような景色の海ね~」
少年「いえ、あれは海じゃなくて浜名湖[8]ですわァ」
京四郎「ぷっwwwww」
我慢できずに京四郎は大爆笑。おかしいな……東海道新幹線で通り過ぎている時はこんなに大きく感じなかったのに。
というか、そこまで大爆笑することないでしょ……。
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[1]武田信玄:信玄餅でもお馴染み、甲斐(今の山梨県)の戦国大名。
[2]小田原城:神奈川県小田原市にある北条家の居城。去年まで動物園があった。
[3]北条政子:佐殿こと源頼朝の妻。尼将軍。
[4]伊勢新九郎:いわゆる北条早雲。本人はそう名乗らなかったので律はそう呼んでいる。
[5]吉田城:ここでは今の豊橋市にある吉田城を指す。同じ名前の城が複数あり、律もあまり覚えていなかったのでスルーしている。
[6]新居:現在の静岡県湖西市の浜名湖西岸の町。
[7] 一世一元の制:皇帝・天皇1人につき1つの元号とする制度のこと。明治より前は災害や疫病の流行などを理由に変更したりしていた。
[8]浜名湖:静岡県にある日本で10番目の面積を持つ湖。室町後期の地震で海とつながって汽水湖となった。
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