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まぁ、ちゃんと戦う戦国軍記 ~めざせ!御屋形様と経済勝利~  作者: 東木茶々丸
第一章 甲斐と合戦と御用商人 
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1-4-5 第二十七話 武田家重役会議

天文十八年八月中旬 正午 場所;甲斐 甲府 躑躅ヶ崎館


 ミ~ンミンミンミンミ~

どうして蝉の鳴き声と言うのは、ここまで鬱陶しく感じるのだろうか。

ましてや、武田の重鎮が重苦しい顔をして集まっているのだ。


 議長役を務めるのは、武田晴信の弟である武田信繫たけだのぶしげ

当主が不在なこの場では武田の一門衆を代表する立場である。

仕方なく、信繁は口を開く。


信繫「では、先日から申してあった通り、本日は商人司の変更についての議題で論じさせてもらう」


出席者は、

・筆頭家老の板垣信方の息子の信憲

・南部宗秀

・甲斐南西部の領主、穴山信友

・赤備えを率いる虎昌とらまさの弟、飯富昌景おぶまさかげ[1]

・甲斐北西部の馬場信春

・内藤昌豊

・駒井高白斎

・そして、御屋形様の代理の高坂昌信である


商人司を変更すべしと議題を持ち込んだ南部がまず初めに口火を切る。


南部「そろそろ、変化の時ではないかと思ってな。商人司を変更するのもその一環。信虎時代を引きずって坂田屋のままにしておく必要も無いでしょう」

高坂(よく言う……。ご機嫌取りの才能しかない南部が、その地位にい続けることが出来ているのは他ならない信虎時代の恩恵ではないか……)

板垣「古いから全部変えれば良いと言うのは早計である。そうは思わんか?飯富殿?」

飯富「え、ええ……。兄の虎昌も同じ考えでした。」

 

 昌景も渋々、板垣の意見に同調する。

歯切れが悪いが、飯富家として意見を合わせたのだろう。


信繫「坂田屋支持が飯富と板垣、南部は八田を支持と……」

 信繫は律儀に意見を整理している。

議長として公正であろうと、意見を述べるつもりは無いらしい。


南部「穴山様は、どう思われる?」

穴山「富士屋は、まだなじみが薄い。坂田屋ならば会議の意味が無くなる。八田で良いのでは?」

馬場(穴山家は、かつて今川に属して武田を攻めて来たこともある。どこまで信用してよいものか……)

高坂(一見、理論的に見えるが……結論は最初から決まっている。下手な芝居だ)


内藤「ならば、俺は富士屋を推すとしよう。どうせ変化を求めるのならば、それくらいやらなければ意味がない」

昌景(逃げたな……。まあ、事なかれ主義の内藤殿らしいな……)


信繫「坂田屋に2票、八田屋に2票、富士屋に1票だな」


 信繁は、粛々と確認を取る。


駒井「高坂はどうだ?どこが商人司に相応しいと思う」


 黙っていた駒井が、高坂に訊ねる。

それを聞いた高坂は、書状を取り出した。


高坂「実は、富士屋からは書状を預かっておる」


 出席者に一通り目を通させた後に、話し始める。


高坂「私には、高尚な学識はありません。しかし、この経世在民という考えは面白いと思いました。あくまで私個人の考えですが……」

板垣「ふん……上が成り立たねば、下の民も何もあるまい」

南部「そもそも富士屋の当主はよそ者ではないか」


内藤(勘助も横田殿も原殿もよそ者なんだがなぁ……)


 坂田屋派と八田屋派が強く否定にかかったのを悟った高坂は、それ以上の主張を諦めた。


高坂「では私は棄権と言うことで」

駒井「わ、拙僧も……同じく棄権で……」


 駒井も高坂に便乗して考えを述べない。

こうして、時だけがひたすらに経っていくのである。


 武田家では喧嘩両成敗があるため、表立った抗争などはない。

しかし、そのために潜在的な対立や利害関係が存在する。

かつては源氏の名門と言われた甲斐武田家も親子間での争い、そしてそれに伴う今川や北条の侵攻によりすっかり弱体化してしまっていた。

本来、御屋形様のご裁断で強行採決できることでも、こうして合議制を取らざるを得ないのである。


馬場「このままでは、らちが明かん!」

 

 しびれを切らしたのは馬場である。 


馬場「一度八田屋に変えてみれば良かろう。駄目ならば、その時に考えればよい。迅速果断!」


信繫も馬場の意見に押し切られたようだ。


信繫「では商人司は、八田屋に決まりとする。一同、これで異存はないな?」

「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」


 こうして、商人司は坂田屋から八田屋に変更となった。

長々とした会議だったので、ほとんどの出席者が気だるげである。


南部「では、これにて失礼!」


 こうして、一目散に帰るのはいつものことである。


駒井「信繁様、少しご相談が……」


 官僚タイプの駒井は、話し合いより作業をしている方が性に合っていると自覚している。


穴山「そうだ、実は良いお酒が手に入りましてな、馬場様もご一緒にどうです?」

 こっちはこっちで、宴会のスタンバイモードである。


馬場「しかし、良いのか?明日に村上[2]の使者と講和の予定ではないのか?」

穴山「かまわん、かまわん!どうせ午後からの予定じゃ!大丈夫、大丈夫!」

馬場「そうか!では飲もう!」


 内藤は少し気に留める素振りをしたが、面倒ごとに巻き込まれたくなかったので、それ以上の追及を避けた。


▼▼▼▼

翌日


駒井「穴山様は、も……もうすぐ来られるはずです……」

「話になりませぬ!帰らせていただきます!」


 村上からの講和の使者は、武田の代表であるはずの穴山信友の不在により帰ってしまった。


穴山「げっ、もう午の刻!?し、しまった~!!!」


 かくして深酒をしてしまった穴山信友の失態により、武田家は村上との講和に失敗したのである。




■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

[1]飯富昌景:後の武田四天王の一人、山県昌景。

[2]村上:北信濃を領する戦国大名。武田は上田原の戦いで敗北している。


お読みいただきありがとうございます。

もちろん経緯はフィクションですが、穴山信友がお酒のせいで村上と講和に失敗したのは本当です。どうも、お酒好きな人だったようですね。

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