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まぁ、ちゃんと戦う戦国軍記 ~めざせ!御屋形様と経済勝利~  作者: 東木茶々丸
第一章 甲斐と合戦と御用商人 
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1-4-4 第二十六話 金のゆくえ

天文十八年八月上旬 正午 場所;甲斐 甲府 富士屋店内

視点:京四郎 Position


ひとまず、蔵前衆に任じられたことで富士屋は、武田家の支配体制に組み込まれたことになる。

それが良い結果と言えるかは微妙なところだが、露骨な嫌がらせを受けることは無いだろう。


 そんな訳で、平蔵のご隠居は蔵前衆としての屋敷にいる。

そしてオレと律は、屋敷と富士屋を行き来する生活を過ごしている。

米以外の穀物や野菜の生産を増やすことにもつながるから、メリットはある。


 ある日の昼時、今日も横田様が店に寄ってくれた。

気が向いたからと言っていたが、これは横田の爺様なりの気遣いである。


横田「商人司争いの話は聞いておるのか?」

京四郎「合議で決めるということ以上は知りません」


律「議決の権利を持つメンバーは誰なんですか?」

横田「め、面婆めんばあ??」

京四郎「あ、参加者って意味です。」


横田様が筆を取り出したので、紙を置いてその紙に記すことが出来るようにした。


横田「ふむ。次席が上の者から、板垣様のご子息である信憲のぶのり様[1]」


 箇条書きに、つらつらと書き始める。


横田「それに南部様、穴山信友あなやまのぶとも様[2]、赤備えの飯富おぶ様、内藤様。馬場信春ばばのぶはる[3]様に駒井高白斎こまいこうはくさい[4]。この辺じゃろうな。」


京四郎「また、知らん名前が増えたな……。」

律「さすがに付き合いのある人は、ほとんどいないわね」

京四郎「商人司争いの候補に加われただけでも満足するしかないか」


横田「じゃが、望みはあるかも……しれんな」

律「なぜそう思うのですか?」


横田「本来この会議に加わるはずだった小山田は、買いたたきの件で外されている。

小山田は、そのきっかけを作った富士屋を好ましく思っていないはずじゃ……」

京四郎「なるほど」


 相槌を打つ。


横田「それに商人司争いの候補も、京出身の松木屋が力不足として辞退したのじゃ。よって現商人司の坂田屋と発議人の八田屋、それにおぬし等の富士屋の三つだけとなった」

律「それでもねぇ……。厳しい状況なのは違いないわね」

京四郎「なにか、打てる手立てはありませんか?」

横田「ふむ。書状が良いじゃろう、意見書として提出すれば富士屋の考えは伝わるだろう」


▼▼▼▼


 かくしてその夜、富士屋が武田家に助力した場合の方針を記すことにした。

現代語で言えば、セールスポイントというやつである。


京四郎「いざ、富士屋が何を目指すかと聞かれると難しいな」

律「この前、智様には富国強兵って言ったけれど、それは武田家の方針であって富士屋の方針ではないわよね」


京四郎「そうだな……。武士と商人……武士と商人……。越後屋??」

律「いや、それは絶対賄賂な奴じゃん!山吹色なお菓子の奴じゃん」

京四郎「効果は確実にあるぞ!」

律「あまり褒められた考えじゃないわね。確実に上様に成敗(!)されるやつよ」

京四郎「まささん何か思いつかない?」


 まささんが近くにいたので聞いてみる。


まさ「正直なところ、商人をあまり好ましく思わない人も残念ながらいるんですよ。汗水垂らすことも無く、涼しい顔してお金を稼ぐ。そう思われているのです」

京四郎「現場作業員と管理職みたいなものか。苦労の仕方が人によって異なるだけなのに」

律「う~~ん」


 再び考え込む。


律「そうだ!経済、経済よ!」

まさ「けいざい?」

律「そう。お金が一部の人だけでなく、より多くの人の間で循環することで色んな稼ぎ方が出来るようになるの」

京四郎「それだな、経世在民けいせいざいみん。生産活動が活発に行われることで、多くの民を救う。これでいこう」


 かくして、【経世在民】の考えの意見書が武田家に提出された。

ついでに鍛冶屋の招致も追記しておいた。

何事にも鉄があれば、かなり楽になる。


●●●●

甲府 八田屋


 八田屋は酢と布革で大金を稼ぐ新興商家である。

商人司の坂田屋に及ばずながら、合戦の度に資金や武器を供出して信頼を高めていった家である。


新左衛門は、その八田屋の当主であり、今回の商人司争いの発端である。

そしてその当人は、武田家重臣の南部の配下である藤三郎と密談をしていた。


新左衛門「この度は便宜のほど、助かりました」

藤三郎「いやいや、日頃の八田の貢献があるからですよ……」


そうして催促するように、床を扇で叩く。


新左衛門「わかっておりますよ」


 巾着袋が藤三郎に渡される。

中身はもちろん金である。


藤三郎「ずっしりとした、この重さはたまらないのぉぉ~」


新左衛門はその笑みを見届けて切り出す。


新左衛門「では、南部様によろしくお願い致します」

藤三郎「ああ」


 藤三郎は大事そうに巾着袋を懐にしまう。

そして立ち去る前に、


藤三郎「そうだ。南部様曰く穴山様は、たいそうお酒がお好きだそうな」


 次の《《お心づけ》》の標的は決まったようだ。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

[1]板垣信憲:武田家家臣。父信方は武田家家臣団トップだった。

[2]穴山信友:武田家臣。信玄の姉婿。甲斐の南西部の今川との国境を支配している。

[3]馬場信春:武田四天王の一人。信房とも呼ばれるが、本作では信春で統一。

[4]駒井高白斎:武田家臣。武田の分流出身で内政・外交を担当した。


お読みいただきありがとうございます。

武田家は合戦が1549年はほぼ無いので……地味な感じがどうしても抜けないですね

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