1-4-2 第二十四話 大事な話は先にして欲しい
天文十八年七月十三日 午の刻半 場所;甲斐 恵林寺 市場
視点:京四郎 Position
な、内藤昌豊!?
ま、また知らない人が出てきたな……。
内藤「御屋形様より言伝だ。冷泉卿[1]の和歌集。確かに受け取った。おかげ様で礼状を出すことが出来たとのことだ。」
律「あ……、それはどういたしまして……」
い、今になってその話?
渡したのって三ヶ月くらい前の話だよ。
アイツも困惑して、微妙な返事しかできてないし……。
僧「内藤様、実は富士屋の者どもが騒ぎを起こしまして……。これは喧嘩両成敗に触れるのではと思うのですが……?」
内藤「ふ~む。こいつ等がかい?」
そう言って、じっくりと俺と律の顔を眺める。
反論したいけど、口を挟ませないようなオーラを感じるんだよなぁ。
THE・中間管理職って印象がする。
内藤「それで、富士屋の者どもが殴ったりしたのを見た者はおるのか?どうだい?」
「いや……」「まぁ、殴ったりはしてないよな」「そうそう……」
よ、良かった……。これは手を出していたらアウトなヤツだ。
内藤「暴力沙汰で無いならば、気に掛けることはあるまい。もしも喧嘩だというならば、証しをしっかりと示してもらうぞ?」
そう言って、じろりと僧の方を見る。
内藤「そもそも喧嘩相手がここにいないのならば、成敗しようがないじゃないの。いいよ、今回は無罪放免。これにて終了!」
パァンと手を叩いて、集まった群衆を解散させた。
群がっていた通行人や僧がバラバラに去っていく。
内藤「まっ、今度からは気を付けることだな」
ぶっきらぼうな感じが、優しさなのか面倒くさいのかわからない。
京四郎「今後は気を付けます」
律「あ、ありがとうございました!」
内藤「うむ。それで良し!」
そのまま立ち去ったかと思うと、慌てて戻って来た。
内藤「失礼、失礼!御屋形様から奉書[2]があるのを、すっかり忘れてたわ」
いや、和歌集のお礼うんぬんとかより、そっちが大切でしょ!
内藤「富士屋の松本京四郎、山本律!」
京四郎・律「は、はい!」
内藤「御屋形様の命により、両名を蔵前衆[3]に任ずる!」
えっ、智様……?人の話聞いてた???
武士として仕えたいわけじゃないって伝えたよね????
京四郎「し、しかし……」
内藤「それじゃあ、伝えたからさ。そこのところ、よろしく」
内藤様は今度こそ本当に去って行ってしまった。
京四郎「内藤昌豊って、ああいう人なのか?」
律「さすがに、武将個人個人の性格までは知らないわよ。……でも武田四天王のうたわれた一人よ。ただ者ではないと思うけど」
京四郎「じゃあ、何をしたの?」
律「うぐっ……、長篠の戦いで戦死した人……くらい?」
京四郎「死に場所情報は要らないなぁ……」
とにかく、クラマエシュウ?については、店の他の人に聞くしかないな。
まささんに聞いたけれど、名前しか聞いたことが無いらしい。
京四郎「今日はひとまず帰るか」
内藤様から受け取った奉書を携えて帰路につくこととなった。
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数日後 甲斐国 各所
近日、勢力を伸ばしつつある富士屋が蔵前衆に任じられたことで、他の商人には動揺と焦りが広がっていた。
「小林屋が評判を落として、すぐの任命。晴信様も冷酷なことをなさる……」
「いや、信虎様の代から商人司を務めている坂田屋さんが、塩や魚の商いで大金を稼ぎ続けているだけで、他の商人には儲けが少ないからいけないのではないか?」
「もうそろそろ変化が必要とされる時期なのかもしれないですな」
かくして富士屋は、蔵前衆に命じられたことで思わぬ戦いに巻き込まれることとなる。
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[1]冷泉卿:冷泉為和のこと。1549年8月3日、駿府にて病没。
[2]奉書:大名や武将が、右筆(代筆人のこと)に書かせた書状。
[3]蔵前衆:詳しくは次の話で説明します!
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