18-3 第二百○七話 木曾谷さんぽ、護衛3000人つき
弘治元年 1555年 十一月上旬 午前 場所:甲斐国 甲府 富士屋
視点:律Position
虎姉と京四郎の上申により、硝石の採取計画は前向きに検討されている様だ。
ただ……糞尿に死骸を集める者、それを培養する場所、計画を進めるための資金と課題も多く、本格的に動き出すのにはしばらくかかりそうだ。
「京四郎はいるかい?」
暖簾をくぐって現れたのは秋山様である。
開口一番、アタシの名前を呼ぶ秋山様だけに、京四郎目当てとは珍しい。
律「あいにく不在ですけど……」
秋山「そっか~それじゃあ、律さんでもいいか~」
あ、これ……最初からアタシ目当てのパターンだわ。
口では誤魔化しているけど、ウキウキしている感じが隠せていない。
律「それで……いったい何の用なんですか?」
秋山「実は諸角様と共に木曾の所領に出陣するように言われてね。せっかくだし一緒に行かないかい?」
律「そんな、散歩しに行くみたいに誘われましても……」
秋山「一応、臣従したばかりだし軍勢を連れて行かなきゃならないんだけど、けんか腰っていかないだろ?」
律「なるほど、それで商人のアタシを御指名ってワケね」
悔しいけど、秋山様の言いたいことはわかる。
律「わかりました、行きましょう」
秋山「それじゃあ、明後日よろしくな!」
律「あ、明後日ですか!?京四郎にも早く伝えないと……」
秋山「さっき聞いたら、南蛮の宣教師とパン(?)とやらを試作してから追いかけると言っていたぞ」
……ん?さっき……?
律「ふはははっ!秋山さま墓穴を掘りましたね!アドミラル、アタック!」
「ワン、ワォン!」
アドミラルが勢いよく秋山様に飛びかかる。
秋山「う、うおっ!や、やめろおぉぉぉぉぉぉ!」
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三日後 午前 場所:甲斐国 甲府
秋山様と諸角様の軍勢は甲府を出発する。
多田「お、おい待ってくれ~!」
多田さんとお付きの人達が慌てて追いかけてくる。
多田「美濃出身の案内役をお忘れやないかい?」
律「そりゃあ……いてくれたら助かりますけど……」
秋山「……智様の許しは得たんですか?」
さすが女好きの秋山様、明らかに態度が違う。
多田「そ、そりゃもちろんですよ!」
こうして、木曾谷行のメンバーに多田さんが加わった。
諏訪を越えた辺りで多田さんが道案内を始める。
多田「この先の小野峠[1]、そして牛首峠[2]を越えると木曾福島には近いんですよ」
秋山「へぇ~、じゃあそっちに行くとするか」
多田「あ、でも狭い道で難所なので軍勢を率いながら通るのには向いとらんよ」
……なんて頼りにならないアドバイスなんだ……。
こうして塩尻の辺りを大回りしながら木曽山脈の西側を下る。
↑深志城
諏訪高島城
木
曾 高遠城
木曾福島城 山
脈
鈴岡城
道筋は山道で狭くて厳しい。
しばらく歩みを進めると木曾川沿いの開けた河原に出た。
多田「ここの辺りは、かつて巴御前[3]が水浴びをした場所らしく巴淵と呼ばれとるそうです」
律「あの巴御前!?アタシも是非その恩恵に預かりたいわ!」
思わず、河原に突っ走る。
秋山「律さん、あれ以上強くなるつもりなのか……」
多田「ついこの前、道場で猛者二十八人抜きを達成したそうですよ」
秋山「何それ怖い~」
さすがに人目につく所で下着姿になるわけにいかないので、水筒いっぱいに水をくむ程度にとどめた。
多田「そろそろ、木曾の本城の福島城[4]ですな」
町……というか村の端の所で木曾家家老の山村さんが待ち構えていた。
山村「遠路はるばるお疲れ様でございました。義康様は明日にでもお会いになられます」
秋山「よし、ご苦労!」
こうして武田軍は、木曾福島の町に入った。
秋山「それじゃあ律さん、さっそくどっかの空き家でも……あれっ?」
「律殿なら、とっくにどっかに行っちゃいましたよ」
秋山「せ、せっかくの機会なのに~っ!」
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[1]小野峠:長野県岡谷市にある峠。木曽谷と諏訪湖を結ぶ道で、初期の中山道だったが難所過ぎたために変更された。
[2]牛首峠:長野県辰野町にある峠。小野宿を挟んで西側にある峠。東側が小野峠。
[3]巴御前:樋口兼光の妹で木曽義仲の愛妾。生没年不明。武芸に優れ、女武者の代名詞として知られる。
[4]木曾福島城:長野県木曾町の山城。木曾氏によって築かれた。
お読みいただきありがとうございます。
諏訪から木曾福島城までの道のりは結構あります(約61キロ)




