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まぁ、ちゃんと戦う戦国軍記 ~めざせ!御屋形様と経済勝利~  作者: 東木茶々丸
第十六章 従う者、背く者 1554年8月~
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16-6 第百九十三話 長尾家の謀反は終わらない

天文二十三年 1554年 十二月中旬 夕方 場所:越後国 北条城周辺


 長尾景虎に対して反旗を翻した北条高広だったが、彼には彼なりに勝算があった。

冬の越後は雪が降りやすく、包囲側にとっては地獄のような寒さに襲われること間違いなしだからだ。


高広「ふぇっふふ……。景虎もそこまで早く動くことはあるまい……。雪解けより早く武田か北条が動けば、わしの勝ちよ!」


 高広がそう、タカをくくっていたのも束の間、


高広「な、何じゃ!」

「あれは九曜紋くようもん!長尾家の旗印にございます!」

高広「ばっ、馬鹿なーーー!」


 長尾景虎が動くよりも先に、長尾政景が軍を率いて北条城を包囲したのである。

景虎ベースだと初動が遅れると判断した政景と綾は、義弟かげとらの許しを得ると早々に出陣したのである。


 自身の城にて待機中の累に代わって、タカが政景の陣中見舞いに訪れた。


タカ「お疲れ様でーす。マサ様が御出馬なさってると聞いて、飛んできましたよ!」

綾「あら、私もいるけど……挨拶は無いの??」

タカ「あ、ああああああ……綾様! こ、ここここ……これは失礼致しました。綾様におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」


 そんなやり取りをしていると、政景も現れる。


政景「タカ!来てくれ《《たか》》!」

タカ「その激寒ネタ、どっかの駄洒落野郎を思い出すんで、やめてください」


 タカは、遥か遠くにいるはずの京四郎を思い浮かべる。


タカ「それで、高広のおっさんの様子はどうです?」

政景「ざっと五百人あまりで、立て籠もっているようだな。やっこさんにとっては、こんなに早く動かれるのは予想外だろうが、兵糧の蓄えはありそうだ」


 元々、高広が軍事物資を買い集めていたのが、今回の疑惑の元である。

米の蓄えはあって、不思議ではない。


タカ「二人そろって、坂戸城空けてきちゃって大丈夫ですか?ほら、北条とか攻めて来ないかなぁ~って……」

政景「城なら配下の樋口が守ってる。アイツなら攻められても耐えしのげるだろう」


 樋口と言うのは政景の配下、樋口ひぐち兼豊かねとよ[1]の事である。

木曽義仲に仕えた樋口 兼光かねみつ[2]の子孫を名乗り、「正義」と書かれた扇を持ち歩く変な青年である。


綾「こっちの心配よりもサッサと城に戻って、朝信に出陣の用意をしろと伝えなさい。景虎は年明け早々にでも出陣するわよ」

政景「こっちはそれまで、この陣所で北条城に補給が入らないようにしっかり見張ってるからよ!」

タカ「は、はい!」


 タカは、陣所で夜明けまで待ってから赤田城へと駆け戻った。



▼▼▼▼

天文二十四年1555年 一月中旬 昼頃 場所:越後国 北条城周辺 長尾軍の陣


 年が明けて正月早々、長尾景虎は北条城周辺の城主に対して出陣の下知を下した。

斎藤軍は安田顕元に次いで、二番目に着陣した。


政景「来たか、景虎。見たところ……本気で攻めかかれば、労せずして城は落ちるだろうが、どうする?」

景虎「そのことですが、義兄上。私は高広に対して、今回の嫌疑を不問に処したいと考えております」


 謀反を起こした高広に対する異例の処置に、控えている将たちの間には動揺が広がる。


安田顕元「待ってください。このまま北条めに甘い御沙汰を下されますと、ますます調子に乗るだけでございます!」

「そうじゃ、そうじゃ!」


 他の将からも北条討つべしとの声が上がる。


累「皆さんの懸念はわかります。ですが、ここは景虎様の度量の広さを見せるべきではありませんか?敵対した者を討つのは簡単です。しかし、敵対した者をゆるすのは並大抵の将が出来ることでは無いでしょう」

政景「今の斎藤の言葉を聞いたか?俺もそう思う」


 そこへ頭をきながら、一人の中年の将が現れる。

彼の名は宇佐美うさみ定満さだみつ[3]。

元は長尾家に敵対していながら、景虎政権下で用いられるようになった将である。


定満「すいませんね、景虎様。初夢の夢見が悪くて遅れちまいました」

本庄実乃「今さら来たか。遅い、遅いぞ!」


 実乃は叱責の言葉をかけるも、定満は気にする素振そぶりも見せない。


定満「あたしゃ~調べたところによると、どうやらやっこさんは武田には通じていないようですぞ」

景虎「なんだと、そんなこと報告していなかったではないか!」

定満「最近ようやくわかったことなんで……すいやせん……」


 定満は、申し訳なさそうに話す。


定満「(せめて、もう少し諜報に費用をかけてくだされば情報も集めやすいんだが……)」

実乃「何か言ったか?」

定満「いえ、何も……」


 こうして、景虎直々の大赦たいしゃの書状が城中に届けられ、高広は降伏を決断。

一戦を交えることなく、戦いは終わった。



○○○○


 六日後、戦後処理を終えた景虎は定満らと共に春日山城に戻った。


大熊「と、殿!ようやく戻られましたか!いま丁度、早馬を出そうとしていたところです!」


 厩舎のところで、切羽詰まった大熊が息も絶え絶えに現れる。


大熊「善光寺別当の栗田が……栗田が……武田に寝返りました!」

景虎「何ィ!?」

累「武田への寝返り者は、別にいるじゃないですか!」


 思わず定満さんの方をにらむ。


 智の命を受けた真田幸隆や高坂昌信の調略によるものだが、

長尾家家中ではそんなことは知らない。


定満「あ~、そちらの方はまだ未調査でした。えへっ!」


 中年のおっさんのウインクって……キッつい!



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

[1]樋口兼豊:長尾政景の家臣。生年不明。後の直江兼続の実父。

[2]樋口兼光:木曾義仲の乳兄弟、今井兼平・巴御前の兄。義仲に従って各地を転戦、義仲が戦死した後は助命嘆願も叶わず、処刑される。

[3]宇佐美定満:長尾家家臣。琵琶島城主。長尾家と敵対していた越後守護上杉家に仕えていたが、後に軍門に降る。


お読みいただきありがとうございます。

いよいよ次の章から第二次川中島の戦いに入ります。

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