外伝 抜くに抜けぬ物
天文二十二年 1553年 十月中旬 昼頃 場所:山城国 京都 洛中
視点:松本累(斎藤朝信)Position
将軍への接見を終えた数日後、長尾家上洛部隊は京都に入っていた。
京都には長尾家配下、神余親綱[1]の屋敷がある。
彼の手筈で、帝に官位の叙任に対する返礼の場を設けてもらったのだ。
もちろん、ボク達は天皇へのお目通りなんて許されていないので、はるか遠くから景虎様の姿を確認するだけなんだけどね……。
やがて、後奈良天皇との対面が終わったようで景虎様が出てくる。
普段着なれない服を着ているからだろうか?
ヤケにぐったりしている。
景虎「うむ……。さすがに気疲れしてしまったな」
累「お疲れ様です。帝のご反応はいかがでしたか?」
景虎「……御簾で見えるわけが無いだろう」
ご、ごもっとも……。
累「で、でも声色とかで……」
直江「君は知らないのかもしれませんが、帝と直接の直答なんて普通は許されないのですよ」
累「それじゃあ、わかる訳ないですよね~」
景虎「あ、でも、盃を賜ったぞ」
累「景虎様の酒好きは京でも有名なんですかねぇ?」
景虎様が賜った盃を直江さんが包み直す。
景虎「さ、流石にコレを普段使いするつもりは無いぞ!!!」
累「まだ、何も言ってないじゃないですか」
景虎「……」
景虎様、自滅である。
タカ「ところで武田や北条に対するアレ。……なんでしたっけ、あの……チバ……チバ」
直江「治罰綸旨ですね。敵対勢力を朝廷に対する反逆者として討伐する権利のことです」
タカ「頼まれてもいないのに、解説をどーも」
景虎「その治罰綸旨だが……」
累「もらえなかったんですね?」
景虎「そうだ。どうも武田の手が公家衆にも回っているようだ……」
景虎様のローテーションボイスに聞いたコッチも気まずい。
景虎「だが……、帝からは御剣を賜った」
景虎様は鞘袋を取り出す。
直江「拝領刀ということですね」
タカ「ハイリョウトウ?期待に応えられなくてゴメンネ!みたいな?」
累「それは配慮してもらっただけね」
拝領刀というのは、お上が黙認した征伐のライセンスの様な物だ。
……まぁ、時代劇を見てた兄さんからの受け売りだけど。
累「でも刀にしろ、盃にしろ使うことあるんですか?」
景虎「城の蔵で丁重に保管だろうな……」
直江「使う訳にはいかないですからねぇ~」
これぞまさに抜かずの剣。伝家の宝刀ってやつである。
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その後の長尾家軍団は、堺見物へと向かった。
長尾家の面々には色々と物珍しかったようで、延泊しての満喫っぷりだ。
景虎「よし、ここで斎藤とはお別れだな」
累「へっ!?何でですか!?」
タカ「そりゃあ、これから行くとこは男だけの場所だからな」
神藤は憎たらしい顔でニヤける。
累「も、もしかして色町に行くんですか!?まったく……男って、すーぐヤラし~こと考えるんだから……」
景虎「あ~コホン。残念ながら……私たちがこれから行くのは、高野山だ」
直江「あそこは女人禁制ですからねぇ~。心苦しいのですが……」
思いっきり煩悩とは無縁のところでしたね。すいません。
結局それから二週間ほど、鬼小島さんと堺周辺で時間つぶしをする羽目になったのである。
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[1]神余親綱:長尾家家臣。1526年生まれ。祖父の代から長尾家に仕え、京都に滞在して幕府や朝廷と交渉を行った。
お読みいただきありがとうございます。
そろそろ長尾家の紹介出します。




