1-1-2 第十三話 甲府の商人
なんちゃって甲州弁になっていますが、ご了承ください……
設定説明回です。
天文十八年四月上旬 午前 場所:甲斐国 甲府 自分の店
視点:律 Position
かくして、アタシたちの戦国商人ライフは始まった。
平蔵さんの「竹屋」は名前のとおりに竹を売っている……というわけではなく、松竹梅の真ん中を取ってこの名前になったらしい。
この店の主な生業は馬借[1]を中心として、味噌と油の販売だ。
味噌や油を直接生産しているわけではなく、あくまで取次……つまり卸売業がこの店の営業スタイルだ。歴史用語で言えば、問屋[2]がそれにあたる。
その油や味噌は武田家に販売されており、すなわち既に武田の御用商人の店なのである。
もっとも御用商人なので合戦があれば、馬や資金を提供しなければならないらしい。
戦国のギブandテイクは世知辛いのだ。
平蔵「とはいえ、実は少し斜陽気味なのも事実なのじゃ……」
低いトーンで、平蔵さんは話す。
京四郎「どういうことだ?」
平蔵「先日の襲撃での損失や他の御用商人の台頭による影響じゃ……」
襲われていた時に、護衛が見当たらなかったのはそれが理由か。
律「ひと通り、生産元を見てみたい。そうすれば今すぐ出来る改善点があるかもしれない」
京四郎「私からもお願いします」
平蔵「わかりました。ですが……先に店の者を紹介させてくだされ。まさと達五郎はご存じですな」
まさ「まさにございます。算術に心得があります。馬借や牧場の者との繋ぎもしております」
達五郎「よろしくで……(す)」
相変わらず、達五郎さんの語尾は聞き取りづらい。
平蔵さんの隣の中年の男性が頭を下げる。
「京乃介だ。平蔵さんの留守役を任されている。味噌や油のことについて何かわからないことがあれば聞いてくりょう。」
留守役を任されるということは、ナンバー2みたいなものか。
平蔵「残りの二人が、用心棒の一刀と使い代わりの平次ですだ」
席の端にいた二人が、頭を下げる。
こうして自己紹介が終わったところで、まささんが口を開く。
まさ「出過ぎたことを申し上げますが、店の名前を変えてはいかがと思います」
律「いや、代々受け継がれてきた名前を変えるわけには……」
思ってもいなかった提案に、首を振る。
平蔵「ふうむ……。それも悪くねぇかもしれませんな……」
えええええっ……。もっと自分の店名に愛ってないの!?
京四郎「甲州屋……とかどうでしょう?」
京乃介「それは今の武田家の商人司[3]の店名です」
京四郎「商人司というのは?」
京乃介「甲府の町衆の頭みたいなものです」
こっちはこっちで、乗り気だよ。
律「甲府屋って名前は?」
京四郎・まさ「「つまんない」」
まさかのハモりに二人は目を合わせる。
そんな二人して、冷たく切り捨てなくても……
一刀「どうせなら甲府だの甲斐だの言わずに、もっと大きくいきてぇな!」
律「甲斐で日本一と言えば富士山ね」
京四郎「よし決めた。【富士屋】。うん、これでいこう」
律「富士屋?なんだかお菓子でも作りそう名前ね……」
平蔵「そりゃあ、いい」
京乃介「悪くありませんな」
平次「それにしましょう!」
こうして、武田家御用商人の富士屋として新装開店となった。
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[1]馬借:馬を利用し、荷物を運搬する輸送業者。室町後期の一揆では連絡役を担った。
[2]問屋:運送、倉庫、委託販売業を兼ねる店のこと。商人それぞれの力の弱い中世では複合業者がほとんどだった。それぞれの部門が独立するのは江戸時代に入ってからである。
[3]商人司:御用商人の中でも、商人の統率役として戦国大名から様々な特権を与えられた商人。
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