0-3-2 第十一話 災難に見合う報酬
実質、序章の最終話となります。
天文十八年三月下旬 夜 場所:甲斐国 甲府 老人の店視点:律 Position
店の中に通されて、中の部屋で「少し、待っていてくだされ」とのことだ。
少しして、老人と娘が戻ってきた。若い男もつれている。
老人「改めまして、この度はお世話になりました。わしは『竹屋』の主人の平蔵でござる。こちらの娘は、うちの店にて奉公している者で、まさと申します」
まさ「まさに、ございます。」
そう言って、ぺこりと頭を下げる。背筋がいい。
平蔵「こっちの若いのは、わしの倅で、達五郎です」
達五郎「よろしくで……(す)」
最後まで聞き取れないよ、達五郎さん……。
平蔵「こちらが、お礼になります。」
そう言うと、袋から何かを取り出した。これは……、
京四郎「これは……、コレはもしかしなくても金ですか!?」
そうだ。いわゆる甲州金だ。武田家と言えば金山じゃないか!
平蔵「さよう。ですが……これで足りますかな?」
京四郎「いえいえ、もう全然っ!」
現金なヤツめ……。いや、現金どころか本物の金だが。
平蔵「ところで……、お二方がよろしければもう一つ頼みごとをしてもよろしいずらか」
律「は、はい。なんでもどうぞ!」
あ、なんでも言うことを聞くって言ったから、戦国時代にいるんじゃん……。
またやらかしたな……。
平蔵「実は……、この店を継いでいただきてぇのです」
律・京四郎「「エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」」
流石に大絶叫。いや、そりゃそうだよ。
律「一体どうしてまた急に?アタシたちは、知り合ったばかりですよ」
平蔵「色々と語り合ってみて、よくわかりました。あなた方には我々にはねぇ、柔軟な思考と実行力がある」
京四郎「は、はぁ……」
アイツと顔を見合わせる。
もちろん、そんな自覚はない。
律「アタシたちは商売に関しては、まったくの素人ですよ?」
まさ「それは私たちがついていますので」
京四郎「跡取りの達五郎さんは、それでいいんですか!?」
達五郎「実は、妻を病で亡くしたばかりでして、仕事があまり手につかない(のです)」
お、重い。確かに身内の死って辛いよね。
律「他の働き手の人たちへの説明は!?急に見知らぬ人が主人になったら困惑してしまうのでは!?」
平蔵「奉公人には、お二人は都帰りの秀才と伝えておる。この店もこのままでは、発展は見込めませぬ。この店には変化が必要なのじゃ」
律「そうですか……」
さっきから、京四郎は黙っている。
京四郎「少し二人で話させてもらってもいいですか?」
平蔵「急なお頼みですからね。大事なことだ。じっくりと相談してくだされ」
三人が部屋から立ち去るなり、京四郎が話しかけてくる。
京四郎「この話、受けないか?」
律「へっ!?」
京四郎「もしかして武士として、仕官したかった?」
律「そりゃあね……。武士として立身出世してみたいってのはあるけど」
京四郎「考えてみたんだが、商人ならば戦場で血みどろになって戦う必要はない」
律「そうね」
京四郎「そして、この甲斐には金がある。」
律「これね……」
さっき礼金として、貰った甲州金を見つめる。
京四郎「戦国時代でひと稼ぎをして、それを埋蔵金として埋める。現代に戻ったら、埋蔵金を掘り出す。これこそタダでは終わらない戦国時代ライフになるんじゃないか!?」
あ、確かにそれなら、坂本も羨ましがるに違いない。
京四郎「それに別に商人としても武田家を支えることは出来るんじゃないか?」
ダメだ、コイツは的確に退路を断ってくる。
京四郎「そうだ、やってやろうじゃないか。【武田家の御用商人となって、甲斐を発展させてひと稼ぎだ!】」
【Merchant(マーチャント)戦う戦国軍記。ここに始まる!】
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
[1]甲州金:武田家の支配域で使われていた金貨。武田信玄以前の代から使われていた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル回収回です。
今後は投稿ペースが少し落ちますが、楽しんでいただければ嬉しいです。