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遭遇

黒く金属質な大地を踏みしめる。


海は今、アイリスとともに近隣の都市ヴァルザンを目指していた。聞いたところによると森を抜けた先の草原から東へ向かうと広大な草原が広がっているが、南へ行けばすぐ溶岩地帯につながっているらしい。事実すぐに植物が地面に確認できなくなり溶岩のような赤さが見える山々が見えてきた。元居た世界では信じられないほど急激な気候の変化だが科学の法則を伴わないこの世界はその地域の大気に満ちている魔力の種類で気候が変わるらしい。


少し前を向かうアイリスの後姿を追いながら海は先ほどのキャンプでの話を反芻していた。


「実は、私がこの森にやってきたのもアーティファクトが原因なの。」


彼女はポケットから小さな細かい模様が入った円盤を取り出すとそこから立体映像の様に文字が表示される。


「これは予言を行うアーティファクト、シビュラの瞳の予言文の写しよ。これによるとこの森にある施設には異空間への裂け目を発生させることができるアーティファクトが眠っていて、そこから現れた人物と会うっていう予言があったの。それでこの森に来たんだけど、肝心のアーティファクトは見つからないし人工天使がうじゃうじゃいるしで困ってたのよ。」


その情報が正しければ、僕がいたあの施設がそのアーティファクトと関係があるのかもしれない。異空間への裂け目・・・もしかして僕があの時こちらの世界へ来てしまったのもそれが原因なのか?


「だから、僕がその予言の人物かもしれないってこと?」


「あなた、この近くどころかどこでも見たことない材質の衣服とか持ち物を持っているし、この森の中に施設があるなんて誰も知らないはずだからね。」


そういわれてアイリスの服装に目を見やると中世から少し進んだ時代にありそうなデザインであった。これが一般的な服であれば、僕のいかにも現代風の服装はさぞ目立つでえあろう。

アイリスが僕をだまそうとしているなら気絶していた死にかけの僕をわざわざ介抱したりしないだろうし信頼して話したほうがいいのかもしれない。


「僕は多分・・・君のいう異世界っていうところから来た人間だと思う。その世界で普通に暮らしてたら、裂けめみたいなものに吸い込まれちゃって気づいたらこの森の中にある施設にいたんだ。」


「そうだったんだ・・・それは大変だったわね。」


先ほどから険しい表情だったアイリスだったが明らかに心配そうな表情に変わる。どうやら他人の気持ちを自分のことの様に感じる性格らしい。


「それなら私と一緒に来ない?まだこの世界に知り合いはいないでしょう?私もあなたと会うことが目的だったから助かるわ。」


「ほんとか!?それは助かる。」


行く当てなしでお金もない、明日泊まる場所もない状況だった海としては願ってもみない話だ。


とりあえずの目標もないことだし助けてもらった恩もある。(というよりかアイリスがいなかったら、のたれ死んでいた可能性が高い)


「じゃあ、あなたの傷も早く看てもらいたいし早速出発しよっか!」


その後キャンプの周りの設置物の片づけを手伝って出発したのだ。(なんとキャンプの様なものは折りたたまれるようにパタパタと小さくなっていき中に入っていたものごと格納して一抱えくらいの布になってしまった。便利なものもあるものだ。)


お互いの話をしながらテントで野営を行いここまでたどり着いたのだった。途中で目新しいドライカレーのような食事ふるまってもらったほかに食べれる果実なども教えてもらって採集を行ったりした。

やはり備蓄として持っていける食物には限りがあるためできるなら現地調達が旅の鉄則らしい。今回は手ごろな動物がいなかったので行わなかったが肉などは狩りで補充するらしい。


「なあ、アイリス?」


ざくざくと金属質な土を踏みしめていく中、またアイリスに話しかけてみた。


「なに?」


「そういえばまだ詳しく聞いてなかったけど、予言に従って行動してるって言ったよね。予言に従ってるのに何か理由はあるの?」


アイリスは少し視線を上に向けて何かを思い出すような仕草をした後、ポツリと言葉をこぼした。


「復讐、かな。」


「え・・・?」


いつも明るいアイリスの表情の陰りについぎょっとして聞き返してしまった。


「予言の中では人口天使によってもたらされる災害が到来するって言われていてね。それを食い止めるために選ばれて住んでいた場所から旅立ったの。」


そこで正面を向き直ったアイリスの声に力がこもる。


「でもね。私が旅立ったのはそんな崇高なものじゃなくて人口天使への復讐心が大きいのかも。私の家族、人口天使のせいで・・・・ごめんね?こんな話、急に聞かされても困るよね。」


「こっちのほうこそつらいことを思い出させるようなこと聞いてごめん。」


「全然気にしないで、まあそういうわけで私は旅してるってわけ。」


その時には表情は元の柔らかいものに戻っていた。


川が枯れた後のような道をさらに進んでいると前方では分かれ道が見え始めており看板がちょうどその中央に突き刺さっていた。


「あ、ヴァルザンが近いね。今日中には町に着けそう。やっとお風呂にはいれるわ!」


「お風呂があるのか!」


お風呂はおろかシャワーすらなく水浴び場や体を濡れた布でふくのが関の山だったのでとてつもなくお風呂に入りたいと思っていたところだ。やはりお風呂は日本人の心ということか。

しかし・・・湯船の文化はこの世界にあるのだろうか?


「そうよー。ヴァルザンは火山が近いからね。お湯が・・・・海、右!」


ドゴゴゴという大きな地響きがしたかと思うと右の土壁にひびがはいって盛り上がり崩壊した。

そこからぬっと顔が飛び出し海が飛びのいてしりもちをついた近くの空を切った。

見た目は大型のトカゲのようで昔テレビで見たようなコモドドラゴンを大きくしたようなものに近いだろうか。しかし、鈍い黒に光る鱗に覆われあごは極端に長く伸び二又の槍の様になっていた。恐らくこの地方の金属質な土壌を掘り進めるために発達したのだろう。


encounter 掘削竜(モール・リザド) Lv32


「な!」


危なかった。アイリスの警告が少し遅ければ海の胴体と顔が離れていたかもしれない。


「モール・リザド!? もっと人里離れたところにしかいないはずなのにどうして? 海、とにかく危ないから下がってて」


アイリスは腰から下げていた棒状の金属を引き抜くとカチカチという音とともに展開されていきあっという間に杖の形状になった。ただ、先端の鋭利さや形状からして槍としても使える近遠両対応の武器であるようだ。


「いや、僕も戦う!」


Lv32、あの時の狼よりも圧倒的にレベルが高い。思わず恐怖に足がすくむ。でも、足手まといにはなりたくない。思考を止めるな。邪魔にならないようにアイリスを支援するには・・・


「ラル!!」


「お呼びでしょうか。」


聞きなじみのある無機質な声に海は安心する。ひらりと舞うように現れた精霊に海は幾度もなく助けられてきた。


「アイリスを支援してやってくれ!多分土の中ののかで生活してるモンスターだから君の閃光の魔法に弱いはずだ。」


「承知しました。」


まずはこれが最善策だろう。剣を生成して自分がつっこんでもあの時の様にあっけなく攻撃を食らってしまうだろう。だから自分はあの時の様にスパイクなど味方に当てないように作成して援護するんだ。


突然現れたラルにアイリスは一瞬驚いた表情になったがすぐに杖を構えるととてつもない速度で突進してくるモールリザドを迎え撃つ。


双雷の一撃(ツインライトニング)!」


金属の杖の表面に刻まれていた溝に光がともると先端部分で魔法陣が生成された。そこからまばゆいばかりの二本のスパークが飛び出し、モール・リザドの体を貫く。


獣の獰猛なうめきが響き、体がプスプスと煙を立てて明らかに動きが鈍った。


「目をくらませます。目をそらしてください。」


冷静なラルの声が響くと即座に彼女の手の魔道陣からまばゆい光が放たれ目標を見失ったモール・リザドは見当違いの方向の壁にヒットした。

狼の時もだったがラルのフラッシュのタイミングは正確で味方の被害にはならず敵の視界を的確に奪ってくれる。


「ナイスよ!」


「よし、支援する! 創造(ザ・クリエイション)


壁に手を当てるとあの時の様に単一の素材でできたスパイクをイメージする。間違っても味方に当てないために作る位置は味方よりもだいぶ後方をイメージする。

体中の血液が加速する感覚、魔法陣が描かれた壁がごぼっと材料になるため消滅し金属のスパイクとなって強襲した。


視界不良なモール・リザドは当然これをよけれず脇腹に直撃したのだが大きく傷つけただけでまた立ち上がってくる。


「あんなに大きなスパイクを食らっても死なないのか!?」


「モールリザドは魔法的な能力はないけどものすごく表皮が硬いの、だからここは」


説明しつつ視線は全く敵から動かさないまま華麗な身のこなしで接近すると槍を振りかぶった。


電離解放(アークリベレーション)!」


杖の先端の形状が変化するとバチバチと強力な放電が走り続ける。アイリスはそれを目にもとまらぬ斬撃とともにたたきつける。その勢いで土埃が舞い、一気に視界が悪くなる。


バチバチとなる火花の後にはもう動かなくなったモール・リザドがいた。


「こうやって動きを鈍らせたら一気に倒しちゃうのが一番ね。」


アイリスがくるっと杖を回すとバチっという音とともに元の杖の形状に戻る。


「すごいな・・・」


一人で旅を続けているのだから戦闘能力は高いのだろうと思っていたがここまでとは。

洗練した動きと雷の恐ろしくも美しい魔法に思わず呆然としてしまった。


「あなたのほうこそ戦えたのね。その妖精さんのこととかいろいろ聞きたいことはあるけどまだ警戒を解かないほうがいいわ。モール・リザドは複数で行動することもあるから。」


「海様、私もそれに同意します。周囲から複数の異音を検知しました。」


「まだいるのか?」


その言葉が言い終わらぬうちにまた地面、壁が盛り上がり始める。数は1,2,3,4,5・・・・・6。


「さっきのと合わせて7体?流石に多すぎる。やはり何かこの近くで異常事態が・・・とにかく状況が変わったわ、この数じゃあなたをかばいながら戦えない、逃げて。」


「でも、囲まれて・・」


「私が突破して隙を作るわ。」


それで、本当にいいのか?アイリスはこの数相手に大丈夫なのか?


次々と姿を現すモール・リザドに対してアイリスはあくまでも冷静だった。剣の様に突き出される顎をひらりと避けると杖の照準を合わせながら詠唱の準備に入っている。次の瞬間、



起動(アクティベート)


アイリスのものではないくぐもった声が聞こえた。


予期せぬ方向から視界に入ってきた熱線はあれほど堅かったモール・リザドの装甲をいともたやすく貫通し絶命へ至らしめた。その勢いはとどまらず地面を融解させ蒸発したような音が響き渡る。

思わず飛びのきそうになったが海たちの体の周りには半透明のバリアのようなものがいつの間にか出現しておりその被害を受けないようになっていた。


「大丈夫ですか?」


先ほどのくぐもった声がした。慌ててその方向を向くとすらっとした長身の男が立っていた。

異様なのはその顔で金属で作られたような武骨なフルフェイスマスクを装着して、こちらを覗き下ろしていたのだった。







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