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旅立ち

扉を抜けた先には先ほどの部屋と似たような作りの通路とドアが立ち並んでいた。

薄ぼんやりと明滅する通路を先導していく精霊を追っていくさながら、海は肝心なことに気が付いた。


「そういえばいろいろあって混乱しててお互いの名前も知らないんだった。僕は新羅海っていうんだ。君は、名前なんていうの?」


「名前?アストラルという種族ではありますがこの指輪の持ち主をサポートするために生み出された存在なので個を識別するような名称は持っていませんね・・・お好きなようにお呼びください」


「な、名前ないのか・・・」


いきなり出ばなをくじかれた感じだが、この精霊が自分についてきてくれるのはこの指輪を持っているからのようだ。というのも指輪も置いていこうかは迷ったのだが、指輪を外そうとしたら精霊が消えてしまい、一人ではどうしようもないので持ってきていたのだ。

にしても、名前、名前か・・・ネーミングセンスには全く自信がない。覚えやすいように種族名からとったらいいのだろうか?アスト・・・ラル・・


「じゃあラルって呼んでもいいかな?」


「了解しました・・・・しかし何か聞き覚えがある名前です。」


「そうかな?」


とりあえず了承を得られたようで安心した。とりあえずいろいろ情報を集めなければ


「ラル、ちょっと質問があるんだけど僕のスキルを見たときに生産魔法っていうのがあったけどこれってどんな魔法なの?」


青く透き通った指を動かすと立体映像が表れる。


「生産魔法は魔力を消費することによってものを生産できますが、作れるものは多岐にわたっていて家具や武器、罠などから魔法的な効果を持つ物品も生み出すことができます。」


椅子や剣、落とし穴や金色の炎を吐き出すゴブレットのようなものの立体映像が浮かんではきらきらとした残滓とともに消えていく。


「それはすごいな!」


「ですがいくつか注意点があります。飽くまで生産を肩代わりするものなので、材料は必要であり強力なものや手間がかかるものを作ろうとするとそれだけ魔力が必要になってきます。この点に関しては海様はスキルによる軽減が行えそうですね。さらに複雑な構造や複数の素材を使用すればするほど実際に一度作成するなどして理解を得ている必要があります。」


「それは・・・難しいな。」


急に様づけで呼ばれて少し慣れない感じを覚えたが、まあそこはそういうものだと思っておこう。

魔法とはいえ万能で急にいろんなものを無から作成できるわけではないようだ。となるとこれをどう活かしていくべきか・・・・


「ほかの攻撃魔法を習得したりはできるのか?」


「攻撃魔法を習得するには修練や適性や必須職業が前提となりますが可能です。しかしもちろん多くの魔力を消費しますので、現在の魔力の場合低級魔法を使うだけで魔力不足で気絶する可能性があります。」


「そ、そうなのか・・・やっぱりこのMPは少ないよな」


映像上の自分が小さな火の玉を出した瞬間気絶するさまを見て、これは攻撃魔法を使っていくのは現実的じゃなさそうだと感じる。これならHPのほうがかなり多いし前衛職のほうがましだろうか、あと職業選択やレベルアップでMPは大幅に増えるのだろうか。


「到着しました。」


思案に暮れていると前から声が聞こえた。前を見るとラルが白色の重厚な両開きの扉の前でふわふわと浮いているところだった。


「鍵とかかかってるのかな?」


と言いながら扉に手をかけると突如扉に刻まれていた青いラインが輝きだしゆっくりと扉が開いていくところだったこれも魔法の一種なのだろうか?


扉の奥を見やるとおそらくこの扉を覆っていたのだろう光の膜の様なものがほどけるように消えていくところでありその隙間からまばゆい日光が差し込んでいた。


「おおお」


思わず声がのどをついて出た。

建物の中だとよくわからなったが、外はまだ昼間であるようだった。驚くほど高い木々の間から聞こえる鳥の声は雄大な自然を感じさせ魔法のオーブの様な浮いている球体や見たことのない鮮やかで光を放つ植物の数々、逆流する滝がここが魔法の世界であることを感じさせてくれる。

ゆっくりと深呼吸をする。水場の冷えた空気が肺にいきわたる実感がある。


現実だ。これは夢なんかじゃない。


「本当に異世界に来たんだな。」


まるで幼少期の子供が初めてみた遊具をみてはしゃぐように心が躍った。水場に通ると鏡面のような水面には見たことがないかわいらしいフグのような魚が泳いでおり、こちらに気付いたのか水面に飛び出すとそのままふわふわと風船の様に浮いてどこかに飛んで行ってしまった。

驚きの表情を崩せないままその様子を見守っていたが我に返る。


「次どこで水が手に入るかもわからないよな。」


しかし水筒みたいなものは・・・いや

バックに手を伸ばすとその中からカフェオレの入ったペットボトルを取り出した。むこうの世界で買っていたものだ。まだ中身はかなり残っているが水分補給としては水のほうがいいだろうと思い、自然を楽しみながらゆっくりカフェオレを飲んでいく。


しかしこの世界では滝の水は煮沸しなくても飲めるのだろうか?


「ラル、水ってこのまま直接飲んでも大丈夫なのか?」


「?水は水の魔力の塊なので汚れていない限り大抵は大丈夫ですね。何か魔力的な悪影響があるか不安があるようでしたら計測いたします。」


ラルは水の上にふわりと降り立ち小さな声で囁くと、小さな魔法陣が彼女の手の先に現れ大きな水の滴がふわっと浮いた。


「解析完了。水質に問題はないですね。」


「すごいな、ラルも魔法を使えるのか!俺も生産魔法なら使えるか?」


初めての魔法に思わずテンションが上がる。


「はい、生産魔法は初歩的な魔法ですし海様にはスキルもございますので簡単なものなら問題ないかとおもわれます。」


ラルはまたふわふわ浮くと小さな岩の近くでこちらを振り返る。


「こちらの岩などであれば単一の素材でできておりますし強度もそこそこありそうです。何をおつくりになりたいんですか?」


「んー。悩むけどやっぱりまずは身を守るものが欲しいし剣かな!」


「了解しました。ではこの岩に手をお当てください。」


岩に手を触れると冷たい手触りが皮膚を通して感じられた。


「そのまま目を閉じてそのまま作りたい剣を明確に思い浮かべてください。ここで意匠や構造まで詳細まで思い浮かべられなかったり素材が足りていなかった場合は魔法が失敗します。」


「な、なるほど」


岩だけで作成する、ということなので目をつむると柄まで岩で出来た両刃の細身の剣をイメージした。


「そしてゆっくりと唱えてください。創造神よ。我に万物を生み出す力を与えたまえ、創造(ザ・クリエイション)


聞き逃さないよう正確に復唱する、と体中の血液が活性化し急にめぐるような感覚がした。瞼の裏に光を感じて驚いて思わず目を開けると、手からは白い魔法陣が回転しながら生成されており岩の一部分がほのかな光を放っていた。そのまま岩は急激に形を変え、魔法陣が消えた後には石で作られた剣が生み出されていた。岩の輝いていた部分は削れとれるようになっていた。


「できたぞ!魔法はこんな感じで作られるのか。」


「おめでとうごうございます。」


高揚に包まれたまま剣を持ち上げてよく見ると剣は刃がのっぺりしておりあまり鋭そうではない上大きさも想像していたより小さかった。


「といってもあんまり出来は良くないみたいだね・・・」


「いえいえ魔法の習得は一昼一夕で出来るものではありませんので、今回は生産魔法の初歩である創造(ザ・クリエイション)なのですぐ行えましたが。習熟していくことで術の精度を上げたりスペルを詠まずに発動させることもできまるようになりますよ。」


「なるほど・・そうなのか」


「しかし本来であれば生成には時間がかかりますし、少なくないMPが消費され脱力感が生まれますがスキルのおかげかそのような様子はないようですね。素晴らしいです。」


なにはともあれ初めての作成物だ。もっていこう。


「次使うときはおなじようにすればいいのか?」


「そうですね。海様のスキルの画面におそらく創造(ザ・クリエイション)が追加されていると思われますのでそこからほかの情報も得られると思います。」


「了解、じゃあ確認したいこともあらかた聞けたしそろそろ出発しようか。」


ペットボトルを水面に着けトプトプと水を汲んでいるとそこで動作がとまる。


「ん、いやどっちの方向に行けばいいんだ。」


「私が上空から確認してきましょうか?」


「なるほど!お願いできるか?」


本当にラルには頭が上がらないというか。ラルがいなかった場合詰んでいた可能性が大きい。

心の中でラルに手を合わせて拝んでいるとラルが戻ってきた。


「北北西の方角、森から抜けて草原があるようですね。家の様な建造物も確認されました。」


「本当に助かる。じゃあ出発しよう!」








パキパキと枝を踏む音が響く。ラルの示した方角を進んでいたが整備された道などない森の中、枝をかき分け障害物を乗り越えて何とか進んでいる状態だった。体力がガンガン削られていく。


「結構歩いたな・・・そろそろたどり着くかな?」


「そうですね。先ほど見た地点から換算するに残り三分の一ほどでしょうか。」


「お、おおなら何とか森の中で夜を過ごさずに済みそうかな。」


体力こそ削れてはいたが見慣れないものの連続で気持ちにはまだ余裕があった。


「あとはその家のような場所の人との交渉だな・・・言語が通じるかとか宿泊の対価とかも考えないとか・・・・いや、まずその家に人間が住んでるかもわからないな」


「言語に関しては指輪に内包された言霊の魔法で問題ないかと思います。私と会話できているのも操作盤の文字が海様が読めるものになっているのもニュアンスをそのまま脳で直接受け取れるようになっているこの魔法のおかげだと思いますので。」


「なるほど、そんな便利なものがあるのか!ん?ぐぅ!?」


ぐにっとした感覚に足を取られたと思ったら破裂音とともに唐突に体が浮ぎあがった。そのまま体が気にたたきつけられ肺から空気が抜けた。


「な、なんだ!?」


「大丈夫ですか!?海様」


「な、何とかけがも擦りむいたくらいだ」


ラルが駆け寄ってきてくれる。

けほけほと息を吐いた後何とか落ち着くとさっきまで自分がいた場所に何かが焦げた跡がある。


「これは・・ボムボムシメジですね。衝撃を与えると爆発するキノコで外敵から捕食されないためと爆発と同時に胞子を遠くに飛ばす役目があります。」


「そ、そんなものまであるんだな。森で見かけた危なそうなものには近寄らないようにしてたけどこれは油断してた。」


「海様!前方から何か接近しています。」


急いで前を見やると唸り声をあげながら一頭の狼が現れた。深い緑がかった毛皮が森の緑に溶け込むようになっている。恐らく爆発音を聞きつけてきたのだろう。


「フォレストウルフですね。魔法的な力は持っていませんが気を付けてください!」


指輪の効果だろうか狼の上部に文字が浮かび上がる。


encounter 森林の狼(フォレストウルフ) Lv7 HP 210 MP 5


狼の眼光と好戦的な唸り声に恐ろしくて足がすくむ。レベルは・・・自分より低いし逃げるにしても狼よりも早く動ける自信は全くない。


「戦うしかない!」


石の剣を構えると緊張の糸が切れたように剣を振りかぶる。医師の柄はざらざらとして滑り、重心のことを考えない大振りに体勢は崩れ狼には余裕でかわされてしまう。


そして


「っいっってぇえ!」


体勢を立て直す暇もなく狼がとびかかり噛みついてきた。とっさに手でかばったため腕を噛みつかれるだけで済んだが、牙は服を貫通し肉に食い込む。赤い血があふれ、顔のあたりから血の気が引いたのが実感できた。


いたい。

いたい。

いたいいたいいた。


頭が痛みで埋め尽くされる。


「海様!逃げましょう!」


ラルが慌てたように手をかざすと、魔法陣が表れその部分からまばゆい閃光がほとばしる。


方向を考えてくれていたのか狼だけがその明かりを直視し、僕は声に言われるまま無我夢中にフォレストウルフを振りほどき走り出す。


どこか、どこかに逃げ場は。


甘かった。魔法を使って少し浮かれていた部分もあったが僕は何も強くなっちゃいない。剣なんてうまく扱えるわけがないし、かっこよく戦闘できるわけがない。


血をぼたぼたと流しながら走っているとフォレストウルフのうなり声が聞こえ追跡が再開されたのが分かった。


恐怖のまま近くの巨木のうろに逃げ込んだ。隙間は人間が体を横にしてギリギリ通れるもので、フォレストウルフの横幅ではぎりぎり通れないように見えたのだ。


ぜえぜえと呼吸を荒げていると、追いついてきたのかうろに体当たりする音が聞こえる。そのたびに大樹は軋みうろの隙間が少しづつこじ開けられられていく。


「申し訳ありません海様、私は攻撃魔法は使えない上に現在の状態では先ほど以上の出力の魔法は放てません。せめて」


ラルの指先から生じた魔法陣から緑の暖かな光が生じ傷口を覆うと出血が止まった。傷は治ってなさそうだがとりあえず痛みが治まったおかげですこしだけ思考が取り戻される。


「あ、ありがとう」


どんどんと体当たりの音が響く。


死ぬ。

確実な死を目の当たりにして冷汗が落ちる。


なにか、なにか手段は。


武器を作るのはだめだ。とても扱えない。


先ほどの光をラルに出してもらっても唯一の入り口はふさがれている。


なにか、なにか。


「ラル!」


「なんでしょう」


「罠とかも作れるって言ってたよな!」


「はい、ただ現在の状態なら簡単なものしか作れませんが。」


メキっと音を立てるうろもう時間がない。やれるかなんてわからないがやるしかない。


「創造神よ。我に万物を生み出す力を与えたまえ、」


血液が加速する感覚。うろの底の手に付けた手に魔法陣が生じる。


「海様!」


フォレストウルフがよだれをたらしながらとびかかってくる。


創造(ザ・クリエイション)!」


と、同時にフォレストウルフは自分の勢いに体を貫かれた。


強く想像したのはいつかゲームで見たようなウッドスパイク。急激に下から出現した巨大な木の棘に自ら飛び込んだのであった。


「はあ・・・はあはあ」


森林の狼(フォレストウルフ) Lv7 HP 0 MP 0


確実に倒したことを確認した海はそのままへたり込んでしまった。初めての勝利などという華々しい気持ちには全くなれない。ただ茫然とうろの底を見つめ続けるしかなかった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ラルが必死にサポートするのが健気でかわいいです 外に出た時の描写が好きです。 初戦闘もあり、読みごたえがありました。 [気になる点] 主人公の感情などで長くなる文章は読点があると読みやすい…
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