旧次元転移施設Ⅰ
異世界へ行く物語といえば何を思い浮かべるだろうか。
トラックにひかれて剣と魔法で無双する話だろうか?貴族令嬢になって下剋上する話だろうか?
異世界からの招待はそんなドラマチックな話にならず唐突に訪れた。
「うああああぁぁぁ」
耳障りな轟音と激しい風圧がようやく消えた。体の節々が痛み、キシキシと音を立てている。
「いてて・・・ここは・・・・」
身体についた土ぼこりをはたき落としながらゆっくりと立ち上がり記憶を呼び起こす。
「確か・・・」
自分はいつもの同じように晩御飯を買いに適当な店まで行って帰るとこだったはずだ。それを裏付けるように背中に背負ったバックには買い漁った食べ物のの重みがあった。そして――そのあとは路地の近くで突如空間に亀裂が発生し崩れ落ちるように吸い込まれてしまったのだった。現状を少し把握して落ち着いた僕、新羅海はようやくあたりを見渡した、薄暗く所狭しとよく理解できない小物がたくさん置いてある様子は実験施設といった印象を受けた。全体的にぼわっとした青白さを帯びており不気味に明滅を繰り返していた。
「なんなんだよこれ!」
理不尽な状況に対する怒りが口をついてで逃げ出そうとして瞬間、何かを蹴飛ばしたことに気が付いた。
「指輪?」
意味不明なものの中に突如現れたまだ理解できるもののをつい拾い上げると
「魔導回路起動」
という無機質が音声が指輪から聞こえ、ホログラムじみたがガラスの様なもので構成された画面のようなもの急に視界に現れまたしりもちをついてしまう。反射で画面の様なものを振り払おうとするがそこには存在していないようで手がすり抜けてしまう。
「なんなんだよこれ!」
混乱しっぱなしだ。そこで施設に先ほどから一人で響き続けていた声に答えるものがいた。
「この画面では現在のLv、残り体力、魔力がリアルタイムで測定され表示されております。」
無機質な声。その方向を見やると半透明で淡い青色の光を放つ精霊のような存在が浮遊していた。
いい加減驚き疲れて言葉を失い精霊を眺め続けて呆然としていたところに少し首をかしげるようにしてもう一度声が聞こえた。
「どうかなさいましたか?」
これは、夢・・?にしてはリアルすぎるし誰かにいたずらにしても最初の空間が裂けた様子などいささか現実離れしすぎている。まさか、突拍子がなさすぎるとは思うが
「どこか別のところへワープしてしまったのか?」
「空間の歪みが規定値を超過しています。恐らく転移などが発生した可能性は高いかと。」
自分で言っていていてばかばかしくなりそうだったが冷静な声でそれを肯定されてしまった。へたり込んでしまいそうになったが危機感が心臓を炙り切羽詰まって思考を繰り返す。こうなってしまったら社会のシステムは自分を守ってはくれない・・・こういう時のお約束・・何か役に立つもの。
「何か強力な武器とか魔法とかもらえて転移するもんじゃないのか!?」
「?使用できる魔法やスキルなどを閲覧したいという質問でしょうか、その場合意識を操作盤の左のアイコンに集中させてください。」
いわれるがままに操作してみると浮いているガラス板が数を増やし表示される内容が数を増やす。上から一つ一つ目を通していく。
:レベル8 HP 182 MP 10 習得魔法 なし 取得職業 ヒューマン スキル 創造神の加護
「レ、レベル8」
平均値が低い・・・という可能性もあるがどう贔屓目に見てもチート級のレベルどころが最低レベルじゃないのか?魔法もなにもなさそうだ・・・ん?創造神の加護?
いかにも強そうな名前のスキルに目を輝かせたが次の瞬間落胆へと変わった。
:創造神の加護 (生産職スキル)生産魔法に使用する魔力を肩代わりし、生産魔法で作成を行う際にかかる時間が大幅に短縮される。
まさかの生産職、効果を見たところ強くなれそうもない。物語のような華やかな冒険譚とは無縁そうだ。
「これでどうやって生き残ればいいんだ・・・・・。」
「推奨、生存を重視した場合この施設には飲料水、食料が見たところないようです。」
そうだ、バックにはいくらか食べ物もあるようだが量もわずか。村を探すか食料を調達するすべを考えなければ飢え死にだ。自分の命が危ないという状況にかえって行動力が湧いてくる。
まだいろんなことがわからないままだし恐怖心もあるが異世界での生活ということに心が湧きたたないわけではない。この映像の様なものように見たことがないような魔法やモンスターを見れるかもしれない。少し前向きになった。まずはここを出なければ。
「ここの装置の様なものは何なんだ?これだけ騒いでいてもだれも来ないしなんか埃のつもり方的に長らくだれも来てなさそうだけど・・・。」
「用途は不明ですがおそらく転移装置かと、しかし作動後の衝撃か今はほとんど動かないようですね。」
「そうなのか・・・?持ち主には悪いし壊れているなら何も持って行かないでおくか。」
こうしてはいられない今も刻々と体のエネルギーは消費されているんだ。
「よしここから出よう。」
外で何が待ち受けているかはわからないが決意を固め、ドアの戸に手をかけた。