06.ついにこの日が2 ※ライナー視点
ソアラが快適に過ごせるよう、裏の畑に野菜の苗を植え、ドレスや装飾品を用意し、塔の隅々まで掃除をした。
俺の魔法を使えば準備するのに時間はかからなかった。
「――それにしてもザビン王子が彼女を追放したのは、あまりに突然だったな」
俺も慌てて準備を済ませると、急いで塔へ転移した。
転移魔法は簡単に使える魔法ではないが、優秀だった曽祖父らの力を受け継いでいる俺は、日に一、二度、二人くらいまでなら問題なく使うことができる。
それ以上となると、さすがに魔力を消費しすぎるので多用できないのだが。
しかし慌てて塔に転移したのはいいが、そこにソアラはいなかった。
「そうか……彼女は馬車で向かっているから、まだまだ着かないか」
どうせなら最初から俺が〝護衛〟という名目で彼女を一瞬で塔まで連れてきてやりたかった。
馬車での移動となると、王都からこの森までは数週間かかってしまう。
そんなに長い距離を移動するのは疲れるだろう。
「ならば、馬であとを追って追い付くしかないか」
そう考え直した俺は、一度王都まで転移して、馬を走らせることにした。
ソアラのもとまで転移できればいいのだが、行ったことのない場所へ転移はできない。
ソアラの居場所は、彼女がつけているはずの腕輪をたどればわかる。
ザビン王子がソアラと婚約した際に贈った腕輪には、俺の部下が王子に頼まれて魔法付与をしたため、俺でも彼女の居場所がわかるようになっている。
ソアラの身を守るためだとザビン王子は言っていたらしいが、あれはたぶん束縛するためにやったのだろう。
まぁ、おかげで迷うことなくソアラを追うことができたのだが。
「俺はもう二度と彼女を失わない……!!」
そう胸に誓い、ひたすら馬を走らせた。
そしてちょうど彼女に追い付いたとき。なぜかソアラは一人だった。馬車は近くにおらず、代わりにタイガーウルフに囲まれていた。
本来の力を発揮すればタイガーウルフ如きにやられるソアラではないだろうが、まだ力の使い方がわかっていないらしい。
ソアラにはかすり傷一つだって、負わせたくない。
だから俺が碧炎を放ち、タイガーウルフたちがもだえている間にソアラの身体を支えて塔まで転移した。
転移のためとはいえ、ソアラの身体を許可なく抱いてしまったことはとても悔やまれる。
紳士的な行動ではなかった。
一言くらい声をかける余裕はあったはずだ。
それなのに俺は……なんて失礼な男なんだ……!!
嫌われていなければいいのだが……。
愛しいソアラと直接顔を合わせて会話できることが嬉しすぎて、俺は頰がにやけてしまわぬよう、必死で唇を堅く結び、きりりと眉を上げた。
気持ちの悪い男だと思われては困るからな。
「しかしソアラの身体は細いのにとてもやわらかく、あたたかくて気持ちよかったな……」
思い出すだけで頰が緩む。本当はもっとしっかり両手で抱きしめてみたい――。
「い、いかん! 俺はなんてことを考えているんだ……!!」
それこそ、突然そんなことをすれば間違いなく嫌われてしまう。
これからこの塔で一緒に暮らすのに、いきなりそんなことはできない。できるはずがない。
彼女に嫌われてしまわぬよう、紳士的に振る舞わなければ。
なんとか自分に「落ち着け」と言い聞かせ、彼女の前では平静を装った。
ともかく。急にこんなことになってしまったのだから、ソアラは混乱しているだろうし、辛く、悲しいに決まっている。
今はこれ以上彼女を混乱させてはいけない。
ソアラは俺を〝監視役〟だと勘違いしてしまったが、今はそういうことにしておいたほうがいいかもしれない。
自分に好意がある男と二人きりで過ごすのは不安だろう。
もちろん俺は、二人きりなのをいいことにソアラに手を出す気は断じてない。
本当はうちの使用人も一緒に来てもらう予定だったのだが、準備があり、遅れている。
とにかく今日はゆっくり休んでもらうことにした。
ここでの暮らしに慣れたら、気持ちを伝えよう。
大丈夫。もう邪魔者はいないし、時間はたっぷりある。焦ってはいけない。彼女の気持ちを考えろ。
今はとにかく、安心してもらうことが先決だ。
「……ああ、しかしソアラは本当に可愛かった」
俺はよく我慢したと思う。
間近で見るソアラがあまりにも可愛くて。
彼女のアメジストのような瞳が俺を見つめていて。
スカイブルーの長い髪がとても美しくて――。
あんなに恋い焦がれたソアラとこれから一緒に暮らすことができると考えると、どうしても胸が熱くなり、そわそわしてしまう。
だから一生懸命歯を食いしばって、表情を引きしめた。
本当に、よく我慢したと思う。
今夜はこの現実をしっかり噛みしめて眠りに就くとしよう。
……まぁ、全然眠ることなどできなかったので、早く起きて彼女に朝食を用意することにしたのだが。
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