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05.ついにこの日が1 ※ライナー視点

「はぁ――」


 ソアラ・ハースは、不思議そうな顔をしつつも納得して俺が勧めた部屋に入っていった。

 その背中を見送った俺も、彼女の隣の部屋に入り、深く息を吐き出した。



 俺がこの日を、どれほど待ちわびていたことか――。



「……ついに彼女と――ソアラと一緒に暮らせる……!! ああ、信じられない……夢のようだ……! 神よ、心から感謝する……!!」


 ドキドキと鼓動が高鳴る。顔が熱い。

 俺は彼女の前で、きちんと平静を保てていただろうか。


 数週間ぶりにソアラの顔を見たが……彼女は今日も可愛かった。


「ソアラの前でだらしない顔をしていないだろうな……」


 鏡の前で自分の顔を確認してみる。意識してキリッと険しい表情を作っているが、頰の辺りが緩んでいるような気がする。


「俺もまだまだ修行が足りないな……」



 ザビン王子が予定より早くソアラをこの森の塔へ追放してしまったと聞いたときは、少し焦った。


〝王子がソアラを魔女だと言い、婚約を破棄して森へ追放しようと企んでいる〟という情報は、俺の耳にすぐに届いた。


 俺の耳には逐一ソアラに関する情報が入ってくるよう、部下に頼んでおいたのだ。


 神殿に聖女と認定されているソアラを、国王の留守中に独断で追放するとは……。

 末の王子は噂以上にろくでもない男らしい。


 俺はすぐに神殿長にこのことを伝え、国王が帰国するまでの間、俺が〝魔女の塔〟でソアラの安全を守ると約束した。


 神殿も、王家と揉めたいわけではない。

 ただ、ザビン王子がしたことは許せない。

 国王が帰国し次第、彼のことは厳重に処罰してもらわなければ。




 俺が何年もの間ずっと探していたソアラを見つけたのは、一年前のあの日――。


 俺たち神殿の者は、定期的に各地を巡礼して回っている。

 その巡礼には、聖女候補となる光魔法が使える者を探す目的も含まれていたため、俺も志願してその一行に加わっていた。


 そしてあの日。光魔法を使える者がいるという噂を聞き、俺たちは急ぎハース領へ赴いた。


 ずっと探していた彼女は、そこにいた。


 忘れもしない愛らしいスカイブルーの長い髪に、アメジストのような紫の瞳。なめらかで白い肌に華奢な身体。


 とても美しく成長していたが、間違いなく彼女だった。


 彼女の姿を見た俺は、胸を打たれるような想いを感じた。

 彼女から目が離せなくなり、息が苦しくなり、涙が溢れそうになった。


 とにかく、俺たちは光魔法が使える彼女を聖女候補として神殿に連れ帰った。



 彼女の名前はソアラ・ハース。男爵家の長女で、両親と二つ年下の弟は病弱だった。

 貴族の生まれだが、家は裕福ではなかった。

 だから、家族には好きに会いに行っていいこと、もし家族が体調を崩したらすぐに医師に診てもらえるよう手配してやること、薬が必要なら金も工面するということを神殿に約束させ、ソアラには王都にいてもらえることになった。


 ソアラの幸せも、ソアラの家族の幸せも――これからは俺が守る。

 やっと見つけたソアラ。もう二度と離さない。


 そう胸に誓い、時期を見て彼女に結婚を申し込もうと決めた。


 ずっと彼女を捜していた俺は、結婚相手はソアラ以外に考えられなかった。

 そしてようやくソアラと会えた喜びに、しばらくの間打ち震えていた。


 ずっと、ずっと想い続けていた相手なのだ。

 美しい大人の女性に成長した彼女の前に出ると、ろくに会話ができなかったのも、仕方ない。


 しかし俺がもたもたしている間に、「新しい聖女に会いたい」と言ったザビン王子が一目見てあっさり彼女に求婚してしまった。


 俺も彼女も、王子からの結婚の申し込みをどうすることもできず、二人の婚約は簡単に結ばれてしまった。


 あのときの悔しさは今でも覚えている。

 なぜすぐに伝えなかったのだ。気持ち悪いと思われても、この想いを伝えておくべきだった。

 俺はずっとずっと彼女を想っていたというのに、一目見ただけの王子に奪われてしまうなんて……!

 何度も悔やんだ。


 ソアラと結婚できないのなら、もう誰とも結婚しない。

 ソアラと結婚できないのなら、せめて静かに彼女を見守ろう……。


 そう思って過ごしていたのだが、それからソアラには王子の妃となるための厳しい教育が始まり、聖女としても働かなければならなくなった。


 すると忙しい彼女にまったく相手にしてもらえないと、ザビン王子がソアラの不満を漏らすようになっていった。


 その後、他の女を囲うようになったザビン王子の態度には腹が立ったが、ソアラと婚約して半年を過ぎた頃から、ザビン王子がソアラとの婚約を白紙にしたいと思っているという話を聞き、これはむしろチャンスなのでは? と考えるようになった。


 ソアラと王子の婚約がなくなったら、俺がすぐに彼女に結婚を申し込もう。

 聖女は王子と結婚しなければならないという決まりはないのだから。


 そう思っていたら、ソアラが闇魔法を使っているところを見たらしいザビン王子が、「ソアラは魔女だ」と言い始めた。


 確かに闇魔法はかつて魔女が使っていた力だが、それだけでソアラを魔女だと決めつけるとは……。

 呆れた。そもそも魔女が悪であるという考え方がもはや古い。


 だが、ザビン王子がソアラを追放しようとしているのは〝迷いの森〟だった。

 あの森には〝魔女の塔〟があり、その塔は人嫌いだった俺の曽祖父が別邸として買い取ったということを思い出した。


 曽祖父も祖父も父も、とても強い魔力を持っていた。だからあの塔周辺は魔物に襲われないよう、結界が張ってある。

 祖父亡き後、父がそれを引き継ぎ、定期的に結界の張り直しや管理を行っている。

 転移魔法ですぐに行くことができるため、俺も子供の頃遊びに行ったことがあるが、塔の近くには綺麗な川も流れているし、緑も綺麗ないいところだ。


 もしあの塔でソアラと暮らせるなら――。


 それを考えるだけで動悸がした。


「それが叶ったら、俺は死んでしまうのではないだろうか……!?」


 期待に胸を膨らませ、どうやって彼女とあの塔で暮らそうかと考えながら、こちらはこちらで着々と準備を進めていった。



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