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35.避けられている? ※ライナー視点

「――ソアラ」


 翌日の朝食後。

 食事を済ませるとすぐに食堂を出ていったソアラを俺は追いかけ、呼び止めた。


「はい……!」


 食事中、俺とまったく目を合わせてくれなかったソアラは、俺の呼びかけにびくりとわかりやすく肩を震わせた。


「いきなり呼び止めて驚かせてしまったな。すまない」

「いいえ……」

「具合はどうだ? 昨日は飲み過ぎてしまったようだから」

「平気ですよ」

「そうか、よかった」

「……」

「……」


 ソアラはこちらを振り返ってくれたが、やはり目を合わせてくれない。


 ……気まずい空気が漂っているのがわかる。


「そうだ、遅くなってしまったが、ソアラに勧めてもらった小説をすべて読み終えたんだ」

「お仕事をしながらでしたものね」

「十回ずつ読んで、やっとすべての内容を記憶した」

「え? 十回ずつ読んだ……?」

「ああ、俺はそんなに賢くなくてな。特にこの手の話は慣れていないから、一度読んだだけではすべての台詞を覚えられず」

「待ってください、別にすべての台詞を覚える必要はないと思いますけど……?」

「え? そうなのか?」

「はい……」


 ソアラがようやく俺の目を見てくれた。嬉しい。可愛い。

 ……だがその瞳は、明らかに動揺していた。


 ソアラが好きなものはすべて把握したいと思っただけなのだが……もしかして、俺はこういうところが気持ち悪いのだろうか。


「どの作品もとても参考に――いや、とても面白かった。ぜひ感想を語り合いたいのだが、よかったらこの後俺の部屋で――」

「ごめんなさい、ライナー様。それはまた今度でもよろしいでしょうか?」

「え? あ、ああ……」

「すみません、それでは、また」

「あ……」


 ソアラはまた俺から目を逸らし素早く頭を下げると、そのままぴゅーっと走り去ってしまった。


「…………」


 避けられている……?


「何かあったんですか?」

「……ニコ」


 朝食の間、俺たちが目を合わせないことに気づいていたのか、絶妙なタイミングでニコが後ろから声をかけてきた。

 今のやり取りも見ていたのだろうか。


「実は、ソアラに俺の日記を見られてしまった」

「え!? ライナー様のあの日記を!?」

「ああ。それからソアラが素っ気ない気がする……」


 俺の言葉を聞いて、ニコは大袈裟に身を仰け反らせてその言葉を繰り返した。


「あの日記を……見られたんですか、ソアラ様に……。あーあ、だから言ったのに……。きっと引いちゃったんでしょうね、ソアラ様」

「……やはりそうなのだろうか?」

「そうですよ。あと、勧めてもらった小説の内容や台詞をすべて覚えてくるのもどうかと思います。そんなことしなくていいから、もっと早く感想を伝えるべきでしたね」

「なに!? しかし、しっかり読み込まなければ正確に受け答えすることが……!」

「真面目ですか。そういうところですよ。ライナー様は、はっきり言って重いです。いちいちそんなことをしていたら、お二人が結婚できるのは来世になりますよ」

「そんな……!」


 ずばり、と告げられたニコの言葉に、衝撃を受ける。

 俺は色恋沙汰には疎い。ここは大人しくニコの意見を聞いておいたほうがいいのだろう。

 現にソアラは、俺を避けていたのだから。


「俺はただ純粋にソアラが好きで、真摯に向き合いたくて……」

「俺は知ってますけど、ライナー様は不器用なだけだって。でもソアラ様は、ライナー様のことをよく知らないですからね。自分の監視役だと思っていた男が、何年も前から自分のことが好きで、この塔で一緒に過ごすこともすべて計画のうちだったなんて知ったら……やっぱりちょっと怖いと思いますよ」

「……大変だ。ならば、すぐにこの想いをしっかり伝えてこなければ……!!」

「落ち着いてください! 今のあなたが彼女の部屋に押し入ったら、余計怖がらせますよ」

「……では、一体どうすれば……!」

「とりあえずもう少し様子を見ましょう。彼女の中でどう整理をつけるかわかりませんが、もしかしたらライナー様の気持ちを受け入れて普通に接してくれるかもしれませんし。……まぁ、普通だったら逃げ出したくなるでしょうけど」

「……!」


 ぶつぶつと小声で呟かれた後半の言葉に、また衝撃を受けた。

 今すぐソアラに「俺は怖くないぞ」と伝えに行きたいが、今はニコの言うことを聞いておいたほうがいいのだろうか。


「とにかく、もう少し様子を見ましょう?」

「……ううん」

「大丈夫ですよ。もしソアラ様がこの塔から逃げてしまっても、結界の力でわかるんですから。そうなったら()()()()()()()()()()、ライナー様のおそばにずぅっといてもらいましょう!」

「……う、ううん?」


 とても爽やかな笑顔で語られた言葉に一瞬納得しかけたが、ニコのほうが俺よりよほど怖いことを言ったのではないだろうか?


 とにかく、もう日記を見られてしまったのだから仕方ない。

 あれには俺の想いのすべてが書かれているのだ。

 俺は自分の気持ちを隠すつもりは一切ない。


 もし気持ち悪いと言われたら、それは俺を拒否されているのと同じだ。

 そのときは俺の想いがソアラに届かなかったのだと思って諦めよう……。いや、諦めはしないが。


 今の俺にできることは、この愛が純粋なものだとソアラに伝わるよう、祈ることだ。



明日で本編完結予定です!!


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