34.見られたのか? ※ライナー視点
ソアラの十八歳を祝う誕生日パーティーは、とても素晴らしい会になった。
ソアラはとても喜んでくれたし、俺の想いを伝えることもできた。
更に、なんと彼女も俺のことを好きだと言ってくれたのだ。
ああ……信じられん。
これは夢ではないだろうかと何度も考えたが、シシーとニコとワインで乾杯しても、目が合う度にソアラが俺に微笑んでくれるのを見て、幸せを実感した。
何度頰をつねってみても、痛かった。これは夢ではない。
……もう死んでもいい。
そう思ったが、これから想像を絶するほど幸せな日々が待っているのかと思うと、死んでいる場合ではないなと思った。
しかし俺は自分の運のすべてを使い果たしてしまったのではないだろうかと思ってしまうほど、今まで生きてきた中で最高に幸せだった。
「ふっ……たとえ明日雷に撃たれても文句は言えないな。いや、魔物に襲撃されるかもしれない。まぁ、何があってもソアラのことだけは命に替えても守るが」
しばらくパーティーを楽しんでいた俺たちだったが、酒を飲み慣れていないらしいソアラが酔ってしまっていることに気がついて、その場はお開きとすることにした。
すっかり酔ってしまったソアラは先に部屋に帰した。
部屋まで送ると言ったのだが、すぐそこだから大丈夫だと言われてしまった。
それでも迷ったのだが、ニコとシシーの二人だけに片付けを任せるのはさすがに彼らが大変だろうと思い、俺は広間に残ることにした。
ここには三人しかいないのだ。家具をよけて大がかりな飾り付けをしたから、俺の魔法で片付けてしまったほうが早い。
ニコとシシーは俺に無駄な魔力を使わせるわけにはいかないと言ってくれたが、ソアラのためのパーティーだったのだ。何一つ無駄ではない。
その後、広間がある程度片付いたので、俺も自室に戻らせてもらうことにした。
ソアラは大丈夫だろうか。
そんな心配が頭をよぎったが、ソアラは既に部屋で休んでいる。
想いが通じ合ったとはいえ、夜遅くに部屋に押しかけるような無礼な男は嫌われてしまうかもしれない。
だからシシーに、後ほど様子を見に行ってもらうよう頼んで、俺はまっすぐ自室に向かった。
だが、俺は自分の部屋に入ってすぐ、異変に気がついた。
「……誰かが部屋に入った?」
ゴミ箱が倒れ、ソアラへの手紙を何度も書き直した際に丸めて捨てた紙が床に転がっていた。
それだけではない。
ベッドの上の毛布が、不自然に人の形に沈んでいる。まるで誰かが横になっていたように。
「……まさか、ソアラが?」
それを想像して、ドキリと鼓動が鳴る。
自分の部屋と間違えて、ソアラが俺のベッドに横になったのだろうか。
……もしそうなら、大歓迎だ。シーツはもう一生洗えないな。
なんてことを考えながら自分に「落ち着け」と言い聞かせ、机に向かってはっとした。
机の中心に、俺の日記が置いてある。パーティーぎりぎりの時間まで手紙を書いていたから、一番上には便せんが置いてあったはずなのだが――。
「まさか……」
ニコもシシーも、俺とずっと一緒にいた。
ああ……まさか、まさか――。
「この日記を、ソアラに見られたのか……?」
一瞬にして、いろんな思考が頭の中を巡った。
ソアラに気持ちを伝える際、本当は手紙ではなく、いっそこの日記をそのまま贈ることも一瞬考えた。
〝ここに俺の気持ちのすべてが詰まっている!! 読んでくれ!!〟
やはりあんな手紙だけでは、俺の愛の大きさは伝わらない。俺の気持ちはあんな手紙数枚で書き切れるほど小さくはないのだから。
だが、ニコに言われたのだ。
〝気持ち悪いんで、絶対にやめてください〟
……と。
俺の想いは、気持ち悪いらしい。
だからニコに全力で止められたのだ。
しかし、結局ソアラに見られてしまったのかもしれない。
「ソアラは、どう思ったのだろう」
やはり、気持ち悪いと思っただろうか……。
「……もしかして、嫌われてしまった、か?」
先ほど想いが通じ合ったばかりだというのに……。やはり俺はあの瞬間に、すべての運を使い果たしてしまったのかもしれない。
ソアラに気持ち悪いと思われて嫌われてしまうくらいなら、いっそ雷に撃たれたほうがましだ。
「ああ……そんな。明日、ソアラはどんな顔で俺に会ってくれるのだろうか……」
隣の部屋にいるだろうソアラを訪ねて、聞いてみようか。
だが、怖がらせてしまうか……?
いや、俺はとても純粋な気持ちでソアラが好きなんだ!
わかってほしい……!!
それをすぐに伝えるべきか……?
「……っ」
しかし、ソアラはもう寝ているかもしれない。
不安と期待が入り交じる複雑な想いを抱きながら、俺は部屋の中をうろうろしながらその夜を過ごした。