32.夢のような贈り物
……夢のような時間だわ。
私は心の中で、こんなにも幸せな瞬間があることに感謝しながら、ライナー様とともに優雅にダンスを踊っていた。
好きな人とこんなふうに手を取り合い、見つめ合いながら踊ることが、こんなにも素晴らしい体験だなんて、これまで気づかなかった。
会話を交わさずとも、心と心が繋がるようなこの感覚は、まるで魔法をかけられているようだった。
これがザビン様とのダンスとはまったく違う、特別な感覚なのだと実感する。
「……」
「ソアラ、どうかしたのか?」
「……いいえ、なんでもありません」
ライナー様の真剣な眼差しに心奪われながら、私はふと気づく。
胸が熱く、感情が溢れそうになっている。
だから涙がこぼれそうになるのを必死に堪えて、まぶたを伏せた。
どうしてこんなに心が揺れるのだろう。悲しいわけではないのに。とても楽しくて、素敵な時間が続いているのに。
私はずっと、ライナー様とこうして一緒にいたいと願っているんだわ。
ライナー様のことが好き。
私の監視役がライナー様で、本当によかった。
たとえ想い合うことが許されない人だとしても……それでも、ライナー様と出会えて私は幸せ。
「――こちらへ」
「はい」
しばらく夢中で見つめ合い、ダンスを堪能した後、ライナー様が私をバルコニーへと誘導してくれた。
ニコとシシーの姿は見えないし、まるで二人きりの世界になったような錯覚をしてしまう。
「――?」
そのタイミングで、突然広間の明かりが一斉に消えた。驚きで思わずライナー様の手をぎゅっと強く握ってしまう。
「大丈夫。見てごらん」
ライナー様の落ち着いた声に、恐る恐る目を開けると、目の前に広がったのは空一面の星空だった。無数の星々が、まるで私たちのために輝いているようだ。
「……わぁ――!」
その美しさに、私は息を呑んだ。
王都では見ることのできなかった、この広くて輝かしい星空。今夜の空は特に美しく感じる。
「……なんて綺麗なのかしら」
「誕生日おめでとう、ソアラ」
「え……?」
隣で私の手を握りしめているライナー様が、優しく囁いた。そして彼が指をパチンと鳴らすと、空にいくつかの光が流れる。流星のように夜空を切り裂くその光景は、私の心に深く刻まれる。
「まぁ……とても……っ、とても素敵です」
こんなにも美しい空を見たのは初めてだわ。
今夜は特別な夜であることが、肌で感じられる。
「今日が私の誕生日だと、知っていたのですね」
「そうだ。どんな宝石よりも美しいこの星を、ソアラに」
「ライナー様……」
彼の言葉は、まるで小説の中の一節のようで、私の心に深い感動を与えた。喜びで、素直に胸が熱くなる。
まさかライナー様が、私の誕生日をこんなに素敵に祝ってくれるなんて、夢のよう。
すごく、すごく嬉しい。世界で一番幸せな誕生日を過ごしているのは、間違いなく私だわ。
「ありがとうございます……」
「……それから、ソアラに手紙を書いてきたんだ」
「手紙?」
心からの感謝の気持ちを込めてそう言うと、ライナー様は懐から一通の手紙を取り出し、私に差し出した。
「ソアラ……聞いてほしい」
「はい」
手紙を受け取ると、ライナー様は気合いを入れるように咳をして、その場に片膝をついた。
その姿に、私の心臓は再び激しく脈打つ。彼の目が真剣で、熱い。まるでこの瞬間のために、心を込めているかのようだ。
「ソアラ、俺はあなたのことが好きだ」
「え――?」
「とても、とても……言葉では表せないほどに、ソアラのことが大好きだ」
「……ライナー様」
その言葉が私の心に響く。
ライナー様が、私を好き? 本当に?
これは現実なのか、それとも夢の中のできごとなのか、理解するのに少し時間がかかる。
「あなたは聖女だ。いずれ、王都に帰ることができるだろう」
「……」
「だから、そうなる前にどうしても俺の気持ちを伝えておきたかった。俺は誰よりも、あなたのことを愛している」
「――っ」
あまりにも突然で、あまりにも信じられない告白に、私の心は一瞬混乱する。
ライナー様はまた、ピンクスネークに噛まれて毒にやられているのではないだろうかとか、うっかり私が作った惚れ薬を飲んでしまったのではないだろうかと、考えてしまう。
「……本当ですか? 正気ですか、ライナー様」
「正気だ。もうこの気持ちを抑えておけない。手紙に俺の想いを込めたが、それだけでは足りなかった。あなたの手に触れ、見つめ合い、ダンスを踊ったら……俺の気持ちは溢れ出てしまった。好きだ、ソアラ。本当に……大好きなんだ」
「……ライナー様」
とても熱い眼差しに、確かに彼の真摯な気持ちを感じる。
先ほどのダンスで感じた彼の情熱が、ここで一層明らかになる。
ああ……なんという素敵な贈り物かしら。これ以上のプレゼントはないわ。
ライナー様の瞳はまっすぐに私に向いていて、その目に緊張の色はあるものの、正気であることは間違いなさそうだ。
「嬉しいです……夢のようです」
「ソアラ――」
「私も好きです、ライナー様」
嬉しくて、涙がこぼれそうになった。
それをなんとか堪えて、にこりと微笑む。
ライナー様の頰がわずかに赤くなり、彼の感情が私にも深く伝わってくる。
「ほ、本当か!?」
「はい」
「これは夢ではないな? 俺の妄想でも――」
「違うと思います」
「ああ……なんということだ」
自分の頰をつねり、混乱したように瞳を彷徨わせるライナー様は、やがて唇を震わせて空を仰ぎ、目元を手のひらで覆った。
けれどその頰が赤くなっていることに、私は気づいてしまう。
ライナー様は、本当に私のことが好きなのね……。
信じられない思いだけど、その反応を見れば信じられる。とても嬉しい。
「ああ……ソアラ……ありがとう。本当に嬉しい、夢のようだ」
「ふふ、私も同じ気持ちです、ライナー様」
十八歳の誕生日に、私は好きな人と想いが通じ合うという、とても素晴らしい経験ができた。
今夜は間違いなく、私の人生で最も素敵な日になったわ。
けれどこのときはまだ、ライナー様が私のことをどれほど強く想ってくれているのか――本当の意味では、わかっていなかった。