30.結婚したい2 ※ライナー視点
ついに、ソアラとパーティーに参加できる――。
この世で唯一心惹かれた女性、ソアラと……!!
これまで俺は、社交の場が苦手だった。
侯爵家の嫡男として生まれた俺には、昔から縁談の話が絶えなかった。次期侯爵という俺の地位に目を輝かせ、婚約者の座を争い合う女性たちの蹴落とし合いにはうんざりだった。
それに俺には、心に決めた相手がいた。もちろんソアラのことだ。
それで早くに神殿に仕える聖騎士となり、社交の場には極力顔を出さないようにしていた。
神殿という神聖な場所にまで押しかけてくる女性はいなかったし、各地を回る巡礼が多くなったため、その手のことから逃げることができたのだ。
そのおかげで、俺はソアラと再会することもできた。
そんなソアラと参加するパーティーなら、大歓迎だ。というか、俺がソアラをエスコートし、ともに踊る日をどんなに夢見たことか。
この塔で、たった四人しかいないパーティーだということはわかっているが、それでも俺には夢のようなことだ。
もちろん、ソアラが誘いを受けてくれたら、の話だが。
もし誘いを受けてくれたら、ソアラが喜んでくれるよう、精一杯努めよう。
「――ライナー様、お風呂いただきました。いつも先に入ってすみません」
「いや、構わない」
そんなことを考えていたら、風呂から上がってきたソアラが部屋着姿で広間にやってきた。
まだ髪が濡れており、肩にタオルをかけている。
……何度見ても本当に可愛いな。
「髪を乾かそう」
「ありがとうございます」
そう口にして、ふと昨夜読んだ小説の一節を思い出した。
ヒロインの女性が、騎士にときめいている描写があったのだ。
たった一言の、相手を呼び寄せるときに使う簡単な言葉。
ヒロインがなぜその言葉にときめいたのかはよくわからなかったが、一瞬の判断で俺もその言葉を口にしてみた。
「――おいで」
「……!」
小説の中に出てくる騎士の真似をして柔らかく微笑んでみると、確かにソアラの肩が一瞬ピクリと跳ねたような気がした。
「…………お願いします」
「ああ」
だが、ソアラは顔を隠すように俯いて、さっと俺に背中を向け座ってしまった。
髪を乾かすのだから、当然こうなるのだが……。
やはり、こんな一言にときめくはずはないのだろうか?
いや、俺が普段からもっと、小説に出てきた騎士のように勇ましく戦うところをソアラに見せていれば、違ったのだろうか。
今度森から魔物を連れてきて倒してみようか……いや、無意味にソアラを怖がらせてしまうな。
……うーん。なかなか難しいな。もっとよく読み込んで勉強しなければ。
複雑な気持ちになりながらもソアラの髪を手に取れば、強張った俺の心は一瞬でほどけていく。
ああ……、ソアラの髪はなんて柔らかくて気持ちがいいのだろう……。
それにとてもいい匂いがする。正気を保つのが本当に難しい。
あの日、川に落ちて濡れてしまったソアラを風魔法で乾かして以来。俺がソアラの髪を乾かすようになった。
堂々とソアラの髪に触れることができるこの時間は、俺にとって至福のときだ。
長くて美しいスカイブルー色の髪に触れ、ゆっくりと乾かしていく。
風魔法が使えて本当によかった。
……本当は髪くらい一瞬で乾かせるのだが、少しでもこの時間を長引かせたいから、少しずつ風を送って乾かす。
「ソアラ」
「はい、ライナー様」
「今週末、この塔でパーティーを開くことになった」
「え? パーティーですか?」
「ああ。俺たち四人だけのパーティーだが、ぜひ俺と一緒に参加してほしい」
「……はい、わかりました」
「参加してくれるか、ありがとう!!」
「……? はい」
髪を乾かしながら、勢いでソアラを誘うことに成功した。
よかった。頷いてくれた!
顔を見ながらだと、こんなにスムーズに誘えていなかったかもしれない。
それに今の俺はおそらく、とても緩んだ表情をしているだろう。こんな顔、ソアラには見せられない……。だからやはり、ソアラが背中を向けてくれていてよかった。
しかし、ソアラの髪は本当にいい匂いがするな……。ああ、好きだ。
「……結婚したい」
「え?」
「――え?」
「ライナー様、今……」
「…………あ、いや……! さぁ、乾いたぞ、俺も風呂に入ってくる!」
「……はい、ありがとうございました」
まずい。心の声が漏れてしまった……!!
口から漏れ出た心の声に、弾かれるようにこちらを向いたソアラ。
はっとして一瞬で髪を乾かし終えると、俺は誤魔化すように立ち上がって広間を出た。
大丈夫か……? ソアラに聞こえてしまっただろうか……? 突然あんなことを言うなんて、変に思われたか……!?
「ああ……俺は突然なんてことを言ってしまったんだ……」
浴室で一人、俺は何度も溜め息をついて頭を抱えた。
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