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24.このまま俺だけの ※ライナー視点

「ライナー様」


 塔に戻ってすぐだった。ソアラはどこにいるだろうかと考えていた俺の耳に届いたのは、愛しい愛しい人の声。


「……どうかしたのか?」


 こちらへ駆け寄ってくるソアラに、胸が熱くなる。今日も可愛い……。

 だがそんなに慌てて、何かあったのだろうか?


「今朝は朝食を一緒にとられなかったので、どうしたのかと……」

「!」


 俺の前まで来ると、ソアラは少し照れたように頰を赤く染めながら呟いた。

 まさか、心配してくれたのか?


「シシーには用事があって少し離れているだけだと聞いていましたが、もしこのまま監視役が他の方と変わってしまったらと思うと……」

「何?」


 思うと? その続きは!?


「あ……いえ、なんでもありません……」

「……っ」


 ソアラの口から紡がれた言葉の先がとても気になるが、食い気味に声を上げてしまった俺にはっとすると、彼女は口を噤んでしまった。


 聞きたかった。監視役が俺ではなくなったら、どうだというんだ……!?


 とても惜しいが、ソアラの恥ずかしそうな表情も可愛いすぎて、今すぐ抱きしめたくなる衝動をなんとか堪えるのに必死だった。


「……そうだ、これをあなたに買ってきたんだ」


 だから自分を落ち着けるよう深く息を吐いて、買ってきたタルトを差し出した。


「これは……どうされたのですか?」

「シシーから、あなたが甘いものが好きだと聞いて。今までまったく気が利かなくてすまない」

「いいえ、そんな……! ですが、まさかそれでわざわざ買ってきてくださったのですか?」

「ああ」


 女性に贈り物などをした経験がない俺は、こういうときどう言って渡すのが正解なのかもわからない。


 彼女があまりに驚いたから、もしかしたら何かおかしなことをしてしまったのかもしれないと思った。

 だが。


「嬉しいです……。とても嬉しいです……! ありがとうございます」

「……いや」


 花が咲いたようにぱぁっと笑ったソアラがあまりにも可愛くて、可愛すぎて……一瞬、くらりと目眩がした。


「ライナー様も甘いものがお好きだと聞きました。一緒に食べましょう」

「ああ……!」


 倒れてしまいそうになったが、なんとか持ち堪えて彼女の提案に頷く。


〝一緒に食べましょう〟か……。ふふ、まさかソアラのほうから誘ってくれるとは……。


 嬉しすぎて、今夜は眠れそうにないな。




 そのままともに広間へ向かった。シシーもニコもいないようだ。


「今お茶を淹れますので、ライナー様は座っていてください」

「ありがとう」


 率先してティーセットを用意するソアラに、素直に頷く。


 ソアラがお茶を淹れてくれるのか……。幸せだ。


「このくらいかしら……?」

「……」


 ソアラの後ろ姿を眺めながら、俺はソファに座ってこの幸せなひとときを堪能した。


 まるでこれは夫婦だな。新婚夫婦のお茶の時間だ。


「あれ? ちょっと濃いかしら……?」


 ぶつぶつと独り言を言っているソアラ。

 お茶を淹れるのも苦手なのだな。……可愛い。


「すみません、うまく淹れられたかわかりませんが……」

「大丈夫、美味いに決まっている」

「え?」


 彼女が振り返ってお茶を運んできてくれたから、慌ててにやけていた表情をさっと引きしめた。


「少し苦いですね……」

「甘いタルトにはちょうどいい」


 二人で向かい合う形で座り、ソアラが淹れてくれたお茶を一口。

 ソアラは眉根を寄せたが、俺にはとても美味く感じる。

 

「タルトはとっても美味しいです!」

「そうだな。タルト()美味い」


 買ってきたタルトも切り分けてともに食べた。ソアラと食の好みが合うのが俺はとても嬉しい。


「ライナー様は本当にお優しいですね」

「そんなことはない。思ったことを言っただけだ」

「……最初は怖い方かと思っていましたが、全然違いました」

「そうか……怖い思いをさせていたんだな」

「あ、でも本当に最初の、少しだけです! すぐに優しい方だとわかりましたから! 私の監視役がライナー様で本当によかったです。……できれば、もっと違う出会い方をしたかったですけど」

「何?」


 独り言のように呟かれた最後の言葉に、俺の身体は大きく反応した。


 俺と、違う出会い方をしたかった、だと……?

 それはどういう意味だ? どういう出会い方をしたかったんだ……!?


 今すぐソアラの手を握って、まっすぐ目を見て、質問攻めにしたい。

 しかし、先ほども気になることを言っていたが、深く追求するのは失礼だろうか?


 ……だが聞きたい。聞いてもいいのか……? 誰か教えてくれ……。


「ところでライナー様、それはなんですか?」

「あ……そうだ。これもあなたに」


 もんもんと悩む俺に、ソアラが問うた。

 渡すタイミングを逃して、ずっと俺の隣に置いておいたブレスレットの入った箱。

 ソアラのほうから聞いてくれたので、すぐに彼女に手渡した。


「……私に、ですか?」

「ああ。あなたに似合うと思って」

「……まぁ、なんて素敵なブレスレット……!」

「このブレスレットには変な魔法付与はされていないから、安心してほしい」


 以前ソアラがつけていた腕輪には、ザビン王子が彼女の居場所がわかるよう、魔法付与させていた。

 その力は俺が解除し、跡形も残らず破壊しておいたのでもう安心だが。


「これを、私にくださるのですか……?」

「ああ、気に入ってくれるといいのだが」

「とっても素敵です。ですがこんなに高価なもの、いただけません……!」


 困惑している様子のソアラに、どう言えばいいのだろう。

 タルトはともかく、やはりアクセサリーを贈るというのは、特別な意味があるのだろうな。

 そこら辺に咲いていた花とも違うわけだし。


「前にあなたが持っていた腕輪は俺が壊した。その詫びだ。迷惑でなければ、もらってほしい」

「ですが……」


 やはり女性に贈り物をするとき、どう言えばいいのかわからない。

 もっと勉強しておくんだった。


 ……そうだ!


「あなた以上にこのブレスレットが似合う人はいない。だからどうか、受け取ってくれないか?」

「――ライナー様……」


 ソアラに勧めてもらった小説で読んだ一節を思い出し、真似してみる。

 その小説の中で、騎士がヒロインの前に跪き、手を取ってそのようなことを言いながら宝石を贈っていたのだ。


「ありがたくちょうだいいたします……ですので、お顔を上げてください」


 椅子に座っていて跪くことはできなかったが、胸に手を当てて紳士らしい礼をした。

 そうしたらソアラも、小説の中のヒロインのように応えてくれた。

 ソアラの頰がほんのりと赤く染まっている。可愛い。可愛い……!!


「小説をお読みになったのですね」

「ああ」

「ふふ、面白いです、ライナー様」


 小さく笑ってくれたソアラに、ほっと胸を撫で下ろす。


 よかった。引かれてはいないようだ。やはりソアラに勧めてもらった小説は勉強になるな。これからももっとたくさん読んで勉強しよう。


「……ですが、本当にいただいてよろしいのですか?」

「もちろん! あなたはいつも回復薬を作ってくれている。あれを作れるのはあなただけだし、簡単に作れるものでないということはわかっている。だからその礼も兼ねて――」

「……ありがとうございます。大切にします」


 そこまで言ったところで、ソアラはふわりと笑ってブレスレットを胸に抱きしめた。


「……」

「ライナー様?」

「いや……、受け取ってもらえて、よかった」


 そのあまりの可愛さに、つい目の前のソアラにみとれてしまった。

 ソアラは本当に可愛い。まさに神が作り出した天使のようだ。


 彼女の前で平静を保ち続けるのは、本当に難しい。



 それからは二人静かにタルトを食べて、お茶を飲んで、ゆっくりと時間を過ごした。


 とても幸せな時間だった。

 このままこの時間がずっと続いてほしい。このまま、俺だけのソアラに――。


「本当に美味しいタルトでしたね。シシーも喜ぶかしら」

「……」


 思わずそう望んでしまったが、ソアラから発せられた言葉に現実へと引き戻される。

 ソアラはまだ若い貴族令嬢だ。

 シシーと楽しそうに話しているのを見ると、本当は華やかな社交の場に行って踊ったり、友人と話したりしたいだろうなと、思う。


 彼女が望むものはなんでも与えてやりたいと思っているが、ずっとここにいてはそれを叶えてやることはできない。


 シシーと話すときと俺と話しているときでは、ソアラの表情が違う。

 シシーとはリラックスできているのがわかる。


 本当は少しでも長く俺がソアラとの時間を過ごしたいが、女性同士の時間も大切だということは理解している。


「……後でシシーとニコにもこのケーキをやろう」

「そうですね! とても美味しいので、二人ともきっとすごく喜びます!」

「ああ、そうだな」


 それでも俺の前でも笑ってくれる時間が増えた彼女に、やっぱりこの気持ちを正直に伝えようと、心に決めた。



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